22. フレッシュセット3
まだ終わりません。
「起電石機動、浮遊石機動、システム正常、機体正常……」
ブーンとうなりを上げ、機体の各部へと電気が満たされる。
「最終システムチェック完了。ハッチ閉鎖、移動開始」
ぼくと委員長は指示された機体の後について道路を進んだ。
「シャーロット・リーダーよりシャーロット・スリー。君達はここで待機、私が発砲したら攻撃開始。いいわね」
「シャーロットスリー、了解です」
「訓練どおりで大丈夫よ」
「はい」
「これより戦闘が始まるまで全機無線閉鎖。攻撃態勢で待機」
シャーロット小隊の隊長は、そう告げて僚機と供に先へ進んでゆく。
委員長はシャーロット・スリー。
ぼくは僚機なので、シャーロット・フォー。
委員長のサポート役。
ぼくらは道路を挟んで分かれ、森に入って待機していた。
そこで、このまま待機で終わるのだろうと思っていた。
しかし、そうはならなかった。
通信は突然で、遠くからサイレンの音を数回マイクで拾った。
「緊急! ――ルート43――敵接近! 稼動――」
ぼくは操縦スティックを握りなおし、正面のモニターを見つめた。
レーダーは電波妨害で白くなっている。
敵が近い証拠。
カメラが敵を捕らえモニターに動体反応枠が現れた。
それと同時に敵に向かってゆく曳光弾が見えた。
敵は照準に捕らえている。
委員長の乗っているバイオレット11の手にしている銃が火を噴いた。
ぼくも同時に操縦スティックについているボタンを押し続けていた。
敵は砲弾が届く寸前に降下し、スモークチャフをばら撒いて、ぼくらの間を通り過ぎていた。
「速い」
訓練ではありえない距離。
いや、この距離ではセンサーが反応しても、機体の動作がついて行けない。
だから、近接戦闘用の武器は装備していないのが一般的。
「シャーロット・リーダーより各機、応答せよ」
「シャーロット・スリー無事です」
「シャーロット・フォー同じく無事です」
無線に返事をしてから、気がついた。
弾倉がカラになっていることに。
カラになった弾倉を切り離し、腰の後ろから新しい弾倉を手にして取り付けると、自動で装填。
ボタンひとつで自動的に行われる。
「突破してきたのはあの2機だけね、これより追撃します」
「了解」
ぼくらは返事を終え、来た道を引き返そうと森から出たとき、煙の中から味方の識別コードを放ちながら接近してくる機体をカメラが捕らえた。
「邪魔よ! どきなさい!」
そう言って一瞬で目の前を通り過ぎていた。
その機体は剣を握っていた。
接近戦は苦手と言われている僚機兵装で剣を使う者は僅かだ。
そして、ココの駐屯地には義勇軍の牙がいる。
そこで、剣を持つ機体はエースである荒野の牙だけだ。
「いまのは、荒野の牙……」
「そうよ! みんな、行くわよ!」
「はい」
ぼくは今日、初めて敵に向けて砲弾を放った。
その緊張で、真っ白になっていた頭が、荒野の牙を目にしただけで、落ちつきを取り戻した。
彼女さえいれば大丈夫。
そう、ぼくはこのとき初めて知った。
荒野の牙が女性であることを。
◇
「緊急! 緊急! ルート439より敵接近! 稼動可能な機体は全機配置に着け! 非戦闘員は退避せよ! 繰り返す! ――」
放送の後で数回サイレンが鳴った。
格納庫にいたコウタ達は何をすればいいのかわからずに、あたりを見渡すだけだった。
他の整備員達が外へと走り出したのを見て、その後をついて行くしかなかった。
彼らを指揮していた者は、報告のためここにはいない。
「お前達! トラックに乗れ! 急げ! 急げ!」
どこからとも無く声が聞こえた。
格納庫の脇からトラックが現れ、次々と人が乗っていく。
いっぱいになると、すぐに走り出し道路へ出て速度を上げてゆく。
コウタ達がトラックに乗ろうと近づいたが、すでに満員だった。
他の車両を探したが、どれも満員となり次々と走り去ってゆく。
小型車両や民間車両も走り去ってしまった。
「何だよコレ! 俺達の乗る車は無いのかよ!」
誰かが叫んだ。
「とりあえずココを離れよう!」
「そうだな!」
コウタ達は全力で走り出した。
さっき来た道を、車両が去って行った方向へと。
誰も振り向かなかった。
遅れる者を気にする余裕など無い。
すぐ近くを猟機兵装が飛んでいるのを目にしたから。
「待ってくれ!」
「置いてかないでくれ!」
「死にたくない!」
前を走る者の背中を捕まえようと手を伸ばす者。
転んで、転がる者。
膝をついて泣き出す者。
駐屯地から爆発音が聞こえた。
コウタは道路わきの乾いた水路に飛び込んで伏せた。
ここまで飛んできた破片が路面に降り注ぐ。
同時に叫び声やうめき声が聞こえてくる。
コウタの回りにも破片が落ちていた。
破片の落下音が止んで頭上を見上げるコウタ。
格納庫の屋根と同じ色の細長い板が、ゆっくりと空を舞いながら落ちてくる。
そして、走り続けていた者の命を奪う瞬間をコウタは目にした。
基地の周囲に隠れていたバイオレット11が砲弾を放つが、次々と反撃され倒されていた。
そう、彼らはコウタと同じく来たばかりのフレッシュセットと呼ばれる新人達だ。
機体が損傷して倒されてもパイロットが死んだわけではない。
そんな彼らは言われたとおりのことをした。
コード111とテンキーで入力する。
握られていた武器が離れる。
「これで、大丈夫。あとは救助を待つだけでいい」
そう考えながらシートに身を預けて、モニターに映されている戦闘を他人事のように眺めていた。
しかし、現実を彼らは知らなかった。
こんなことをして、見逃してもらえるのは、ほんの僅かなことを。
倒れた機体に砲弾が突き刺さる。
装甲の隙間や、薄い部分を狙って1発で仕留めている。
コックピットまで入り込んだ砲弾は、機器を散らす。
散った破片がコックピット内を飛び交い、やがてやわらかい物に突き刺さり、動きを止める。
同時にパイロットの動きを止めることも多かった。
逃げても、死んだふりしてもダメなときはダメです。




