44. 銀のティアラ
「大ガラスよりタヌキへ緊急事態だ――」
フェンスを破壊し基地へと到着しているトラック。
モニターの並んだ荷台の中にキヌタ・カズキがいた。
「サヤカ! 本部ビルの部隊が奇襲を受けた!」
「なんですって!」
整備と補給作業中の緋色のバイオレット31の前にいたサヤカ。
となりにいたライタと顔を見合わせる。
「どこから来たんだ? 基地は全て制圧したはずだ」
「私達の知らない機体を隠してたってことでしょ」
二人の近くへと駆け寄るセイジとアイ。
「滑走路の修復が終わるまではまだ時間がかかります……」
「輸送機無しでは到着しても推進剤切れよ……」
バイオレット31はスカーレットモード用の浮遊石を搭載しているため、推進剤が少ないため、輸送機を使う必要があり、スカーレットモードを使って激しく動けば短時間しか戦えない欠点があった。
4人の周囲にキヌタ兄弟と専務も現れた。
そこへキリシマも加わった。
「たぶん、奴らだ――」
キリシマは突入するときに遭遇したザンゲツのことを伝えた。
キヌタ・カズキが口を開いた。
「でも、どこで補給を……」
そこへヒロキと軍のパイロットスーツを着た男があらわれた。
それを視界に捕えたサヤカ。
「なんで、軍のパイロットがココにいるの!」
「この人は大丈夫。もう仲間だ」
「仲間?」
「私も、協力する。ザンゲツならすぐに出せる。信頼できる部下も一緒に――」
「何、言ってんの! そんなの信じられるわけ無いでしょ。それにザンゲツじゃ敵か味方かわからなっ――そうだ! わたしが、Ⅵ型で行くわ」
サヤカがライタの顔を見た。
「俺も行こう」
「わたしもって言いたいけど、セイジ行って」
「ああ、まかせろ」
そのときキリシマがセイジの肩に手を乗せた。
「俺に行かせてくれ」
「……」
セイジがキリシマの顔を見たあと、サヤカに視線を向けた。
「いいわ。セイジとアイは後で来て」
「わかった。まかせます」
「ああ、すまんな」
キヌタはトラックに戻りエリカ達を呼び戻した。
「推進剤の補給急げ! 装備の入れ替えも忘れるな!」
コウタが指示を出す。
「そうだ、エンブレムを持ってこい」
「なに、なに、なに、なにっ? どういうこと?」
コックピットから降りてくるエリカ。
コハルとサトコも機体から降りて集まった。
「何なの? サヤカおばさんが借りるってどういうこと?」
「パパ達がこの機体で出るそうです」
「そうね、お父さんも行くって」
エリカの機体には、サヤカ。
サトコの機体には、ライタ。
コハルの機体には、キリシマ大尉が乗り込んだ。
「コウタさん。持ってきました」
「すぐに貼ってくれ! 左肩だぞ、前後しっかり貼っとけ」
「了解です!」
コックピットに座ってベルトをしたサヤカにキヌタから無線が入った。
「無茶はしないでくれ。Gキャンセラー無しでの戦闘は厳しいぞ」
「そんなこと言われないでもわかってる」
「今、奴らに逃げられても行く場所なんてない。急がなくても大丈夫だ」
「わたしは全てを捨てて誓ったの、わたしがヤルって」
キヌタは一瞬だけ黙った。
「俺はあの子が……二人が父親と……」
「見てられなかった? でも、今はダメよ。全部終わるまでって決めたでしょ」
「ああ、だが……」
サヤカもコハルとキリシマ大尉、サトコとライタが一緒にいるのを見ていた。
そのときスズナ姫に言われた『後悔」という言葉を思い出していた。
「わかったは、無茶はしない。コレが終わったら考えてもいいわ」
「ありがとうサヤカ」
「推進剤充填完了! 道を開けろ! もたもたするな!」
コウタが叫ぶと、ホースを手にしたワーカーが猟機兵装から離れた。
「起電石起動、浮遊石起動、システム正常、推進装置正常、機体正常……」
ブーンとうなりを上げ、機体の各部へと電気が満たされる。
「最終システムチェック完了。ハッチ閉鎖、移動開始」
地面に触れていた膝が伸び、立ち上がる武闘Ⅵ型ストームアーマー。
ゆっくりと浮き上がり、進みながら向きを変え格納庫から出てゆく。
それを見つめるエリカ、コハル、サトコ。
格納庫内にいた全ての反乱組織メンバー。
その目には左肩に銀のティアラの紋章を付けた武闘Ⅵ型があった。
銀のティアラ……それはスズナ姫が使っていたのと、よく似ていた。
