24. 秘密基地
小さな戦場の穴埋め話です。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
トキカは走った。
星明かりに照らされた農業用水路を上流へと向かって。
たどり着いたのは鉄格子で塞がれている水路の出口。
鉄格子には扉があった。
その扉も鉄格子。
そこには鍵がついている。
3桁のダイヤル式南京錠。
「614」
トキカはは知っていた。
小さい頃、兄に連れられ探検したことを思い出していた。
兄とトキカの秘密基地だった。
中に入ってから鍵を取り付け、ダイヤルをまわし鍵をかけた。
しゃがみこんで、足元の砂をつまんで鍵や握った場所に振りかける。
誰かが中に入ったことを知られないための儀式だと兄に言われたのをトキカは思い出していた。
「兄さん……」
兄と来たときのことを思い出し、涙が溢れた。
涙をぬぐおうとしたが、手も袖も汚れていたので目をとじ、首を振って涙を払うしかなかった。
壁に手をついて奥へと進み、首に提げているネックライトを点灯させた。
足元が明るくなった。
トキカはトンネルの奥へと進んだ。
すぐ脇を流れている水路へ落ちないように。
しばらくして数段しかない階段が見えた。
階段の脇には穴から水が流れ出ている。
階段を上って少し開けた場所にバルブを開閉するハンドルがあった。
先へ進んで左にある水密扉を見つめるトキカ。
その扉の先には階段があって、地上の制御小屋へ行ける。
そこが、兄とトキカの秘密基地。
小さな窓から射し込む光。
小さな窓から眺める緑溢れる景色。
小さな頃の記憶なのにはっきりと思い浮かべていた。
トキカはその扉から視線を外し足を進めた。
正面にある水密扉を開けて中に入る。
そこは、これまでと変わらない大きさのトンネル。
違うのは水路の溝に大きな配管があることだった。
水密扉を閉じて先へ進む。
時々、外へと出る為の階段へ繋がっている扉があったが、先へ進む。
歩きながらトキカは考えていた。
「あいつらは敵なんだ……」
住んでいる王国を自分達の思いどおりにしたい国のやつら。
ここ数年、関係が悪化していること。
ただ、戦争になるほどだとは知らなかった。
しかし、いまはわかる。
統一経済圏推進連合。
学校で習っていた。
お金で人の心まで売買できる世界を望む者達。
貧しい者を作り出すことで、それに従う者を増やす。
そのために必要な法を作り続け従わせる世界……。
数時間後、このトンネルが終わった。
正面にある水密扉を開けて中に入り階段を昇る。
また水密扉を開け、中に入る。
そこは巨大なトンネル。
トンネルの下にはダムから続く巨大な水路。
その上は大規模災害時の避難場所とトキカは聞いていた。
端の方には扉が並んでいる。
扉を開くと何も無い部屋、炊事場、洗濯室、浴室、トイレなどもあった。
トンネルの中央には巨大なコンテナがあった。
中には非常用の食料や水、医薬品が詰まっている。
「ごめんなさい。ちょっとだけ頂きます」
ここまで、数時間。
何も飲まずにいたため、口が渇ききっていた。
コンテナの前で座りこんだ。
トキカは水を飲みながら、非常食のクッキーを食べた。
その後、コンテナから荷物をいくつか引き出して毛布を見つけた。
トキカはコンテナの中で横になった。
家族や友人達のことを思い出し、泣きながら。
そして、いつの間にか眠っていた。
目が覚めたのは、綺麗な部屋だった。
「ここは?」
トキカはベッドで寝ていた。
ゆっくり体を起こして見ると、泥で汚れた服の代わりに、病院で見かけるパジャマを着ていた。
「おはよう。安心して、ここは大丈夫だから」
「大丈夫って……」
トキカの目の前に同じ歳程の少女がいた。
「わたしはマイナ。よろしく」
「わたしは、トキカ。ササヤマ・トキカです。ここはどこ?」
「ここは、トンネルの端にあるダムの施設だけど、トンネルにいたのは覚えてる?」
「はい。覚えてます」
マイナはトキカから視線を外し、情報端末に名前を入力していた。
「うん、あった……。トキカさんは何があったか覚えてる?」
トキカは首を縦に動かしただけで何も言わなかった。
「何か聞きたい事があったら、いつでも聞いてね。ちゃんと答えるから」
「はい」
トキカはアレは全て夢、ココへは交通事故か何かで運ばれて来たんだと思いたかった。
しかし、家族も友人も見舞いに来ないことで、夢じゃ無いことを受け入れ、マイナに聞いた。
「何があったのか知りたい」
そして、あれを見せられた。
トキカの働いていた肥料製造プラントが、科学兵器製造プラントとして報道されていることを。
映像が終わり、マイナが状況を説明したあと、問いかけた。
「わたしたちの仲間になる気はある?」
「はい、何でもやります」
その後、トキカはサヤカと名乗り、戦争に備えて訓練を始めることになった。
巨大な地下トンネル内にはバイオレット11が次々と運び込まれ並んでいた。
サヤカは猟機兵装の操縦訓練を望んだ。
漆黒の悪魔を倒すために。




