初仕事
翌朝、家事ギルド前で集合した。
「昨日はとんでもなかったな。」
そう、昨日は止まるところがなかったので、ギルドで寝泊まりしていたのだ。
一応、24時間体制で、常に人がいるらしいので、身の危険は感じなかったのだが……。
「……宿泊は構いませんが、宿泊料は、払ってくださいね?」
ルマさん、いや、ルマ様とは『話し合い』の末、今回の報酬から宿泊料を天引きで……、ということでひとまずの決着を見た。
「まぶしい。」
朝日が昇り、やや寒い体を温める。
グラーニンさんはいつ来るんだろうか。
そんなこんなで、待っていると馬車が来た。
装飾のついた、金属製の輪郭に、木製の席がついている。
「そら、乗るといい。」
グラーニンさんだ。
「はい。今日からよろしくお願いします。」
こうして、グラーニン邸へと向かったのだった。
……馬車で背後からメイドが見ていたのに気づいたのは出発してからだった。
……そうだよな、ギルドの構成員になったんだ。
迷惑かけないようにしないと。
などと、考えていた時だった。
「コホン、さてさて、今日から君は庭や畑での害獣駆除を行ってもらうわけだが。」
ふむ。
手違いというか、解釈の齟齬というかで、安全と思っていた依頼が、そうではなかったと昨日判明したのだ。
「その前に。」
「君が提示した条件、君の呼び名だ。」
「はい。」
そう、この世界で俺を知る人はいない。
名前もそうだ。
「私の名前がグラーニンでね……、そこからとって……。」
そんなこんなで、馬車に揺られて2時間くらいだろうか?
グラーニン邸へとついた。
「これは……、すごい豪邸ですね。」
「ふむ、自分で言うのもなんだが、この辺りでは一番広い屋敷だね。」
少し得意げだ。
赤いスーツに赤いハット。
そして杖。
グラーニンさんはそんな格好だ。
「さて、庭と畑、そして君の部屋と別邸を紹介しよう。君は屋敷の部屋にいてもいいし、別邸で過ごしてもいい。仕事によって、使い分けてくれたまえ。」
なんと、住み込みだけでなく、部屋が二つも与えられるそうだ。
部屋と言っても、屋敷の一室と、庭にある小屋だが。
しかし、二つも部屋があっていいのか、と、なかなかの厚遇に舌を巻く。
「そして、これだ。」
庭の中心には噴水があり、その周りを草木が囲んでいる。
そして、正面玄関とは反対の方向に、畑がある。
その畑なのだが……、なんとも、面積の7割が何かによって荒らされている。
「これが……、今回のご依頼ですね?」
「そうだ。この畑からは旬の野菜や果物が取れていたんだ。屋敷の皆も楽しみにしてくれていたのだが、このありさまだよ。一応、あの山から獣が下りてきていると目星はつけているのだがね。」
「わかりました。今回の依頼、旦那様のご期待に答えれられるように、取り組ませていただきます。」
「うむ。」
屋敷から出て、街のほうへと行く。
敷地面積から見るに、相手の獣の大きさは恐らく、見たこともない化け物だ。
全長3メートルのヘラジカが相手とか……、言うなよ。
グラーニンさんから、少しのお金はもらった。
これで罠を作ろうと目論んでいる。
一応、しばらくの生活費も入っているらしいが……。
なーに、獣を仕留めりゃ、すぐに帰れるさ。
こうして、住み込みの仕事が始まった。




