08. はじまります。
「うお~っ。おっきいよ、すごいよ、このベッド、ぽよんぽよんだぞ~」
「キングサイズですね」
「サトコ、見ただけで良くわかるわね」
会社の開発研究所の一角に、彼女達女性パイロットの待機室と呼ばれる部屋が用意された。
「見た目で大きさを判断するの、なんとなくなれてるの」
予備パイロットとして登録された、開発部のサトコが部屋の中を見回している。
「いえ、キングサイズのほうよ。使ってるの」
「そう、そうですね。使ってるのはクィーンです」
経理部から来た、コハルがベットに腰掛けた。
エリカはすでにベッドへとダイブしてニヤニヤしていた。
「うちのベッドは手なんか広げたら、壁ドンってなって、お兄ちゃんに怒られるんだぞ」
「うちも似たようなモノよ」
サトコだけがベットに触れることなく、部屋の隅々を小さな箱を手にしながら見ていた。
「とりあえず、大丈夫ですね」
「大丈夫って、まさか」
「なになに?」
「マイクやカメラです」
サトコが手にしていたのは、小型のX線スキャナーだった。
「わたし達ってそんなに需要あるのかな?」
エリカが枕を抱きながらゴロゴロしている。
「何言ってんですか! わたし達軍事機密を扱うんですよ、注意しなきゃ。軍の講習でも習いましたよね」
「フフッ。そうね、需要あるわね」
「そっちか~」
研究員と違い、パイロットは軍への情報提供を行っているため、セキュリティに甘さのある軍は信用されていない。
その結果、通勤中に狙われないように敷地内で暮らしてもらおうということになった。その結果がコレだった。
「いやぁ~まさか試作機とはいえ軍用機に乗れるなんて思ってなかたぞ~」
「そう…」
ここでの暮らしが始まって数日、お互い名前で呼び合い、食事、掃除などの当番を決め、それなりに仲良くはなっていた。
「ふたりは、どうなの、楽しくないの? わたしは嬉しいよ。実はね、軍の試験受けたんだけど、パイロットの規定身長に達してないって言われて、アーマーに乗れないんだったら軍人なんかやらないって、蹴ったんだぞ」
「そう…」
「そう…だけじゃなくて、コハルとサトコも教えてよ、ほらほら」
ベットの上で情報端末を見ていたコハルが、端末を置いてフッと息を吐いてから、エリカを見つめ口を開こうとしたとき。
「そうですね、まっいいでしょう」
先に話し始めたのはサトコだった。
「聞かせて、聞かせて」
「正直、楽しく無いって思ってました。けど、いろいろ知ることが出来て為になりました」
「パイロットの立場になれたってことかしら」
コハルが向きを変えてサトコを見ていた。
「どうかな。今は、もっとダイレクトな感じに動かしたいって思ってます」
「あ~それ、なんとなくわかる。グラグラ、ユラユラっての多いよね。もっとスパっと収まらないのって言いたいんだぞ」
「そうね、高速軌道中のターンのフラフラした揺れは標的への集中を削ぐわね」
サトコは訓練が始まったばかりなのに、二人がすぐに基礎訓練をこなしていることに驚いたが、機体の癖まで感じる余裕があるとは思っていなかった。
「もっと、ザザザとかガガガってほうがわかりやすいんだぞ」
「そうね、浮いたままでも接地しているような感覚が欲しいわね」
「そう、そうですね、ちょっと試してみますか……」
すでに微調整の段階に入っていた機体の制御プログラムを、サトコは二人の希望どおりに出来ないかと考えていたが、思うように進まなかった。
数日後、訓練のあと会社の敷地内にある記念館の前を通りかかったときだった。
ガラスの向こうには過去に生産した機体が並んでいた。
「あの機体は、どんな動きをしてたのかな……」
サトコは館内に駆けこんでいた。
そして、目的のものを見つけた。
それは、各機体のシミュレーター。
記念館の管理室を見つけて窓ごしに叫んでいた。
「アレ、ください!」
「えっ? くださいって、そんなのダメですよ」
サトコは慌てていたため「貸して」を飛ばして言ってしまった。
「あっ、違います。アレって動きますよね? わたし開発部のクリヤマです。アレ、貸してください」
シミュレーターは貸し出されることはなかったが、その場ですぐに稼動してもらい、操縦することが出来た。
Ⅰ型から順にⅤ型まで乗り終わったころには、外は真っ暗で、館長も帰りじたくをすませ、消灯して待っていた。
「気がすみましたか?」
「はい、ありがとうございます。でっ、相談なんですが」
「何でしょうか?」
「アレ、ください!」
サトコが指差したのは3芯ガトリング銃を手にして立っている黒い機体。
漆黒の悪魔と呼ばれたⅢ型改だった。
2019.02.24
家を部屋に変更。
Ⅲ型をⅢ型改に変更。
サトコの口調をですますに変更。