建物の密集した都市の中心。
そこは、広い土地に大きな木々が建ち並ぶ森。
その中心に巨大なビルがあった。
「このままの高度で直上から突入する」
ライタがモニターに拡大表示されたビルを見ていた。
「周辺のビルに隠れているかもしれない注意しろ」
サヤカの機体が両腕を背に回し剣を手にする。
腰にはザンゲツ用の銃が固定され、銃口は正面に向けられていた。
ライタの機体は片手に三芯ガトリング銃。
キリシマの機体は両手にザンゲツ用の銃が握られている。
「よし、散開、降下開始!」
「「了解」」
3機のⅥ型が推進器の光を伸ばし、加速して降下を始めた。
「やっと来たか。って、あれは……ちょっと厄介なやつだが、3機だけか」
本部ビルと森の中には1機も残さず、全て建物の影に隠れているザンゲツ。
銃に取り付けられているカメラの映像。
そこには、降下してくるⅥ型が映し出されていた。
「よし! 撃って、撃って、撃ちまくれ!」
ハラダがコックピットで叫ぶと同時に、曳光弾が上空の星よりも明るい光を放ちながら踊り始める。
「まずはオマエからだ」
キリシマが1発だけ砲弾を放つ。
狙われたのはビルに挟まれた道にいたザンゲツ。
キリシマは回転するように機体を操作。
銃口から数発の砲弾が放たれる。
最初の1発で自動回避した機体はビルの外壁に当たる手前で止まった。
その瞬間、頭部に砲弾が突き刺さり、装甲が砕け散った。
そのまま接近し、背後に回ってトリガーが引かれた。
放たれた砲弾は推進器を砕き、貫いて起電石を傷つけ停止させていた。
モニターには上空で捕えた敵の位置が表示されている。
「次は、そこ!」
素早く敵の背後へと移動し、次々とザンゲツが動きを止める。
ライタも同じような戦い方をしていた。
サヤカは森の中にスモークをばら撒き、高速移動。
キリシマとライタが敵を背後から襲いやすいように囮となっていた。
「来たわね。すぐに楽にしてあげる」
大きくジャンプし、煙を巻きあげながら着地するザンゲツ。
サヤカの機体はヒザを折って、木の幹に剣で深い切り込みを付けながら進む。
「そこだな!」
トリガーを引き続けるザンゲツ。
その砲弾は煙を巻きあげながらゆっくりと倒れる木。
その枝を切り刻み、散らせるだけだった。
「やったのか?」
その瞬間、ザンゲツの脇に剣が突き刺さった。
次々と数を減らすザンゲツ。
「くそっ、こいつらさっきの奴らじゃないな。油断させやがって」
ハラダはビルの間を移動し、森から距離を開けた。
「こっちに来てたか!」
ハラダの機体の前を横切るⅥ型。
すぐに過ぎ去った方向に銃を向けトリガーを引いて砲弾を放ちながら上昇。
「こんなとこに隠れていたのか」
キリシマは背後から迫る砲弾をギリギリで交わした。
すぐに路地に入って機体を旋回させながら上昇。
「読まれてた!? 駆られる!」
目の前にあらわれたザンゲツの銃口が光った。
同時にキリシマの機体の推進器が横方向に爆裂開放。
しかし、この距離では間に合ない。
砲弾が当たると思った瞬間、左腕がコックピットのある胸の前にあった。
そのまま推進器を全開にし、距離をとるキリシマ。
「なんてヤツだ。腕を盾にしやがった」
必殺の距離。
そう思っていたハラダは驚き、追うのが遅れた。
「何だかわからんが助かった。こんな動作をするのか――銀のティアラの御加護ってやつか。助かったぜ姫様」
これがペイント弾を防ぐために娘が考えたことなど知るはずも無い。
モニターには左腕と、銃が赤く表示されている。
「左の銃はダメか……頭を飛ばされるよりはましか――今度はこちらの番だ。右マガジン強制排除。装填」
ピピッと音が鳴ると、右手に握られている銃のマガジンが弾き飛ばされた。
銃が腰に固定される。
腕が下から回され予備の弾倉がレールから引き抜かれる。
腰に固定されている銃に弾倉が取り付けられる。
グリップを握ると固定していたロックが外れた。
距離を開けたまま追ってくるザンゲツをモニターに捕え続けるキリシマ。
「被弾した機体にトドメをさそうってことか……単純なやつだ」
逃げる敵を追い続けるハラダ。
「この数を相手に残弾があるマガジンを捨てるってことは、まだやる気ってことか……面白い。遊ばせてもらうぜ」




