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第二話 帝国と帝都

 帝都ドラゴニアの中央に聳え立つ王城は威圧感と荘厳さそして美しさを併せ持つ王城である。

 その王城の玉座の間では朝の朝議のために国家の重責を担う重臣達が顔を揃えて集っている。

 玉座に座する皇帝アレクサンドル・ドラゴディアは15才にして父親である先の皇帝を弑逆して皇帝となった人物である。

 帝位に就くと帝国内の腐敗を一掃してその支配を磐石にしたことでも知られるが何よりも彼を恐れさせたのは腐敗した貴族階級の処刑と爵位の剥奪そして所領の接収の容赦の無さであった。

 それまで貴族に頼っていた騎士団の編成に対しても職業軍人制の導入により新たに軍部の再編を行い、取り潰した貴族から接収した所領に関しても新たな貴族を置かずに総督府を置き帝都から地方長官を派遣している。

 そうして貴族に頼らない中央集権体制を確立させて貴族階級を根絶やしにしたのである。

 朝議の最後に先のダイカスとダルマーによる偽造硬貨の未遂事件の話がでる。


「新硬貨製造の話がまだ表に出ていなかったとはいえご苦労なことだな」


 アレクサンドルが一言漏らした感想にその場の全員がため息をこらえる。

 死人もでている事件でありそういう問題では無いのである。


「陛下、この件に関しては飾り職人の親方が1人殺されております。

 軽率な発言はお控えください」


 玉座の脇に控える女性がそう苦言を呈する。

 アレクサンドルの妻であり皇妃になるマリアンヌである。

 

「そうであったな、これは余が軽率であった許せ皇妃」


 皇妃という立場であっても帝国にあっては唯一皇帝のみが絶対君主であり政治的な発言は許されないものであるがマリアンヌに関しては誰もそのことを口にはしない。

 政治的見識の確かさもあるがそれよりも皇帝と第一皇女にたいして唯1人叱ることのできる人物というのが大きいのである。

 重臣達も皇帝には苦言を呈するしそのことで咎められることはないが子供染みたところのあるアレクサンドルは意固地になって頑として説得に応じなくなることがあるからだ。


「この件に関しては憲兵隊での取調べののちに司法省の判断に任せることで問題はなかろう。

 他に何もなければ朝議はここまででよかろう」

「陛下、最後にもう1つエルレーヌのことですが」

「エルレーヌがどうかしたのか、元気に過ごしているようだが」


 マリアンヌの言葉に本気で分かっていないアレクサンドルに重臣達も今回はため息を抑えられなかった。

 その様子を不思議そうに眺めるアレクサンドルにマリアンヌは説明を始める。


「その元気過ぎるのが問題なのです陛下。

 護衛も無く無断で帝都の外にまで出かけたうえに賊を相手に大立ち回りを演じてあまつさえ魔法によって建造物の破壊をしたのですよ」

「あれを・・・エルレーヌを害せる者などおるまい。

 屋敷の破壊は確かにやり過ぎであろうが何時(いつ)ものことではないのか」

何時(いつ)ものことで済ませないでください。

 そうやって陛下が甘やかすから何時(いつ)まで経っても素行が改まらないのですから」

「子供は元気で外で遊びまわっているほうが良いとアルベールも言っておったぞ」


 ふくれ面のアレクサンドルに名前をだされて国務尚書アルベールが困った顔をする。

 確かに言ったが20年近くも前の話でありエルレーヌが生まれる前の話である。

 さらに言えばアレクサンドルとマリアンヌが結婚する前の話である。

 記憶力が良いからなのかアレクサンドルは数十年前のことでもつい先ほどのように話す癖があり悪気がある訳ではないことは皆が知っていることではありアルベールも不快に思ったわけではない。


