34. 表と裏
戦闘後、付着したペイント弾の水性塗料を落とす。
その為、洗浄機のある格納庫へと案内され、機体を移動させる。
被弾した敵機の後についてゆく。
「こちらキミ達の相手をした第2小隊、隊長のキミズカ中尉だ。二人とも凄かった……完敗だ」
戦闘が終了し、相手との通信が解除された。
モニターで顔を確認することも出来た。
「ありがとうございます」
「あれ? 敵と話ちゃっていいの?」
エリカは敵との情報交換は禁止と聞いていたのを思い出していた。
「大丈夫だよ、お嬢さん。試合後なら問題ない」
「お嬢さんって、なんか照れるなぁ~。いやぁ~当たってくれてありがとう」
「いや、まあ、そういわれてもな……」
キミズカ中尉は困惑していた、勝つ気じゃなかったのかと。
「エリカ。失礼なこと言わないで。すみませんウチのが変なこと言って」
「いや、気にしないでくれ、それにしても女とは聞いていたが、こんな若くて可愛い子だなんて知らなかった。驚きだ」
「かわいいだなんてぇ、そんなぁ~」
エリカが操縦スティックから手を離して、手のひらで頬を押しあげた。
「エリカ、社交辞令よ本気にしちゃだめ」
「いやいや、社交辞令なんかじゃないさ。なっ、ミヤシロ少尉」
「まあ、そうですね」
ミヤシロ少尉と呼ばれた男の顔がモニターに追加された。
その映像の上に名前のミヤシロ・ハルトと第2小隊4番機と表示されていた。
「エリカくんの初弾で撃たれた男だ」
「隊長! そんな。はっきり言わなくても――」
「いいじゃないか。お返しにお前が彼女のハートを1発で決めてみろ!」
ハルトとエリカがお互いモニターを見たまま固まっていた。
それを聞いたコハルが少し笑っていた。
「隊長さん、うまいこと言いますね」
「キミのその、はっきりとした言い方。嫌いじゃない」
「いきなり、嫌いじゃないとか言うの、父にそっくりです」
キミズカ中尉はモニターの名前を見て気がついた。
「キミは、キリシマ大尉の娘さんなのか?」
「はい。父をご存知で?」
「ああ、俺の教官だった」
キミズカ中尉とコハルの表情が硬くなった。
「大尉のことは残念に思っている。ほんとうに、いい教官だった」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると父も喜んでると想います」
黙祷するかのように、お互いに目を閉じ、僅かな沈黙があった。
「キミ達とは、閉会式の後で行なわれる、懇親会で直接会って話したいな」
「こちらこそ、ぜひお会いして、ゆっくり話を聞きかせてください」
「ハルト君も来るよね?」
「ええっ、まあ。出席するつもりです……」
秒殺され、恥ずかしくて出る気がしなかった懇親会。
しかし、エリカに会って見たくなり、気が変わったハルト。
他の2機のパイロットも話しに加わり、6人での会話となった。
それは、機体の洗浄が終わって、格納庫へと分かれるまで続いていた。
皆、懇親会が待ち遠しく、楽しみになっていた。
それが、叶わなくなるなんて、このときは誰も考えてはいなかった。
◇
「空港管制室、制圧完了」
「中央警備室、制圧完了」
「地下作戦司令室、制圧完了」
拳銃や短機関銃を手にした者達。
指を結束バンドで拘束された職員たち。
その中に、サトコとアライ部長の姿もあった。
「人質は地下シェルターへ移動しろ」
「了解」
長い階段ををゆっくりと降りる人質達。
たどり着いたのは、長い通路にそって並んだ扉。
扉の中は大きな部屋。
そこへ十数人ごとに押し込められ、電子錠が外からロックされる。
「管制室の爆弾をセット完了」
「来賓席の真下に爆弾セット完了」
「地下シェルターの爆弾、セット完了」
「了解。それでは撤収しよう」
松葉色の服を着た者達は階段やエレベータで正面出口へと集まった。
銃や防弾ベストを箱に投げ入れ、台車を押して外に出る。
ゆっくりとバスが現れ、箱を積み込んでバスに乗り込み席につく。
ドアが閉じて、バスは走り出した。
ゲートを何もチェックされずに通過し、遠ざかって行った。
中央警備室にセットされた情報端末が作動し、放送が始まる。
「我々は革命組織、暁の咆哮である――来賓席の下に爆弾を仕掛けた――」
来賓席や参加企業の格納庫のスピーカーから男の声。
驚いた来賓が慌てて立ち上がり、扉へと向かうが開かない。
「来賓席の扉を無理やり開いたり、上空に接近するものがあれば爆破する」
扉を開けようとしていた者達が、扉から離れた。
屋上は防弾ガラスでかこまれ、登ることはできない。
「我々は、連合に寄生し、同胞の命を吸い取る企業を粛清する――」
入口ゲートや他の建物にいた警備部隊があわただしく動き出した。
「我々の要求は連合国民の命。連合国民への復讐! 恐怖し震えるがいい」
そう言ってすぐに管制塔の窓ガラスが拭き飛んで爆音が響いた。
吹き飛んだ窓からは、黒い煙と一緒に赤い炎も見えていた。
第3試合の開始を待っていたGG社のパイロットや、軍のパイロットは動かないように指示が出された。
同じように、他の企業にも指示が出た。
「なになになに? なんなの? サトコと繋がんないよ!」
エリカは泣きながら通信の状態を確認していた。
コハルは黒い煙を吐き出す管制塔を見たまま呆然としていた。
◇
「今の爆発音は何だ? 何があったんだ?」
廊下をあわただしく走りぬける靴音を聞きながら、倉庫に潜む黒い陰。
予定の時間はもうすぐだが、動ける状況ではなかった。
基地指令と来賓を人質にし、基地を掌握。
仲間の猟機兵装が来て、完全に制圧する計画だった。
◇
高高度を飛行する武闘Ⅴ型……ラピッドアーマーが十数機。
選考会が行なわれている、基地へと青空に白い線を残しながら向かっていた。




