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四階――宵闇のデュラハン


 中庭の端にある井戸水を何度も頭からかぶり、洗車ブラシで体をゴシゴシこすった。

「へ―ックションくそ~い!」

 紅葉が色づき始めるこの季節に井戸の水は冷たい。ブルっと寒気が走る。


 着ている鎧は脱ぐことができない。よくよく考えると、自分の身体の仕組みがいまいち分かっていないのだが、モンスターなのだから気にしないことにしている。鎧の隙間にローションのように染み込んだヨダレが……ヌルヌルしていてなかなか落ちない。

 クレージードラゴ―ンのヨダレは、ひょっとすると油性なのだろうか……? 赤色のネットに入って吊るされた固形石鹸は、既に半分以上擦り減っていた。


 ドーン!

 一階から何かが倒れる音が聞こえた。その直後、

「やーらーれーたー」

 大きな声が響き渡る。一階のサイクロプトロールの断末魔の声だ。

 ……普通、「やられた~」と言って倒されるモンスターはいないだろう。もう少し演技指導をするべきだったか。


 とにかく――急がなくては。冷たい水をもう一度頭からかぶると、慌てて階段を駆け上がった。


 四階の階段を上がったところで勇者一行を待つことにした。魔王様は四階奥の玉座の間で少々緊張した面持ちで座っている。

「上がってきたら必ず知らせるのだぞ!」

「御意」

「絶対に予の前に来るまで手出しをするでないぞ!」

「分かってますって!」


「キャー、やられたわー!」

 サッキュバスの声だ。大人しくやられたのかどうかが凄く気になるが、とにかく勇者一行は三階まで上がってくるのだろう。

 しかし、意外にも三階で待ち受けているはずのソーサラモナーの声だけ聞こえなかった。おかしいと階段の下へ少し下りていくと、バッタリ勇者一行と出合い頭にぶつかってしまった――。


「いて!」

「――! お、お前達は!」

 勇者一行は慌てて剣を抜き、魔法使いは呪文の詠唱を始め、弓矢使いは矢をつがえる――。

「ゆ、勇者一行! あれ? 三階は?」

「貴様が三階のボスか?」

「……いやいや、私は四階なので、三階は『聡明のソーサラモナー』が待っていたはずだが……」

 ひょっとして、職務放棄か――! 戦えないなら戦わない? あんにゃろう……額の血管がピクピクする……。


 勇者が切りかかってくるのを寸前のところでかわし、階段中腹まで飛びのく。顔があったら切られていたかもしれない。

「おのれちょこまかと!」


 ――ここで戦うわけにはいかない。……あとで魔王様に怒られてしまう。


「もうちょっと……上がってくるがよい」

「罠か!」

 いや、違うんだけど、罠と言われれば罠なのかもしれない……。

「罠のようで罠ではない。詐欺のようで詐欺ではない。お前達の勇気と……勇気に免じて、魔王様に合わせてやろう」

 剣を収めた。


「来るがよい。魔王様がお待ちだ」

 勇者一行はゴクリと唾を飲むと、剣を収めた。


 これでよいのだ……大人しく魔王様にやられるがよい。


「先に言っておくが、決して廊下を走ってはならぬぞ」

「……?」



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