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大胆不敵イリュージョン  作者: みんしぃ
第2章 ハミングストリート
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15話*妖精の本探し

「さて。昨日リオは、ツツジの能力について疑問を持っていたね?」

「ん……? ああ、ツツジにどうして羽が生えているのかってやつか?」

「そう。一限が終わった後、それについて調べていたんだ。君とも情報共有しておこうと思ってね」

「一限が終わった後? それって……僕が講義を受けている間に!」

「ま、いいじゃないか。正直もう講義で受ける内容は知っていることばかりなんでね」


 アサギはヘラヘラと笑いながら席を立つと、調合机の上に積んであった本を持ってきた。


「昔一度この部屋で読んだことがあってね。ツツジの姿を見たとき、この本のことを思い出したんだ」


 年季の入ったハードカバーの表紙には『妖精との不思議な出会い』と書かれている。


「妖精……? ツツジは妖精だって言うのか? 妖精なんて、おとぎ話の中の存在じゃないのか?」

「まぁまぁ。とにかく中身を読んでみてくれよ」



 ---------------------------------------


『妖精との不思議な出会い』


 私が妖精と出会ったのは、この本を執筆している1ヶ月前のことである。

 みなさんは「信じられない」と思うかもしれないが、この実体験を後世に伝えるために、ここに記すことにする。


 植物学者として研究をしている私は、採取のためにとある山中を歩いていた。

 最初のうちは中々の成果だったが、欲を出して崖に生えた貴重な花を取ろうとしたとき、足を踏み外してしまった。

 そして、地獄の底かとも思えるような山中で動けなくなってしまった。

 途方に暮れて、食料もつき、朦朧としていた私の前に現れたのは、羽の生えた少女だった。

 羽には蝶のような模様が描かれていて、背丈は私の太股あたりまでしかない。顔立ちは人形のように整っていて、なんとも愛らしかった。


「おじさん、どうしたの? 具合わるいの?」


 そう声をかけてきた少女に、私ははっきりとした返事ができなかった。喉がカラカラで、うめき声のような音しか出てこなかったのだ。


「そう。具合悪いんだね。だったら、私の瞳を見て」


 一体何故? そのときはまったく意味がわからなかった。何かを考えるのも億劫だった私は、少女の言うとおりにその瞳を見つめた。

 すると、薄い色合いの瞳孔は、みるみるうちに濃い色合いになっていった。

 その美しさに圧倒されているうちに、気を失う寸前だった意識と体は、どんどん軽くなってゆく。


「どう? 少しよくなったでしょ?」


 彼女が現れなかったら、私はあそこで死んでいたかもしれない。心からの感謝の気持ちを述べると、彼女はニッコリと微笑んで、その羽を使って空に飛んでいった。

 少女が何故私のことを助けてくれたのかは、今になってもわからないが、この出来事は間違いなく事実だ。

 といっても、誰かに信じてもらえるような証拠が残っているわけではない。この本を読んで、妖精の実在を証明してくれる人が現れてくれることを願っている。



 ーーマゼンタ・H・ルイード著



 ---------------------------------------


「この本は……」

「そう……ツツジの特徴にそっくりだろう?」


 アサギの顏を見上げると、こっくりと頷いた。


「そっくりだな」

「この作者が生きていたら実際に会って話を聞いてみたかったが……なにしろ100年前の本だから」

「そんなに前の本なのか」

「ああ。この本が発表された当時は、いわゆる都市伝説みたいな扱いしか受けていなかったらしいが……きっとマゼンタ博士は本当に妖精を見たんだろう」

「うん……僕だって、ツツジに会ってなかったら、ただの都市伝説だと思っただろうね」


 アサギは立ち上がると、窓の外を眺め始めた。もう日が暮れ始めて、室内は西日の朱色で染まっている。


「ただ、その本に出てくる妖精とツツジの特徴は、食い違う点もある」

「へえ? どこが違うっけ?」

「背丈だ。妖精は博士の太股あたりまでしかないと書かれているだろう?」

「あ、そっか……確かにツツジも小柄ではあったけど、流石にそこまで小さくはないな。普通の少女サイズだ」

「そうだろう? そこだけが気になる点だが……でもやはり、ツツジは妖精に近い種族の生まれと考えていいだろう。この本にもっと妖精の能力について書かれていたらよかったんだが、そこまで詳しいことは載っていないんでね。引き続き調査するつもりだ」

