37. 荒れ狂う、嵐の如く、舞い踊れ!
『キヌタ産業 第108処理施設』
建物の屋上から基地を監視する男。
彼が有線式電話器の受話器を握った。
「Ⅵ型が実戦装備で出てきました」
「なに、まさか、あの3人がそのまま乗っているのか?」
「わかりません」
「……オヤジがそれを許すはずが無い……いや、拘束されているのか……」
一般のトラックに偽装した指揮車の中で、キヌタは考えていた。
戦うしかない状況に追い込まれている可能性を。
「キリシマ隊に連絡! いつでも突入できるように基地の周辺で待機。赤3発の信号弾で突入せよ、だ。電波妨害の外まで車で移動し、連絡してくれ」
「娘さんのことは言わないのですか?」
施設の作業着を来た連絡員がキヌタをまっすぐ見ていた。
腕を組んで立っているキヌタ。
「最初からコックピットには当てず制圧する予定だ。そのくらい彼らならやれる」
「了解です。キリシマ隊へ連絡に行ってきます」
◇
「ハルトくん!」
守備隊のハルトが乗るザンゲツを襲っている敵のザンゲツ。
エリカの駆る武闘Ⅵ型の握る銃から砲弾が放たれる。
「ハルト君とはもっともっと話したいこと、あるんだから! 絶対にダメ!」
有効射程外からの砲弾に反応し、回避する敵機。
ハルトは残っている推進器を全開にし、エリカの方へと向かってゆく。
「あ……がと……」
爆裂開放による連続回避を続けた為、意識が薄れ掛けているハルト。
その目に、Ⅵ型が映る前に意識を失い、滑走路に火花を散らしながら、離れていった。
「何なんだ! コイツ!」
敵の機体に乗っているのは、刑務所で黒いスーツの男と話をしていた男。
敵のリーダー。
ハルトを追い詰め、狩をするかのように楽しんでいた。
トドメを射そうとしたが、エリカの放った砲弾に自動で反応し回避。
「ダメ! ダメ! ダメ! ダメ!」
エリカは砲撃を続け、敵を分散させたが弾が尽きた。
予備の弾倉へ交換しようとしたが電子音が3回鳴っただけだった。
「うそ? 弾切れ?」
「脅かしやがって! 戦場で残弾のチェックもしないとは、素人だな」
エリカは慌てて、敵との距離を開けようとしたが、敵に囲まれていた。
周囲の敵機が手にした銃は、エリカの機体に向けられている。
「ビビッて動けないのか。つまんねぇ獲物だ」
男の握った操縦スティックのスイッチが押された。
銃口から放たれる砲弾がエリカの機体へと迫る。
多方向からの同時攻撃に、自動回避は反応が遅れる。
エリカが恐怖で目を閉じた瞬間、機体が大きく弾き飛ばされた。
「エリカさんは僕が守る!」
エリカの機体を抱きしめていたのは、足の無いザンゲツだった。
二人の機体には数発の砲弾が突き刺さった。
しかし、推進機の青い光はそのまま輝き続けた。
2機は包囲から抜け出していった。
「まだ、生きてやがったのか」
エリカの機体を抱きしめたまま飛び続けるザンゲツに、銃が向けられる。
しかし、その銃が突然砕け散った。
「やらせないわ!」
「くそっ! 油断した」
コハルの狙いは銃。
模擬戦で銃への攻撃が、自動で回避されなかった。
それに気がつき、実戦で使った。
「そいつをよこせ!」
敵のリーダーが隣にいた仲間の機体から銃を奪う。
銃口はコハルに向けられ、砲弾が放たれた。
コハルが回避しながら応戦。
少し離れた場所から、サトコが他の機体へ砲弾を放っている。
激しく動き逃げ回るⅥ型を、数機のザンゲツが追って行く。
そこへ、他の敵を倒したキミズカ中尉のザンゲツが合流。
「すまん。遅くなった」
「いえ、それより今は敵を!」
「よし」
数で勝る敵のザンゲツ。
それらを相手に、互角以上に戦う二人。
数時間前に模擬戦で戦っただけの二人。
なのに、幾つもの戦場で戦ってきた相棒のように、息があっていた。
サトコのモニターから、コハルとキミズカ中尉が遠ざかって行く。
そのあいだに、エリカとハルトの機体を追った。
「エリカさん。無事ですよね?」
