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二階――妖惑のサッキュバス


「なんですって? ――勇者一行が全滅しないよう手加減をしろですって? 気は確かなの」

「……魔王様の玉座の間まで勇者一行に辿り着いてもらいたいのだ」

「予の力を見せつけ、勇者一行を絶望させるのだ」


 つまり魔王様の我儘を聞いて差し上げろと言っているのだ……が。


「嫌よ。せっかく久しぶりの獲物が来るんだから」

 真っ赤なソファー……じゃなくて、大きなお手玉のような「人をダメにするクッション」に横たわりながら切れ長の目をした女性が呟いた。魔王城二階を守る「妖惑のサッキュバス」その美しさには老若男女問わず釘付け骨抜きにされると恐れられている。

 短めの黒いドレス姿でわざわざ足を組み直すところが……見ていられない……。片腹痛い!


 ゆっくりとクッションから立ち上がり、お気に入りの赤いブランデーをショットグラスに注ぎ、一口飲む。

「この私が久々の獲物を易々と渡すと思う?」

「それは四天王全員同じこと。獲物が来て嬉しいのは分かるが、これは魔王様の御命令なのだ。背くことは許さん」

 ブランデーを片手にゆっくりと近付いてくるサッキュバスは……苦手なタイプだ。胸元が大きく開いている露出度多めのドレス。日焼けを知らない美しく白い肌。細く長い足と踏まれたくなるようなヒール。クネンクネンと黒猫のようなモフモフ尻尾。胸元が大きく開いた黒いドレス……。

「ああ、デュラハンったらまた胸元見てたでしょ。二度見ってやつ? い・や・ら・し・い」

「みみみみ見てないもん!」

 もん! だなんて言ってしまった――この私としたことが。

「嘘おっしゃい。赤い顔して可愛いんだから」

 細くてしなやかな指が顎の下に触れてくると、ゾクゾクと鳥肌が立つ――! どうして胸元ばかり見ていた事や赤くなっていることがバレたのか――。

 顔から上は無いのに――!

「勇者を骨抜き女好きの愚者(ぐしゃ)にしてやるのよ。配偶者(はいぐうしゃ)でもいいかも~(笑)」

 ――かっこ笑い!

 おぞましい。おぞまし過ぎるぞサッキュバス! 白くて冷たい太ももが両足の間にグイグイ押し当てられる――。必死に内股になってそれを拒む――!

「ま、魔王様、助けて下さい! なんとか言ってください!」


 ――このままでは、R15にされてしまいます――!


「……デュラハンは仲間を呼んだ。魔王が現れた!」

「……」

 魔王様も真っ赤な顔をして両手を構え、ファイティングポーズでサッキュバスと向かい合った。

「あら、魔王様がお相手してくださるの? 嬉しいわ」

 サッキュバスが離れると、頭を左右に振った。……あ、あ、危なかった……。妖惑の異名はまんざらでもない――。ブランデーの香りがまだ漂っている。


「きゃー、魔王様も赤くなって可愛いわ」

「う、う、うう」

 必死に目を閉じて我慢する魔王様……。サッキュバスの豊満な胸がタプタプと魔王様の顔に触れたり離れたりを繰り返す。魔王様は両手をグーにして必死に……我慢している?

「チュウしちゃおうかなあ~」


 ――ひょっとして魔王様、最大のピンチではないのか? 妖惑のサッキュバスはこれを機に魔王の座を横取りしようと企んでいるのか――!


「お・鼻・か・ら、下唇まで吸い付くようなディープチュ~」

 ――させるものか!


「そこまでだ、サッキュバスよ! それ以上魔王様にくっつき、ローブの中に指や手を忍ばせたら、許さん!」

 チュウなんてもってのほかだ! これは嫉妬ではない。そもそも私には顔がない。だからチュウがしたくてもできないのだが、断じてこれは嫉妬ではない――!


 普段は過疎化した住民センターのように平穏な魔王城内で、初めて剣を鞘から抜いた――。剣先はサッキュバスの顔を捉えているが、プルプル震えが収まらない。

 ――これが妖惑の力か!


「あ~ら怖いわ。丸腰の女性に剣を向けるなんて……無粋で素敵だわ」

 丸腰? ――いかん、視線を逸らさせる罠だ!

「で・も・あなたに私が切れるのかしら」

 サッキュバスの手は魔王様の顎を大福を丸めるように弄ぶ。

「魔王様のためであれば――切れる。冗談であれ本気であれ、これ以上魔王様を苦しめてはならぬ」

「苦しめている訳じゃないわ」

「苦しめている! 閉じてるけど涙目になっている!」

 魔王様は目をギュッとしたままだ。顔も赤色を通りこえて青色になっている。いつもの色とちょっと違う。

「あら、そんなつもりじゃなかったのよ。ごめんなさい魔王様」

 慌てて胸元から魔王様を開放すると、魔王様は一度大きく深呼吸をした。


「……許す。予は寛大じゃ」

 ――さすが魔王様……?



「魔王様ったら奥手だからちょっとからかってみただけよ。安心して、勇者一行もちょっとからかうだけにするから」

「貴様のちょっとは程度が分からん」

 剣を収めたがまったく油断ならない。胸元が大きく開いたドレス……そんな破廉恥な姿で城内をウロウロするなと説教してやりたいくらいだ。

「あーあ、本当は勇者パーティーを妖惑の術で混乱させて同士討ちするところを楽しみながらワインが飲みたかったのに」

 ……やはりドSのようだ。

 ドSの「ド」もドレッドノートのドだ。



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