「そうだな。ツツジの能力についてもっと分かれば、あの子を捕まえられるかもしれないし……」

「まずはもう一度図書館の本を探してみるつもりだ。どうだい、リオも来るか?」

「これから?」

「ああ」

「ま、いいよ。家に帰っても特にすることもないしね」


 ***


 図書館に来ると、受付にはガタいのいい男の司書が座っていた。


「今日はトープさん、お休みなんだな」

「いや、お昼には居たよ。交代制なんだと思う」

「なるほどね。トープさん、お前に会えて嬉しがってたんじゃないか?」

「ん、まぁ。たぶんな」

「無関心だなぁ。トープさんはあんなにお前のことを好きだっていうのに……」

「恋愛感情なんて、抱かない方が生きていて楽なんだよ。さて! 探すぞ! 僕は古い文献を探してみる。リオは現代の本を探してくれ」

「へーい」


 この図書館は、ビビッドシティ内でも1番大きい図書館と言っていいだろう。

 アンティーク調の壁一面、本でギッシリだ。

 現代の本が置いてある中二階に上ると、ゆるやかな曲線の天井がよく見えた。天井には、天使が舞い降りてきそうな空の絵が描かれている。

 誰が描いたのか知らないけど、きっと著名な人が描いたんだろう。


 それにしても、このフロアだけでも膨大な量だ……どこから探していこうか。

 現代の本と言っても、まずはジャンルを絞らなくちゃな。

 妖精……って、一体どんなジャンルに分類になるんだ? 怪奇現象……とか? 

 えーい。わからん。とにかく歩いてみるか。


 本棚の間を進んでゆくと、何人か学生たちとすれ違った。

 あんまり図書館って来てなかったけど、結構人が来ているんだな。


「ん……?」


 奥の本棚の前に、黄色い髪の女の子が立っている。

 あの髪色は……やっぱり。さっき部室に来た、ミモザって子だ。

 彼女は高いところにある本を取ろうとしているらしく、つま先立ちて手を目一杯上にあげていた。


「大丈夫?」


 僕はアサギみたいに高身長じゃないけど、彼女よりは少しだけ背が高かった。1年前だったら取れなかったかもしれない。少しだけど、伸びてよかったな。


「あ、ありがとうございます……あっ!」


 取ろうとしていた本を渡すと、彼女は目を白黒させた。

 そんなに驚かなくてもいいのになぁ。


「あああっ。あの……! ありがとうございます……。そ、それでは、これで失礼しましゅ……」

「あ、待ってよ!」


 いけない。これまた逃げられるパターンだ。

 思わず手首を掴むと、去ろうとしていた彼女は振り返った。

 ……なんでだ。黄色い瞳が、心なしか潤んでいるように見える。


「あ、あのさ……僕、何かしたかな? 何か不快な思いをさせたなら、謝るよ。でも、なんで僕を見ると逃げようとするの?」

「あ、あの……リオ先輩は、悪くないです……その……」


 その潤んだ瞳を見たとき、記憶の糸がピンと張ったような気がした。

 ビーズみたいにキラキラして、泣きそうな瞳……


「君……どこかで会ったっけ?」

「えっと……ごめんなさい。もう少し、勇気が出たら……その時ちゃんと、お話させてくださいっ」


 彼女は僕の手を振り払うと、早足で去っていった。

 一体、どこで見たんだっけな……

 パズルのピースが、ひとつだけ足りないみたいで、なんだかモヤモヤする。

 あともう少しで、思い出せそうなのに……


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