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猟機兵装 - 思いつきの記録 -  作者: イワトノアマネ
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04. 小さな戦場


「おじさん、おはよう」

「おはよう、トキカちゃん」


 わたしの名前はササヤマ・トキカ。今年の春に農業基礎学校を卒業し、家業である農園で働くつもりだったけど。とりあえず他へ就職。仕事は近所にある肥料製造プラント。

 そこでワーカー……人型作業機に乗って肥料袋の積み込み作業をやってます。


「トキカちゃん、ちょっといいかな」

「はいはいはいはい、今行きま~す」


 呼んでいるのは、ココの責任者であるおじさん。

 お父さんの弟です。


「こっちのワーカーの右腕を動かすと、なんか変な音がするんだけどわかるかな?」

「どれどれどれどれ」


 農業基礎学校ではワーカーのメンテナンスを選択していたため、メーカーの通信講習を受けると指定項目整備の資格を貰えます。部品のユニット交換や調整ぐらいは自分でできないと、こんな田舎に技術者を呼んだり、整備工場のある町まで運んでたら大変。すごくお金が掛かる。

 実は、これが出来るからと、ココへ就職する事になってしまった。


 

 シートに座ってベルトをしてからゆっくりと右腕を動作させると確かに聞こえる。ギギギっていやな音。


「あっ、これこれこれね。だれか倒したでしょ」

「そうなの、聞いて無いけど」


 停止してからシートを離れ、右腕の周囲を見るとキズがあった。


「やっぱりね。大丈夫、外装がちょっと曲がってるだけ」

「直せるんだね、よかった。それにしても倒したのコウダくんかなぁ……明日来たら聞かないとね」

「でもワーカーって起動中は簡単に倒れたりしませんよ。たぶん、車か何かでぶつけて倒したんだと思います」

「そうなの」

「はい」

「じゃあ、社員みんなに聞くしかないね」

「操作を知ってる人ですね。立たせたんですから」

「そうだね」


 結局、犯人はコウダくんだった。トラックをバックさせていたらぶつけたとの事だった。コウダくんは農園の三男。わたしよりも結構年上。家で社員として農業をできるくらいの大農園なのに、ココにいる。つまり……そういうこと。


 事件といってもこんな感じの事しか起こらない、のどかで平穏な日々を過ごしていた。そう、あの日までは……。



 それは、月の無い暗い深夜だった。

 その日は、故障したワーカーの部品交換をするため、検査機材のそろっている家へと乗って帰って修理をした日だった。

 虫や蛙も消えたように静かな夜。

 眠っていたわたしは、外が騒がしいので目を覚ました。

 耳にしたのは、爆発音と銃声。

 何があったのかと情報端末を見たけど繋がらない。

 とりあえす飛び起きて着替えていると、兄さんが階段を降りていく音がした。

 

 家族全員、外に出て遠くの雲が明るく見えるのを見つけると父が叫んだ。

 

「火事だ、行ってみよう」


 わたしは会社のワーカーを、兄も家のワーカーに乗って父の運転するトレーラーに乗って、向かった。


 肥料製造プラントの前を通り過ぎようとした瞬間、轟音と共に何かにぶつかったような衝撃を受けた。


 一瞬だった。

 

 

 草の匂いがする……。

 目を開けると、わたしの乗ったワーカーは透明な保護パネルが砕け土手下に落ち、うつぶせになっていた。

 体の痛みをこらえながらワーカーを立たせると。

 見えたのは、炎に包まれているトレーラー。

 そして、下半身だけのワーカーが路上に倒れていた。

 

「父さん! 兄さん! どこ? 返事して……」


 何度も、何度も呼んだけど変事はなかった。

 ワーカーの足を進めトレーラーの操縦席を探した。

 本来、あるはずの操縦席の窓も屋根も扉も無い。

 

 振り返って、下半身だけとなったワーカーの周囲を見ると、粉々になったワーカーの腕と一緒に人の腕があった。


「父さん……兄さんはどこ? なんなのコレは? 誰か教えて……」


 泣き叫びながら二人を探した。

 いや、すでにわかっていた……もう合えないってことぐらい。

 だけど、受け入れたくなかった。

 

 しかし、それもわずかな時間だった。

 無数の光の帯が家に向かって飛んでゆく。

 一瞬にして、家は崩れ落ち炎に包まれた。

  

 光の帯をたどると、視界の隅にワーカーよりも遥かにに大きい黒い人影を見た。

 その手には武器があった。

 

 わたしは震えたまま動かない体に向かって叫んだ。

 

「逃げなきゃ殺される!」


 震えが止まった。

 ベルトを外しワーカーを飛び降り、土手下の水路へと飛び降りた。

 

 その瞬間、轟音と共に乗っていたワーカーが砕け散った。

 


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 わたしは走った、地下を流れる農業用水路へと入って、上流へと走り続けた。


 父さんも、兄さんも、母さんも見つけられないまま逃げるしかなかった。

 

   ◇


 わたしは無事に逃げ延びました。

 ある人達に助けられ、生きてます。

 

 わたしの働いていた肥料製造プラントが、科学兵器製造プラントとして報道されていました。他国の軍がコウダくんの大きな家をテロリストの拠点として強襲している映像や、わたしと兄の乗ったワーカーが武装してトレーラーに乗って移動している映像までありました。


   ◇


 数年後、大きな戦争が起こり国は統一経済圏の一部となりました。

 企業も他国に資本を奪われ農地は荒れ、今ではあの日、襲ってきた国から食料を買わされているのです。

 多くの人々は食料を得るために奴隷のように働かされ搾取されるだけの生活となってしまいました。

 

 あの日から数十年が過ぎた今。

 

 わたしは忘れない。

 あの日の事を……。

 死ぬまでに復讐することが叶わないかもしれません。

 ですが、悲しくはありません。

 わたしの思いを子供達が継いでくれたのです。


 ササヤマ・トキカはあの日、殺されました。

 今のわたしはキヌタ・サヤカ。荒野の牙と呼ぶものもいます。


2018.12.18 一部名称変更。

2018.12.29 半世紀以上→数十年に変更。

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