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猟機兵装 - 思いつきの記録 -  作者: イワトノアマネ
16/45

16. 「姫様を助けて」


 大使館の警備員でありスパイである男。

 仕事を辞め、首都を離れた翌日。

 大使館のある首都への爆撃が始まった。

 

 姫様付きの侍女だった娘が泣いていた。


「姫様を助けて!」




 戦後の生活を考え、引き受けたスパイ活動。

 誰でも出来る末端の仕事。

 大使館へ出入りした人。

 要人達の様子。

 それだけを伝える。

 

 盗聴器を仕掛けたり、写真を撮るようなプロではない。

 そんなことをすれば、すぐにバレる。

 バレれば、すぐにバラされる。

 疑われるようなことをすれば、すべて無駄になる。

 

 そんな男に姫様を助けるような大仕事など出来はしない。

 

 

 だから、娘が動いた。

 

 

 突然の疎開。

 車に乗せられるだけの荷物で家を離れた。

 逃げた先には、すぐに生活できる家が用意されていた。

 そして、翌日からの爆撃。

 

「中の人達はどんな様子だった?」


 毎日のように問いかける父。


 娘は気がついた、父がスパイであることに。

 だから、頼んだ。

 

「姫様を助けて!」

「それは、出来ない。そんなことすれば、家族全員殺される」

「姫様は、まだ子供なのに……殺されるなんて……酷い」


 娘は握った手をテーブルに乗せ泣いていた。

 向かいに座る、父と母。

 隣に弟がいた。


 父親は何も言わずに、両手を組んでテーブルに乗せ、右手の人差し指でゆっくりと繰り返し左手の甲を叩いた。


 沈黙のなか、指が甲を叩く音だけが部屋の中に響いた。

 父親は考えていた。

 用意された家に盗聴器などが無いことは確認済み。

 それでも、不用意なことは口にしたくなかった。


「私達には何も出来ないけれど、義勇軍が知れば……」

「山に引きこもってるだけの義勇軍なんて、ここまで来るはずないじゃない」


 娘は泣きながらテーブルを叩いて立ち上がり、自室へと階段を駆け上がった。

 部屋のドアについているハンドルを握って立ち止まった。


「(義勇軍が知れば……)」


   ◇


 王国の正規軍は亡命政府を受け入れた軍の指揮下に入っていた。

 そして、最前線で戦闘を続けている。

 

 当初は軍と行動を供にしていた義勇軍。

 スカーレット22を失うと、亡命政府のある国の指揮下には入らず、自国の領土にある山岳地帯へこもってしまった。


 すでに連合軍にとって重要な拠点ではなくなった地域。

 連合軍は先に、亡命政府のある国を降伏させることに主力を向けている。

 山岳地帯の周囲には連合軍の警戒部隊が置かれているだけとなっていた。



「亡命政府の人達はどうする?」

「あんなやつらは、助ける必要ない!」

「そうだな、今頃になって統一経済圏との和平交渉などと夢見る連中だ。助ける必要は無い」

「俺達の計画は、予定通り進めよう。これ以上の犠牲は出したくない」


 義勇軍の地下基地にある会議室で、数人の男女が集まって話をしていた。

 そのなかに、サヤカとキヌタの姿もあった。


「姫様だけ、なんとかならないかな?」


 下流にある浄水場の事務職員として働いているマイナ。

 以前、捕虜となったライタが呼んでいると、サヤカに知らせた少女。


「姫様は難しいな……俺達にとって象徴的存在だけに、逃げたとなれば徹底的に探すだろう」

「そうだな、助けに来るのを待ち伏せしている可能性もある」

「まだ、子供だし、操られていたことぐらいわかるだろ」


 みんなから少しはなれた場所に座っていたサヤカが、立ち上がった。


「子供だからなんて、ヤツらは気にしないで殺るわよ、ねぇ……そうでしょ? ライタ」

「ああ、大使館に部隊が突入……自殺ってシナリオだろうな」


 沈黙により室内が重い空気に包まれた。

 

 ライタは仲間になっていた。

 連合軍は捕虜となったライタを受け入れなかった。

  

 予定降下地点からの離脱。

 それは敵前逃亡とされた。

 しかも、推進器を搭載したⅢ型改を奪われている。

 その結果、敵の機体にも搭載される原因となった。

 

 圧倒的優位と言われた新型機のⅣ型ブラッドアーマー。

 その名のブラッドは敵ではなくパイロットの血を意味する。

 そう言われるほど、死亡率の高い機体となっていた。


 沈黙を破ったのはキヌタだった。


「いや、もう死んでるのかもしれない。最後の演説からもう何ヶ月も過ぎてる」

「まったく、多くの仲間を敵国に送ってるのに、こんな情報収集もまともに出来なくなるなんて、思ってもいなかったぜ」


 作業着を着た男の一人が椅子の背もたれに寄りかかって腕を組んでいた。


 基地に残っているのは放水用トンネルの近くにある街で生活している者達。

 偽装のために存在する地上の水力発電所。

 下流にある浄水施設や汚水処理場を管理している職員。

 そこで働いているのは全員義勇軍の兵士だった。

 

「えっ、生きてるよ」

「なんでわかるんだ?」

「友達が姫様の侍女だから……」

「マジか?」


 侍女から送られてくる情報端末へのメッセージ。

 送信は出来ないが受信は検閲規制はあるものの、ほぼ自由だった。

 

 別な世界のように書かれている物語。

 最初から真実を取りこみながら書いていると宣言して始められた物語。

 姫を男とし、自分も男として書かれてきた物語。

 そこに、新たな登場人物。

 義之ヨシユキユウ……二人に彼をゆだねる彼……。


 AIによる戦時検閲をすり抜ける架空の物語。


「これが、俺達に助けを求めてるメッセージなのか?」

「はい、あまり時間はないと思います。非常用の通路が使えるうちに助けないと」

「通路なんてどこにも書いて無いだろ!」

「それはですね……」


   ◇


 侍女とは接触せずに、地下水路からあっさり進入。

 彼に見つめられたまま、眠っていた姫様を確保。

 侍女の頼みで、本棚のお宝も戻るよう手紙を残し脱出。


   ◇

 

 透き通った青い空。

 雪解け水をたたえた湖。

 湖面をゆっくりと流れる風。

 

 湖を見渡せる丘の上。

 薄紅色の花を咲かせた大きな木。

 

 真っ白な長い髪の少女。

 杖を持つ青年。

 二人は並んで、木陰に座っていた。

 

 スズナ姫とライタ。

 終戦後、二人は名前を変え、湖のほとりに建てられた館に住んでいた。

 そこで管理人として静かに暮らしている。


 統一経済圏本部のある国で成功しているタイガの父。

 その支店で働く職員の保養地として建てられた館。


 訪れる社員は義勇軍の元兵士達。


 それと、スズナとマイナの友である侍女。

 3人は、大きなベッドの上に座って笑いながら話す。

 それぞれが抱いている新しい命と未来のことを……。


前回といい、今回といい。

こんな話になるとは……。

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