表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大胆不敵イリュージョン  作者: みんしぃ
第2章 ハミングストリート
11/17

10話*初めての来客

 怪盗ツツジが現れて、トープさんを見送ったその後。

 現場検証に付き合ってから、ようやく自宅へ帰ってきた。

 見慣れた白い木造アパートは朝日に照らされて、いつもより更に白く見える。

 慣れない力を使ったせいか、体の節々が痛くて、全身が重たい泥のようだ。

 大した時間は経っていないはずなのに、やけに久しぶりに感じる自室。

 このベッドは、自分専用の巣と言っていいだろう。とても安心する……


 ***


 また、あの感覚だ。

 見えない力が身体中に張り巡る、人には伝えづらい感覚。

 今見えているこの映像は、きっと夢なんだろう。


 薄暗い部屋の窓辺に、怪盗ツツジがちょこんと腰掛けている。

 昨日見ていた満月よりも、ほんの少しだけ欠けた月が彼女を照らしていた。


 ああ、なんて綺麗なんだろう……


 わずかに揺らめく羽は現実離れした輝きを放ち、細すぎる手首は壊れやすいガラス細工のようだ。

 月を仰ぐその表情は、見る人々の庇護欲を掻き立てそうなほど儚い。


 ツツジは昨日と同じ服装をしているが、1つだけ違うところがあった。

 首につけていた黒い首輪が、外されている。

 露わになったその首筋には、青い光を帯びた切り傷が見えた。

 痛々しい……

 一体どういう事をしたら、あんな傷がついてしまうのだろう。


「どうやら失敗したようだな」


 艶のある滑らかな声が響いた。

 声の方へ振り向いてみたが、室内は薄暗くて、その人物の姿形はよく見えない。


「ごめんなさい……」


 ツツジはか細く震えるような声で謝ると、目を伏せた。


「今回は許してやろう……でも、次は無いと思え」


 その声はベルベットのように柔らかいのに、氷のような冷たい響きも含んでいた。

 声だけで人を惑わしそうなほどの、艶やかな声が耳に纏わりついてくる。


 ツツジを照らしていた月が、雲で覆い隠されてゆく。

 薄暗かった室内は完全な闇になり、僕の意識もどんどん遠ざかっていった……



 ***



 耳をつんざくようなインターホンの音で目が覚めた。

 インターホンはしつこく鳴り続け、止まる気配がない。

 まだベッドから出たくなかったが、あまりにもうるさい。


「ああっもう! うるさいな! 今出るよ!」


 鳴り止まないインターホンに若干イラつきながら起きて、木造の室内をバタバタと歩いてゆく。


「はい! どちらさまですか!」


 どうせ宅配業者だろうと思いつつガチャリと扉を開けると、そこにはアサギとジャスパー先生が立っていた。


「やあ、リオ。目は覚めたかい?」

「リオくん! 大丈夫ですか!?」

「な、なんでアサギとジャスパー先生が?」

「君が学園を無断欠席したからね。心配で見に来たんだ」

「へ? 無断欠席……?」

「リオくんは講義を欠席したことがなかったし、何かあったんじゃないかと思って……」

「ちょ、ちょっと待ってください。今、何時……?」

「夜の8時だ。外をごらんよ。もう真っ暗だ」

「えーっ!?」


 アサギとジャスパー先生の間を割ってアパートの廊下に出てみると、空はもう深い藍色に染まっていた。


「そ、そんな……ちょっと仮眠して午後の講義には行こうと思っていたのに……」

「仕方がないさ。昨日は色々と大変だっただろう?」

「そうですよ! でも、体調を崩したりしていなくて安心しました」


 ジャスパー先生はホッとした表情を浮かべると、僕の肩をトンと叩いてきた。

 そういえば……ジャスパー先生には聞きたいことがあったんだった。


「ジャスパー先生! どうして嘘をついてまで、僕に本を届けさせたんです?」

「えっ? な、なんのことやら」


