42. スカーレットモード起動!
「コード22、スカーレットモード起動!」
操縦席に音声入力を受け付けた電子音がピピッっと鳴る。
すると、コックピット内が赤く輝き、パイロットを紅に染めた。
菫色の機体を駆るトワダ・アイ。
「浮遊石は浮かせるだけじゃない、重力緩和装置(Gキャンセラー)にもなるのよ!」
アイの先をゆく菫色の機体を駆るトワダ・セイジ。
「背中はまかせたよ。委員長」
「この歳で委員長は恥ずかしいからヤメテ!」
「おまじないさ」
サヤカとセイジの機体には背中に、機体と同じ長さの剣が2本。
両腕が肩の上に回され、剣を握るとロックが外れた。
両腕を振り降ろし、斜め下に剣を構える。
その姿はツバサを広げた鳥のようにも見えた。
そして、背中の推進器に青い炎が輝き伸びる。
加速し、降下する2機。
ライタの機体は両手に3芯ガトリング銃。
アイの機体はロングバレルの狙撃用ライフル。
アイの銃口はすでに地表の敵に向けられ、火を噴いた。
「うわっ! なんだ!」
地上で周囲を警戒していたGGA03ザンゲツ。
その背中の推進器が噴き飛び、起電石も傷つけた。
ザンゲツのコックピットを轟音と衝撃が襲う。
そして、機体は自動で膝をついて停止した。
近くにいたザンゲツが上を見た瞬間、頭が噴き飛んだ。
ザンゲツのパイロットは、一瞬、赤い何かが映ったのを見た。
それが、何かを考える暇もなく、衝撃で機体が揺れ膝をついた。
その機体の背中には、剣が突き刺さった跡があった。
「こいつら! 早すぎる! うわっ――」
機体の照準速度を越えて、上下左右に動き回るバイオレット31。
接近してくる敵に圧倒され、ザンゲツは次々と破壊されていった。
「セイジ! 飛ばしすぎじゃない? オーバーヒートで止まらないでよ」
「そうだった! ありがとう委員長」
そう言いながら、セイジは機体のダメージ表示画面を見た。
すると手足の関節が黄色く表示されていることに気がついた。
冷却の為、上昇し上空を高速で飛行して温度を下げるセイジ。
照明に照らされ、地を滑るように、高速移動する緋色の機体。
敵機の前で回転し、剣が敵機に迫る。
銃を跳ね上げ背後に抜け推進器を潰し、押し込まれた破片が起電石を傷つけた。
停止した機体の中で、目を大きく開いたままのパイロット。
「あの動きで人が乗っていられるのか?」
地表付近で剣を振るうサヤカとセイジ。
遠距離攻撃から近距離に照準を切り替え戦うアイのバイオレット31。
高速機動で背後に回り一撃で起電石を損傷させ、敵を狩る。
上空へ逃れようと飛翔するザンゲツ。
2丁の3芯ガトリング銃から放たれた光の帯。
それが周囲を囲むように渦巻いて迫る。
自動回避が実行されずに止まっているザンゲツ。
渦が小さくなり両腕が砕け散る。
戦えなくなったザンゲツが推進器で降下し地表に転がった。
地下格納庫のスロープを進む小型車両。
「あの赤い機体。ヤツか、ヤツがまだ生きてたのか……荒野の牙」
スロープを下りきる小型車両。
たどりついたのは、さきほどまで昼間のように明るかった格納庫。
今は、懐中電灯の光がまばらに見えるだけの暗い空間。
それらを照らし出す基地司令の乗った小型車両のライトの光。
「照明の復旧急げ!」
「了解であります!」
基地司令は小型車両から出て指揮車へと、帽子を両手で直しながら進んだ。
その顔には笑みがわいていた。
指揮車の入口からは緑色の光が漏れている。
その脇に帽子を深く被った、清掃作業員がレーションの箱を持って立っていた。
「こんなときでも食事を配るとはずいぶん余裕があるな、戦争経験者かね?」
「はい。王国義勇軍、牙小隊です」
「――そうゆうことか」
基地司令はゆっくりと手を上げた。
清掃作業員、キヌタ・カズキの左手にはレーション。
右手に銃が握られていた。
基地司令が周囲を見ると、兵の姿が見当たらなかった。
カズキの指示で指揮車両に乗り込む基地司令。
中には拳銃を持った清掃作業員が数人いた。
基地司令を座らせ、カズキも座った。
「タヌキより大ガラスどうぞ」
「こちら大ガラス」
「通信妨害を全て解除してくれ」
「解除。了解」
上空を飛んでいる黒いステルス輸送機。
機長がマイクを口元からそらす。
「ナズナ様。お願いします」
「はい。特定帯域対抗から全域対抗に切り替え――完了いたしました」
「大ガラスよりタヌキ、解除完了」
「サザナミ司令。お願いします」
「わかった。荒野の牙を相手にできるパイロットなど、今の軍にはいないからな」
カズキが差し出したヘッドセットを受け取る基地司令。
マイクを口に寄せて告げた。
「基地司令サザナミだ。全機即時、戦闘停止せよ。繰り返す、全機戦闘停止せよ」
基地司令の声は敵味方問わずコックピットに響いた。
激しく飛び交っていた曳光弾が途切れた。
漆黒の闇の中、推進器の青白い光が地上へと降りて行く。
浮遊石の青い光が地面を照らし、ザンゲツが地表を滑るように移動しはじめた。
「アイ、セイジ。二人は武装解除が完了するまで警戒よろしく。ライタ行って」
「キミはこないのか?」
「わたしはジャミング装置の破壊に行くから……」
「会わないのか?」
サヤカが無線をライタとのプライベート回線に切り替えた。
「いまさら……このままのほうがあの子は幸せよ」
「それは、キミが傷つきたくないだけじゃないのか?」
「それ以上は言わないで……今は無理なの」
「そうだな。今じゃなくてもいいことだな。わかった」
次々とザンゲツが膝を曲げ、地下格納庫前に集まって並んだ。
パイロットがハッチを開いて降りるのを、アイとセイジが見ている。
エリカはⅤ型との戦闘後に起され、社員と一緒に集められ座っている。
照明が消え清掃作業員に制圧され、何がなんだかわからずにいた。
そして、地下格納庫の照明が点灯すると、清掃作業員と整備員達が抱き合ったりしながら、喜びを表しているのを目にした。
「なになになに? どうなってるのコレ?」
コハルと父親は車から降り、並んでそれを見ていた。
「お父さんは、このために?」
「そうだ、すまん……」
コハルは父親の顔を見ながら口を開いた。
「わたしやお母さん……それに、みんなのためなんだよね」
「ああ、それでも母さんとコハルには――」
「ありがとう。お父さん……で、いいんだよね」
「そう言ってくれると、助かる」
二人はそれ以上、何も言わなかった。
◇
「荒野の牙より大ガラス聞こえる?」
サヤカの無線に出たのはナズナだった。
「こちら大ガラス。どうぞ」
「コレで最後、ですね?」
姫が出るとは思っていなかったサヤカが慌てて『ですね』と付けて答えた。
「はい。ジャミング波の発生源は全て消失しました。サヤカさん」
「了解です。みんなと合流し滑走路を開けます。それまで上空警戒お願いします」
「了解いたしました」
2機のステルス輸送機は上空を大きく旋回し、飛び続けていた。




