玉座の間――魔王様
「ほっほっほ。人間どもよ、よくぞここまで来たと褒めてやろう」
勇者一行は玉座の間に辿り着くと、剣を抜き再び構えた。魔王様は堂々と座ったまま楽し気に話をされる。
どこからかパイプオルガンの音が聞こえてくるのだが、調律されていないせいで凄く違和感ある音色だ。しかも下手くそ……。サッキュバスの気の利いた悪戯なのだろうが、間違えたところを何度も引き直すのだけはやめて欲しい……。聞いていてイラっとする。
「勇者よ。予はつまらぬ戦いを好まぬ。どうだ、我ら魔族の仲間にならぬか? さすれば、世界の半分をやろう」
勇者の表情が一瞬曇ったのを見逃さなかった。
「半分だと……。えらく気前がいいじゃないか」
「予は寛大だ」
はいと答えればどうなるか……思い知らせてやろう。
「……国王ですら報奨一時金50万円と勇者年金の口約束だけなのに……」
勇者年金?
勇者は定年後に年金を加算して貰えるのだろうか。
「――勇者年金なんて聞いた事ないぞ? じゃあ俺達も戦士年金とかがあるのか」
「魔法使い年金だってほしいわ。うんと長生きしてやるんだから」
戦士や魔法使いが勇者に問い掛け、この場にいる者全員が勇者を見つめる。
「ねーよ」
吐き捨てるように言わはった――!
「なんだよそれ、お前だけズルいじゃないか!」
「ズルくはない。勇者と戦士の違いさ。悔しかったら国家試験に受かってお前も勇者になれよ」
「受かんねーよ。合格率5%だぜ」
そういって右手をパーにしている戦士が……いささか歯痒い。頑張り次第でなんとかなりそうな確率だが、戦士は……頭が悪そうだ。
兜を脱げば丸刈りで十円ハゲがありそうだ……。
いかんいかん。人間を見かけで判断してはならない。いかなる状態でも油断は禁物と魔王様はいつもおっしゃっている。
「ちょっと落ち着いて二人共。冷静に考えたら、勇者年金が貰えない私たちは、ここで何かを貰った方が得ってことよね」
「ああ、そうだ」
……ちょっと違うだろう。
「じゃあ、一時金や年金よりも価値があるなら、貰ったら方がいいのよね」
「そうだ。勇者もそれでいいよな」
「……ああ」
納得しきっていない顔だ。本当に勇者の称号を得ているのだろうか。
きっと、過去問だけをやって合格したタイプだ――。
「じゃあどうする?」
「どうせ嘘じゃないのか。相手は魔王……一番悪いやつだと考えてもいい。どんな悪だくみしているか」
「そうだ。絶対に信用してはいけない――」
「まず……半分てどういうことだ。北半球と南半球で価値が全然違うぞ」
――まさかの価値観!
「えー? どっちが欲しいのよ」
「せーのーで、で言おうぜ。せーのーで」
「「北!」」
「「南!」」
……。
「なんで北なんだよ!」
「そっちこそ、なんで南なんだよ。暑苦しい!」
「バーカ、海が綺麗で常夏じゃやないか。北なんて寒いだけだろ」
「なんだと、涼しいのは布団とかモーフに包まればいいが、暑いのは我慢できないだろーが!」
「裸で寝りゃいいだろ」
「嫌だわイヤらしい」
「イヤらしいとかなんとか言って、お前も南派だろうが! 赤くなるな」
……。
「おい、ちょっとまて、これが相手の作戦じゃないのか?」
「なんだって?」
「北と南で仲間を二分させ、喧嘩させるって作戦だ」
「うわ、あぶねー。まんまと引っ掛かるとこだったぜ」
「勇者一行の結束力をバラバラにしてしまおうって腹だな。汚い手を堂々と使いやがって。答えが決まったぞ、魔王よ! お前の策略にはひっかからない!」
決まるの遅すぎ……。
「ああ、俺達は、陸の部分を要求する! 海の部分は要らない!」
――まだ言うか――まだ続くのか――!
「それ、半分じゃねーぞ。三割になるぞ!」
「ばか、海がなかったら魚くえねーじゃねーか!」
「陸から釣ればいいだろ!」
「小魚しか釣れん!」
「どちらでもよいではないか」
「小魚もうまいぞよ」
「私、魚嫌いだわ」
「小娘よ、魔王様に失礼だぞ」
「俺も肉の方が好きだな」
「貴様もだ」
「ち、一緒に食事したくなくなるタイプだな」
「なんだと?」
「イテテテ、脇の下の引っ張るなよ! 冗談だよ冗談」
「ひょっとして、嘘じゃねーのか?」
一言も発していなかった弓矢使いが初めて喋った。低くていい声だった。
「騙しているのか。詐欺か?」
「有名な『半分やるから仲間になれ詐欺』か?」
そんな詐欺が人間界では横行しているのか。……厳しいきび団子詐欺?
「魔王だから嘘ついても平気なのかもしれない」
「うわ、ひでーなあ」
「ひょっとして、それも魔王にとって最高の褒め言葉だったりして」
「だって魔王だもんとか言いだしそうだな」
「あるある」
「うーけーるー」
「だって魔王だもん」
「あっはっはっ」
「――いい加減にしろ! なぜ『いいえ』と即答しないのだ!」
「うお、顔がないのに喋った!」
……。
そう言われればそうだ。なんで私は喋れるのだろうか。顔から上がないのに……。
「いや、そんなことはどうでもいい! 魔王様、こ奴らは、世界の半分はいりません魔王様と言っております」
「ちょっとちょっと、なに勝手に決めちゃってるの!」
「そうか、さすがは勇者。なかなか無欲だな」
「はい。そして、四天王最強の私、『宵闇のデュラハン』と戦いたいと申しております」
言うだけ言ってみた。
今日一日の御褒美を頂きたいのだ。
「寝言は寝て言うがよい」
「御意」
……ぐやじい……。
本当に今日、寝ている時に寝言で言ってしまいそうなくらいぐやじい……。
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