 先生は思い切り目をそらして、うわずった声で答えた。


「ジャスパー先生、正直に白状してはいかがですか?」


 アサギがニンマリと余裕の笑みを浮かべながら聞いた。


「……やっぱりバレてしまいましたか。アサギくんには嘘つけないですね」


 ジャスパー先生は少しためらうと、諦めたように話し始めた。


「リオくんも、アサギくんも、寂しそうに見えたからです。リオくんは私以外の学園関係者とは絶対に話さなかったし……アサギくんはアサギくんで、みんなの憧れの的だけど、学生にとっては輝かしすぎる存在で、本当の友達はいない……そんな2人が話してみたら、案外気が合うんじゃないかなーって思いついて。ちょうどアサギくんに本を貸す約束をしていたし、リオくんに届けてもらおうかと」


 アサギはうんうんと頷いている。

 ま、確かに僕はジャスパー先生以外とは話してなかったけどさ……

 別に寂しくなんかなかったのに。


「それにしても……私の目論見がうまくいって嬉しいです! やっぱり君たちの相性はぴったりでしたね。初めて出会ったその日に早速事件に向かうくらいですし……」

「はぁ……」

「リオくんの無事が確認できたことですし、私はそろそろ退散しようと思います。あ、見送りは結構ですから!」

「あ、ちょっと! ジャスパー先生!」


 呼び止める暇もなく、ジャスパー先生はそそくさと帰ってしまった。そんなに急いで帰らなくてもいいのに。

 ややお節介とも言えるけど、こうして様子を見に来てくれるし、やっぱりいい先生だな。


「春先で暖かいとはいえ、ここは少々冷えるな」


 アサギがポツリとつぶやいた。

 気がつけばアサギたちが来てから、ずっと玄関先で話していたままだった。

 アサギは気を利かせて帰る様子もなく、アパートの廊下の壁に寄りかかっている。

 どうやら、動くつもりはないらしい。


「……うちの中、入るか?」

「いいのか?」


 アサギはパッと顔をあげると、しめたと言わんばかりの表情をした。


「別にいいよ。ちょうどお前に聞いてほしいことがあったし……」

「ほう、それは光栄だな。では遠慮なくお邪魔するよ」


 この部屋に入るのは僕以外ではアサギが初めてだ。

 まぁ、今まで招き入れるような交友関係もなかったしね……

 アサギはお邪魔します、と一声かけると丁寧に靴を揃えて部屋にあがった。


「綺麗にしているんだな」

「綺麗にしているっていうより、物が少ないってだけだけどな」


 アサギは感心した様子で部屋を見回している。

 僕の部屋は本当に殺風景で、雑貨といえる類のものは1つも無い。

 白を基調とした木の壁で、ベッドと机とソファが置いてあるくらいだ。

 この部屋のいいところは、アパートにしては天井が高いところと、立地がいいところだ。

 大きな窓からは時計塔広場が見えて、おとぎ話のような街並みをいつでも堪能できる。


「ソファにでも掛けてくれ。ティーバッグでよければお茶を出す」

「お気遣いありがとう。では遠慮なくいただこうか」


 どこにでも売っているティーバッグでお茶を入れて、ソファ前のローテーブルに持っていく。

 アサギは礼を言ってから一口含むと、早速口を開いた。


「また夢を見たんだろう?」

「やっぱり、お前にはお見通しだったか」

「聞いてほしいことがあるなんて、君の口からはそうそう出そうにないからね。また特別な夢を見たんじゃないかと思ったんだ」

「うん。あの感覚は、間違いないと思う」

「詳しく聞かせてくれ」


 窓辺に腰掛ける怪盗ツツジと、艶のある声……

 僕はついさっきまで見ていた夢の内容をアサギに話しはじめた。


1月中に投稿しようと思っていたのに、もう2月になってしまいました……

今日から2章が終わるまで毎晩投稿しますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