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猟機兵装 - 思いつきの記録 -  作者: イワトノアマネ
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06. 漆黒の悪魔(前編)


「早く、早く逃げろ!」


 俺は操縦スティックを握ったまま、右のモニターを見つめ叫んでいた。

 そこには、炎と黒煙の中に1台のワーカーから転げ落ちるように這い出る少女が映っていた。


「6番機何やってる!」


 後ろから接近して来た僚機からの無線と同時に、ワーカーが粉々に吹き飛んだ。

 僚機の右腕側面にある対人用散弾の筒先には、白い煙が見えた。

 

「バカヤロウ! 戦場でボサっとするな!」

「はっ、はい!」


 俺はペダルを踏み込み、僚機に続いた。

 真っ暗な正面モニターと違い、左右のモニターは黄色く輝く炎。

 右のモニターの隅へと消えゆく炎を見ながら、少女の無事を願ってしまった。


   ◇


 俺はライタ。

 統一経済推進連合の軍人。

 わが国……いや、同盟国に対してテロを行う組織を殲滅する特殊部隊。

 そこに配属されたアーマー乗りだ。


 ステルス性向上のため、光沢の無い黒い機体。

 最新式の空挺強襲機エアボンアーマー。

 現場ではⅢ型と呼ばれている。

 軽量フレームのⅠ型と、Ⅱ型の軽量装甲を合わせて作った機体。

 

「たまには他の場所に降下したいですね」

「そのうち本番で降りるさ」


 

 そして、その日はすぐにやってきた。

 訓練だけの平和な日常が終わり、初任務を向かえる日が来た。

 

「今回の作戦は我が国の進めている統一経済圏構想に反対する国だ。そこにある科学兵器プラントの破壊と、その施設周辺に潜伏しているテロリストの殲滅である……いいか、やつらを一匹も逃がすな!」


 ブリーフィングルームで詳細な衛星画像を見ながら、時間、通信遮断、破壊目標の位置、電線などの障害物を確認した。

 

「初陣だな、ルーキー。しっかりやれよ」

「はい!」


 このときは必ず殲滅すると、こぶしを握って気合をいれていた。



 星空の下、冷たい風が頬をなでる乾いた大地。

 そこにある巨大な滑走路をもつ軍事基地。

 大声や車両のエンジン音が聞こえる。


 まぶしいほどのライトに照らされた巨大な格納庫の中には、Ⅲ型と同じ光沢の無い黒い巨大な翼……菱型の翼が特徴的な大型ステルス輸送機が4機ならんでいた。


「オーライ、オーライ、オーライ、そのままゆっくり!」


 輸送機の後方にある巨大なハッチが開け放たれ、スロープとなった。

 レールの上に寝かされたⅢ型がワイヤーで繋がれ、足からゆっくりと輸送機の中へ引き込まれてゆく。


 輸送機は2機のⅢ型を搭載し世界中どこへでも届けることができる。

 この輸送機とⅢ型を運用しているこの部隊は、漆黒の悪魔と呼ばれていた。


「おまえ初任務だったな、大丈夫……訓練と変わらんよ。いつも言ってるだろ、戦場では敵は人じゃない獲物だと思えって。俺達は猟機兵装と呼ばれる軍用アーマー乗りだ」

「はい」


 このときは深く考えていなかった、戦場には武器をもった敵と、それを支援する悪人しかいないと教えられ、信じていた。


 4機の輸送機がⅢ型を搭載し終えると、俺達Ⅲ型のパイロットも輸送機のハッチであるスロープを駆け上がった。


 格納庫の外は日の出前の紺色の空。

 これから先、降下するまでは外の景色を見る事はない。

 ここは旅客機ではない。

 操縦席以外に窓なんか存在しないステルス輸送機に乗っているのだ。


   ◇


 数日前。


 統一経済圏本部ビル、推進連合情報部。


 デスクに置かれた大型モニターがピピピっと音を発している。

 点滅するマークを押すと、画面の隅に男の顔があらわれた。


「課長! コレを」


 モニター内に地図や音声、画像ファイルがまとめられた資料が表示された。

 科学兵器プラントについての情報だった。

 

 音声ファイルは、コウダと名乗る男から警察への電話であった。

 

「近所の肥料製造プラントで怪しいやつらが化学兵器を作ってる……」


 別なファイルは、我が国の同盟国で先月起こった毒ガステロの映像。

 その中にマルで囲まれた男がいる。

 その男の顔が大きく引き伸ばされると、脇に氏名などの情報が表示された。

 

「コウダ・シンジ……密告者の兄か……」


 電話の情報は世界中の通信網から危険なワードを常時拾い出し記録し、AIが危険度を判断して、必要に応じて職員が確認する。

 今回の電話はレベル1として様子見扱いとなるはずだった。

 しかし、たまたま商談で立ち寄った国にいて巻き込まれた兄の画像がテロ現場であった為、レベル2として調査が始まった。


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