15. 目の前で消えました。
「はい、お受けいたします」
ワタクシは亡命政府の君主となったスズナと申します。
などと、のんきな挨拶をしていられません。
基礎教育学校へ留学中に戦争が始まり、大使館へと連れていかれました。
首都を制圧され、王であるお祖父さまの降伏宣言をを聞いたのです。
王族の身の安全は保障され、敵国で屋敷を頂き不自由なく暮らしてると聞いております。
ワタクシもそこで暮らすことになると思ってました。
しかし、そうはなりませんでした。
何度か式典でお会いしたことのある方々に、頼まれたのです。
「王族としての義務をなすべき時です」
亡命政府の樹立。
その象徴である君主として、王族であるワタクシガ選ばれたのです。
断れるはずがありません。
断ればどうなるのか……。
「何もしないでメシだけ食わせてもらえると思ってるのか! あの小娘は」
「元々お飾りの王家なんだから、お飾りとして最後まで勤めを果たせ」
「ココを追い出されたら何も出来ないくせに!」
「あの娘の預金は税金なのだから、亡命政府の資金だ、娘に渡すな」
などと、声が聞こえてました。
「大丈夫です。もし負けたとしてもスズナ様の命はすでに保障されてます。何も気になさらず、こちらにサインを……」
王族と言っても他国の王族を相手にするための職業のようなもの。
相手国の文化、礼儀作法などを専門的に学び、式典などへ参加する。
数年ごとに選挙で変わる政治家に、完璧を求めるのは酷なこと。
それに、何百年もの時を越えた、お付き合いから生まれる信頼。
国を治める王ではない、社交のための王。
王族とは、お飾りになるのが義務なのです。
だから、ワタクシはサインをしたのです。
学校に行く事もできず。
部屋に閉じこもり。
ときどきカメラの前で手渡された文章を読む。
そんな、日々を繰り返すだけ。
では、ありません。
暇だったのです。
怖かったのです。
情報収集をしました。
最初は授業に遅れないよう勉強もしました。
しかし、すぐに無駄な事と気がついたのです。
敵国で起こるテロ組織のアジトに、ワタクシの肖像画が飾られていました。
敵国の国民達の掲げるプラカードにワタクシの名前。
加工された写真や絵もありました。
そこには憎悪や憎しみといった悪意が込められていたのです。
「断頭台の露となって消え失せろ!」
怯えたワタクシを心配した人々が、私用の情報端末を取り上げました。
この国の友人と話すことも、情報収集も、読書やゲームも出来なくなりました。
いえ、できました。
少し歳上の侍女が、いろいろと支えてくれたのです。
軽く両手を広げたほどの小さなモニター。
そこに、侍女が許可を得て持ち込んだ魔法の箱をつなぎました。
古いけど通信端末がなくても動く、この箱専用のゲームソフト。
すべて彼女が趣味で集めた貴重な品です。
紙媒体の薄い本も補足資料として、次々と持って来てくれました。
リアルではデートをするような経験はありませんでした。
でも、ココでなら……。
いつも考えるのです。
イケメン男性が、ワタクシを連れ去る日を……。
そして、穏やかに暮らす物語を……。
ケンカしても仲直りして、絆を深めてゆく物語……。
次々とワタクシの前にあらわれる美男子達との学園生活……。
侍女は、男同士で絆を深める物語もイケルと言ってました。
いつか、ワタクシもそう思える日が訪れるのでしょう。
願わくば、全てのゲームが終わるまで、生きていたい。
しかし、そんなささやかな願いすら叶わないと……。
ワタクシに生きる希望を与えてくれた、侍女との別れ。
彼女は家族とともに疎開することになり、ココを去りました。
翌日からでした、街中に響くサイレン、廊下を駆ける足音。
部屋の明かりが消えました。
微笑んでいてくれた彼も、目の前で消えました。
空気を振るわせる轟音。
空襲が始まったのです。
誰もワタクシの部屋には来ません。
爆撃で跡形も無く消えるか、断頭台に上がるか。
結果は同じなのです。
爆撃が終わると、明かりが戻ります。
そして、また彼との想い出の時間を、途中からやりなおすのです。
◇
数ヵ月後、亡命政府を置いた国が統一経済圏連合軍に降伏。
同時に、亡命政府も消滅。
大使館では多くの者が地下のシェルターにいるところを捕らえられた。
その後、裁判ののち、処刑された。
数年後、王家の者は断頭台に上げられ、この世から消えた。
ただ、スズナ姫だけは、いまだ生死が不明となっている。
大使館の彼女の部屋には多くのゲームソフトと本が、綺麗に整理され本棚に納められていた。
その本棚には、1通の手紙があった。
侍女へ、返してほしいと……。
統一経済圏推進連合本部は、これらを調べたあと、侍女へと返していた。
父親がスパイで、何も知らない娘を大使館に送りこみ、様子を聞いていたのだ。
娘が何も知らずに行った行為が、姫を救ったのかもしれない。
大使館での生活状況から、牙を剥くことが無いと判断された。
その結果、捜索はほとんどされなかった。
生き伸びていたとしても、心理的に不安定な姫を利用できるとは思えない。
それに、監視されている可能性がある姫を、リスクを負ってでも利用する。
そんな敵は、もう現れないだろうと……。




