表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猟機兵装 - 思いつきの記録 -  作者: イワトノアマネ
41/45

41. 厚い雲の中へ


 薄い雲間から見える紺色の海。

 その遥か上空、月の無い満天の星空を背にした、2つの巨大な黒い影。


「――この機にとって初めての実戦ですね」

「そうだな。できれば、最後の実戦にしてやりたいな」

「そうですね。それがいいですね」


 左の機長席に座っている男性と、副操縦席に座る女性。

 この機体をまかされ、出撃することなく終戦を迎えた二人。


 その後も民間企業で輸送業務を続けていた。


 順調に連合本部ビルへ向かっていたステルス輸送機。


「本部より大ガラスへ……」

「こちら大ガラス、本部どうぞ」

「大ガラス。任務の変更を伝える――」


「――了解」


 急遽、予定が変更され軍の基地へ進路を変えるため、機体がわずかに傾いた。


「軍の基地には姫様の娘さんが……」

「大丈夫です。皆さんを信じます……あっそうそう、私はもう姫ではありません」


 副操縦席の後ろで壁面のモニターの前に女性が座っている。

 その手はヒザの上で硬く指が組まれ、唇をわずかに噛んでいた。


 わずかな時間だったが、長く感じられる沈黙が続いた。


 機長席の後ろにも、側面のモニターを見つめている少女がいる。


電波妨害ジャミング波検知!」

「ヒメ……あっ、()ズナ様。お願いします」

「はい。お任せください。解析、始めます」


 組まれていた指は離れ、目の前のモニターなどを操作しはじめた。


「サラサはレーダー監視から動体監視モニターの警戒へ移行……出来るわね」

「はい。アーマーで参加できませんでしたが、こっちは大丈夫です」




 操縦席から見える下方の雲が厚くなり、目的地が近づいてきた。

 機長か天井にあるスイッチを操作し、ヘッドセットのマイクを口元によせた。


「大ガラスより、小隊長へ。降下準備お願いします」

「了解」


 返事をしたのは女性。

 彼女は猟機兵装のパイロットスーツで身を包み、格納庫に立っていた。


 サトコの実家でエリカ達を送迎した人物。

 サトコが『サヤカおばさん』と呼んでいた女性。


「ライタ。始めましょう――子供()を助けなきゃ」 

「ああ。それが最優先だ」


 機体に乗り込む二人。

 シートについてベルトを装着。

 周囲にいた作業服を着た者達が固定用ワイヤーを外してゆく。


「起電石停止中、浮遊石停止中、システム正常、機体正常、異常無し……」


 側面モニターに映る作業服の男が親指を立てる。


「拘束ワイヤー解除オッケーです」

「了解だ」


 ライタが外部拡声器で答えた。

 すると、作業服の者達は前方の待機室に入って扉を閉めた。


「大ガラスより小隊長へ、予定ポイントまであと5分。起動してください」

「「了解。起電石起動」」


 ブーンとうなりを上げ、機体の各部へと電気が満たされる。


「最終システムチェック完了。ハッチ閉鎖、降下準備完了」


 最終システムチェックを済ませ、コックピットのハッチが閉じられた。


「大ガラスより小隊長へ、予定ポイントに到達。ハッチ開放――幸運を」


 格納庫内にビービーとブザーが2度鳴った。

 輸送機の格納庫内を赤く染めていた照明が消える。

 二人は機体を伝ってブーンという音でハッチが開いてゆくのを感じていた。


 そして、時が来た。

 機長からの指示が来る。


「降下開始!」


 ロックが外れた音がコックピットに伝わる。

 電磁射出機のガイドレールから機体がわずかに浮き上がる。


 すぐにシートに腰が押し付けられた。

 音も無く輸送機の後方に、機体が射出されてゆく。


 大きく揺れる猟機兵装アーマー

 自動で姿勢制御が始まり安定する。

 正面のモニターは赤外線画像で降下目標地点が白の十字で表示されていた。


 降下する4機の猟機兵装アーマー

 ライタが無線で告げる。

 

「全機スパイラルランディングで降下」

 

 背中を上に向けたまま、螺旋らせん状に急速降下する猟機兵装アーマー

 厚い雲の中へ、吸い込まれるように消えてゆく。


 サヤカの目の前にあるモニターが、白くなる。

 しかし、すぐに暗くなって灰色に変わった。


   ◇


 灰色のコンクリートで覆われた巨大なトンネル。

 『アーマー用シミュレータ室』と書かれた部屋の前に私はいた。


 目の前には。ここの責任者……タイガがいる。


「――トキカ。やはりキミをコイツのパイロットには出来ない」

「成績は一番です。なのに、なんで? コレじゃなきゃ、あいつらには勝てない! 何がいけないの?」


「あの戦いかたは、死ぬのを恐れていないからできる戦い方だ」

「それのどこがいけないの? 教えて! 何でもするから」


「戦争が終わったら何がしたい」

「終わったら?」


「トキカの目的は復讐だ。それが叶っても叶わなくても生きていけるのか?」

「そんなこと……」


「何でもするって言ったな……だったら、子供を生んでみろ」

「子供?」


「ああ、生きる目的。守りたい者をつくってみろ」

「子供があれば(・・・)いいんですね」


 ササヤマ・トキカはキヌタ・サヤカと名前を変えた。

 キヌタ・カズキは猟機兵装アーマーのシミュレータ訓練で何度か会っただけの男。


 その時は誰でも良かった。

 子供を用意・・できればパイロットになれる。


 戦うことしか考えていなかった。

 だから、子供がどこの誰に引き取られたかも知らなかった。

 名前も記憶の奥に沈んでいた。




 港を見渡せる小高い山。

 港から続く広い道。


 行きついたのは巨大な扉。

 扉の脇にある銅製の黒ずんだ表札『第2研究所』。


「このまま調整を始めて! これ以上は待てないから」

「では、これをバイオレット31として仕上げます」

「テストも、したいから早く仕上げて!」




 復讐が終わるまで変わらないと思っていた。

 車で空港に向かったあの日までは……。


 そのと話すのが楽しいと感じていた。

 ただ、ソレに気がついたとき、深く悲しい何かを感じた。


 それが『後悔です』とスズナ姫は教えてくれた……。


   ◇


 厚い雲を抜けた猟機兵装アーマー

 それは、バイオレット21に似た機体。


 目の前に、まばらに輝く基地の照明。

 螺旋らせん状に急速降下を続ける機体。


「各機スカーレットモードで突入」

「了解!」


 サヤカの声は他の機体にも届いた。

 黒い機体を駆るライタが唱える。


「身を守る、コロモとなりし、クレナイの輝き――」


 サヤカが静かに告げた。


「コード22、スカーレットモード起動!」


次回、スカーレットモード起動!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