35. 「また戦争が始まるの?」
薄暗い倉庫の中。
清掃作業員の服に着替えたヒロキ達。
「――来賓席の下に爆弾――管制塔が爆破された――」
「――地下司令室との連絡が取れない――」
ヘッドホンを耳にあてた男の小さな声。
聞こえてくるのは混乱した者達の叫び。
「――地下シェルターへのアクセスルートの隔壁が全て閉じられている――」
「――爆弾を探せ――処理部隊はどこへ行った――」
「やっかいなことになった。いくらなんでも、こんなの想定外だぞ」
ヒロキは人質作戦を失敗とし、撤収する気でいた。
僚機兵装部隊の戦闘によって制圧するしかないと。
「みんな、作戦は失敗だ。俺達は――」
最後まで命令を告げる前に口を止めた。
誰かが、ヒロキ達のいる倉庫の前で立ち止まった。
息を止め、扉の脇に立ち、ナイフを手にするヒロキの仲間。
扉が開いて誰かが入ってきたら拘束するしかない。
ノックが5回。
仲間の合図だった。
鍵を開けてリネン回収カートを押しながら入って来たのは、協力者の清掃作業員だった。
「仲間が連れて行かれた!」
襲撃して来た者。
サトコとアライ部長。
協力者は社長と専務の状況なども手短に伝えた。
「爆弾処理部隊がいない? 地下シェルターに監禁――わかった」
リネン回収カートには会社の作業着。
それを、爆弾処理に詳しい者が着た。
銃をカートに入れ倉庫に残し、ヒロキたちは移動した。
この状況で銃を持って出るのは危険との判断だった。
清掃作業員の服を着た何人かは、予定通りに作戦指令室などへ向かう。
予定では制圧だったが、レーダーや通信機器の破壊工作へと変更。
その手には青いバケツが握られていた。
中身はタオルと洗剤の入った霧吹き器。
水をプリント基板に吹きかけて故障させるだけでいい。
しかし遅かった。
『所属不明の猟機兵装が接近中』と放送があった。
「倉庫へ戻ろう」
振り向いて廊下を戻ると、軍の警備員に声をかけられた。
「仲間がいないので探してるんです」
「ここは危ないから、地下の格納庫に避難しろ!」
不信に思われない為には、指示に従って避難するしかなかった。
「――戦時中、爆発物処理を行なってました。協力します」
会社の作業着を着たヒロキ達。
爆弾を眺めているだけの軍服を着た男に許可をもらって、部屋に入った。
来賓席の下の階。
会議室の床に、開いて置かれたスーツケース。
タイマーや複雑な配線とプリント基板などが詰まっていた。
ケースの中には『動かすと爆発する』と書かれた紙が貼ってある。
「ここはまかせた」
ヒロキは数人を置いて移動した。
地下シェルターの隔壁に貼り付けられた爆弾を解体するために。
外では各企業の社員が、地下格納庫へと移動させられていた。
予備の機体と整備道具や機材をトレーラーに積んで。
エリカとコハルも機体に乗ったまま、地下の格納庫に移動していた。
「戦争なの? また戦争が始まるの?」
「そうなるのかも知れないわね……」
震える手で操縦スティックを握るエリカ。
冷静に考えようとしているが、何も思いつかないコハル。
目の前のモニターには、車両や人が同じ方向へと進んでいた。
長い下り坂の先にある穴へと向かって。
少し離れた滑走路からは、戦闘機が轟音を響かせ、次々と離陸してゆく。
空中戦なら戦闘機の方が有利。
だが、味方かもしれない状況で先制攻撃は出来ない。
基地周辺では外部からの強力な電波妨害が始まり、無線が使えない。
数分後、目標を視認。
肩に描かれた番号で、隣の基地に所属している友軍と判別。
味方の識別コードも発している。
モニターに部隊などの詳細が表示された。
「――こちらワイバーン。前方を飛行中のプロメテウスリーダー、応答せよ」
数秒後、ピピッと電子音が鳴ってモニター上部の表示が変わった。
『我、作戦行動中」
返答は短距離通信の文字と番号だけだった。
番号に視点を送り、操縦桿の上部にあるボタンが押された。
番号の下に詳細情報が表示されるはずだが、高レベルの機密扱いとなっていた。
これで、戦闘機の仕事は終わった。
離陸前の指示どおり他の空港へ向かう。
混乱し、無線が使えない空港に戻るのは危険との判断だった。
しかし、戦闘機が向かった先の空港は、反乱軍によってすでに制圧されている。
出撃した戦闘機が全て着陸後、全員拘束された。
「――コイツは飾りだ」
爆弾を解体していた男が手を止めた。
「信管に繋がってるのはタイマーだけだ。動かしても問題ない」
ヒロキが廊下から走って来て、男に伝えた。
「隔壁のは取り外し完了。感振装置は飾りだ」
「こっちもだ」
「まだ時間はある。運び出してくれ」
ヒロキ達が爆弾を移動して部屋を出ようとした。
「助かった。あとはコッチで処理する。早く地下の格納庫に避難してくれ」
「あっ、ああ」
ヒロキ達はアライ部長とサヤカを連れた仲間と合流。
全員、地下の格納庫へ避難した。
清掃作業員の服を着た仲間もいた。
社員の何人かが同じ整備服を着た知らない者がいることを不信に思った。
しかし、コウタが気がついて説明する。
出向先で一緒に働いている仲間だと。
少し混乱していたサトコだったが、仲間に会って落ち着きを取り戻し、コウタの話にうなずいていた。
地下の格納庫には膝を着いたキミズカ中尉たちの機体もあった。
整備員達が動き回り、実戦装備へと換装している。
長い腕が伸び縮みする人型作業機。
重い装備を楽々と持ち上げて移動。
ボタン操作で自動的に位置を確認し装備を収めてゆく。
肩にある盾の裏側にスモークチャフや信号弾。
腕には対人散弾がセットされた。
背中のレールに予備の弾倉が次々と押し込まれる。
機体の右手には実弾装備の銃。
「装備が完了した機体は、すぐに出せ!」
救出された基地司令が車に乗って、拡声器で指示を出していた。
「現時点より、各企業の機体とパイロットは、軍の指揮下に入ってもらう!」
「そんな! 無茶な!」
アライ部長が叫んでいた。
その声を聞いた基地司令を乗せた車が、アライ部長の前で止まった。
「他の基地も襲撃されてるとの情報が入っている。死にたくなければ戦え!」
「しかし……」
基地司令は腰にあった銃を手にした。
すばやくスライドを引いて弾を装填。
アライ部長の鼻先に銃口を向けた。
「こいつらを拘束しろ。他の社員も指示に従わなければ拘束しろ!」
「はい。了解」
周囲にいた軍人がアライ部長と一緒に社長とキヌタ専務を拘束し、連れ去った。
基地司令は振り返り、大声で叫んだ。
「全機! 実戦装備に換装! 出撃せよ!」
この先はまだ何も書いて無いので、ちょっと時間かかります。