「うん。大丈夫だよ……ハルトくん……」
「二人とも降下してください。この近くに、敵はいません」
3機は地上に降りた。
モニターに映っていたハルトは負傷し出血。
サトコがハッチを強制解除操作。
エリカが中に飛び込んでいった。
「ハルトくん。生きてるよね。生きてるよね」
「うっ、うん。大丈夫、ちょっと破片がかすっただけだから」
エリカがベルトを外して、手を貸しハルトを外へ連れ出す。
サトコが機体に戻り、二人を手に乗せて地面に降ろした。
「サトコ! ハルトくんをお願い! あたし、あいつら絶対に許さない!」
「コハルの援護、お願いします。でも無茶しないでください!」
「うん、大丈夫だぞ!」
「あっ、ちょっとまってください! 私の機体、使ってください!」
「うん!」
サトコが降りると、エリカがワイヤーのハンドルを握った。
「予備のマガジンは満タンですけど、弾切れには注意してください!」
「うん。わかった」
エリカが浮遊石で機体を浮かせ、離れて行く。
サトコはエリカの機体に乗り、ハルトを両手で包み込むように乗せた。
「格納庫へ戻ります」
「わかった」
サトコは膝を折った待機姿勢のⅥ型を浮上させ、地下格納庫へと向かった。
「こいつら、なかなかしぶといが、そろそろ弾が終わりだろ。コッチは倍、積んできてるからな」
襲撃部隊の機体にはオプション装備の追加弾倉ホルダーが装備されているため、倍の弾倉が装備できた。
「コハルくん。こっちはコレが最後だ!」
「私もです。どうします」
キミズカ中尉は迷っていた。
出来るなら逃げたいが、すでに残っている軍の機体はキミズカ機だけだった。
敵も目の前の数機だけで、他は弾切れになると、撃墜された仲間を収容し去ってゆく。
「おらおら! もっと撃ってこい! そんなんじゃ当たんねぇーぞ」
弾を節約するために単発で放たれる砲弾。
狙いを定められないように牽制するので、精一杯なキミズカ中尉とコハル。
「もういい! キミは逃げろ!」
「そんなこと、出来ません――」
「お待たせぇ~!」
敵に向かって放たれる無数の砲弾。
両手に持った銃口から放たれ続ける砲弾。
「そこっ!」
エリカの放った砲弾に反応し、自動回避する敵機。
その動きを読んで、何も無い空間に照準を合わせ、トリガーを引くコハル。
放たれた砲弾の先に、敵の機体が流れるように移動してくる。
そして、装甲の薄い脇へと弾が突き刺さる。
「なに! 起電石が」
敵の起電石が停止し、機体の動きが遅くなり、降下して行く。
予備電源のあるうちに、推進器で地上に降下しパイロットの命が保護される。
「この状況でアレが出来るのか……」
キミズカ中尉は驚いていた。
ザンゲツの弱点を突く一撃に。
コハルとキミズカ機の目の前では、次々と敵が落ちていた。
敵に向かって突っ込んで行くエリカの機体。
その手に握られた銃からは、弧を描き敵を追う砲弾。
自動回避の爆裂開放で交わす敵機。
弧を描いていた砲弾の間隔が広がり、敵に突き刺さり追い越す。
模擬戦でも使った、砲撃中に推進装置で回転する方法。
有効追尾限界内からでは、交わせない。
エリカの機体は左右に回りながら、砲弾を敵に叩きこむ。
その姿を地下の格納庫にある指揮車のモニターで見ていた基地司令が言った。
「そうだ! 荒れ狂う、嵐の如く、舞い踊れ! そして、敵を撃破せよ!」
指揮車のオペレータ達は、こまり顔で黙ったまま、その言葉を聞いていた。
「おおっ。いいことを思いついた。アレの名はストームアーマーとしよう」
弾が尽きた左手の銃から弾倉が外れる。
その銃が、銃口を前に向けたまま腰に固定された。
そして、手の開いた腕で背中から予備弾倉を外し銃に取り付ける。
その銃をふたたび握り、砲弾をばら撒く。
「くそっ! ここまでだ! 撤退するぞ!」
敵のリーダーが叫びながら、赤い信号弾を3発打ち上げた。
次回は、03話で書いた父との戦闘シナリオを実行するため、複雑な状況になってます。