「子供と言ってももう17です。

 皇家の一員としての自覚を持って振舞うには遅すぎるくらいなのですから。

 ここは陛下からきちんとお話をなさってくださらないと困ります」

「分かった、善処しよう」


 これ以上言っても機嫌を損ねると判断してマリアンヌも一旦は退きさがる。

 そこで朝議は終わってアレクサンドルとマリアンヌが退がるとアルベールのもとに軍務尚書ディートリヒと工部尚書ラウルと魔法尚書ジュリアが歩み寄ってくる。


「ところで魔法学院の方は今どうなっているのだ」


 ディートリヒがジュリアに尋ねる。


「オデット様とモーリス様は寝込んでしまいましたわ。

 パスカル様も自信を失くして引退すると・・・」

「まあ、あの結界が何の前ぶれも無く一瞬で消されては御3方も立場がないであろうからな。

 とはいえエルレーヌ様のお力を考えれば致しかたないのであろうが・・・」

「もとはと言えばまだ幼いエルレーヌ様が誰にも気付かれぬまま魔法で帝都の外へと跳躍して出てしまうのを防ぐためのものだったからな」


 アルベールとラウルがそう語る。


「どのみちエルレーヌ様が大きくなられた以上は結界の役目は終えている訳だがどうしたものか。

 今までなら帝都内であれば誤魔化してもこれたが外にだすとそうはいかなくなるぞ」

「それともう1つアルドの件だが遂に憲兵総監が()を上げることになった」


 ディートリヒの言葉に全員が困ったような哀れむような複雑な顔をする。


「アルド自身は優秀で問題ないのですがエルレーヌ様がもれなく付いてきますからね。

 さすがに憲兵総監も今回の件は肝を冷やしたのでしょう」


 ジュリアの言葉に全員が頷く。


「となると次に誰のところにアルドを配属するかだが・・・さすがにもう無理か・・・」

「でしょうね。

 すっかりアルドも帝都では有名ですから」

「とはいえ皇女殿下が婚約者と呼ぶ相手を無職にする訳にはいくまい」


 ラウルの言葉に全員が考え込んでしまう。


「アルド本人に問題は無いがそもそも出自自体が謎だからな。

 そうなるとせめて何かしら仕事をさせて外見だけは整えとおかねばならないのは確かだが」


 ディートリヒの言う出自自体が謎というのは比喩ではなく本当に分からないのである。

 ある日3才のエルレーヌが誰にも気付かれること無く城を抜け出して連れ帰ってきた子供がアルドなのである。

 まだ互いに幼かったからかアルドとエルレーヌもどこで出会ったのかは覚えてはいなかった。

 無論この事態に対して軍務省の諜報部が総力を挙げてアルドの身元を調べたが何も分からなかったのである。

 その後も行方不明の届出などあらゆる方法で調べられたが全て徒労に終わってしまっている。

 唯一の手がかりはアルドの操る霊影士(ルヴナン)であるが魔法学院でも該当する文献は見つからず精霊に属するものであると分かったのみである。

 城から出して誰かに預けることも考えられたがそれまで頻繁に暴走していたエルレーヌの魔法力が一定の落着きを保つようになったことから無理に引き剥がさない方が良いとされて12才まで城で育てられることになったのである。


「分かったその件に関しては俺の方からアレクサンドル陛下とマリアンヌ様にご相談申し上げる」


 損な役回りと言えなくも無いがアルベールがその役を引き受けることにする。

 その後は各省で必要な情報交換を行ってから解散となる。




 玉座の間を出るとアルベールはその足でアレクサンドルとマリアンヌのもとを尋ねる。

 皇帝の執務室となるその部屋は図書館と見間違うほどに本棚が並んでおり広い部屋のほとんどを埋め尽くしている、

 日焼けを防ぐために窓は無いが風の魔法具で気温や湿度は調整されて不快ではない。

 奥の広い机がアレクサンドルの席になりその脇にマリアンヌの席がある。


「アルドだが確かに何もさせない訳にはいかないか。

 本人の希望は何かないのか」

「以前から機会があれば旅に出たいと申しているくらいですね」

「旅に?何故だ」

「おそらくは自分の出自を知る手がかりを得られないかと思ってのことだと」

「それならば巡検使が良いであろう。

 それぞれの役割により等級を設けて分けてはいるが新たに設ける予定があるのだ。

 アルドならば各所領の総督府を監察するため内密での派遣となる一等巡検使の龍を任せられるであろう」

「おそれながら陛下」


 そこで横からマリアンヌが口を挟んでくる。


「エルレーヌのことをお忘れではござませんでしょうか」

「やはり付いていくと思うか皇妃」

「はい、エルレーヌのことですから間違いなく」

「・・・まあ仕方がないであろう。

 外に出て見聞を広げることも大切だからな」

「おそれながら陛下はエルレーヌに対してもう少し危機感を持っていただきたいと思います」

「だが事実エルレーヌに勝てるとしたらアルドくらいのものであろう。

 皇妃は少し過保護過ぎるのではないか」

「いくら常識外れの魔法力と体力を持っていても年頃の娘です。

 親ならば心配して当然ではないでしょうか」

「あまりエルレーヌばかり心配しては弟のジョルジュが可愛そうではないのか」

「陛下は極端過ぎるのです。

 もう少し手を抜くところは抜いて力加減を覚えてください」

「どのみちあの魔法力だ城に閉じ込め続けておくわけにもいくまい。

 ジュリアや3大師でさえも教えることができないのだからな。

 外に出て自分自身で力と向き合い力の使い方を学ぶしかあるまいのではないか。

 成長するたびに力を増している以上は本人が自覚して自身で学び取る以外にはあるまい」

 

 完全に蚊帳の外に置かれたアルベールではあるが口を挟まずに結論がでるのを待つ。

 アレクサンドルとマリアンヌが出会ったときもこんなふうに言い合いになったものである。

 アレクサンドルもそうであったがドラゴディア皇家では代々数名ではあるが魔法力の高い者が生まれる。

 父親である先の皇帝を弑逆したのもアレクサンドルが歴代でも比類ない魔法力を持って生まれたことで危険視されて命を狙われ続けていたからである。

 皇帝の弑逆の際に皇家の血をほぼ根絶やしにしたのもアレクサンドルにとっては殺される前に殺しただけであって皇帝になりたかった訳では無い。

 それでも責務として帝位には就いたが愛情が欠落して育ったアレクサンドルは効率のみを優先して人の気持ちを顧みることができなかった。

 そのときマリアンヌが謁見に訪れて悠然とアレクサンドルの玉座の前に歩み寄って平手打ちしたのは有名な話である。


「結論が出たぞアルベール」


 声をかけられて少し自分が呆けていたことにアルベールは気付く。


「アルドは一等巡検使として任ずることにする。

 エルレーヌは止めても無駄ならば一緒に行かせることにするが表向きは風龍の大神殿にて素行をあらためさせるとして預けることにする。

 一応報告のためという名目で影法師を同行させることにする」

「分かりました、ではディートリヒ達には私の方から話をしておきます」

「うむ、そちらの方は任せる。

 内密に進める事からも各尚書の強力は不可欠だからな。

 あとで改めて呼ぶことになるだろうがよろしく頼む」




 その日朝早く帝都の門から旅立つ者達とそれを遠くから見守る者達がいた。

 アレクサンドルとマリアンヌは城門での見送りを済ませており帝都の門から旅立つ2人を見送るのはアルベール、ディートリヒ、ラウル、ジュリアを始めとする各尚書と城で働く近しい者達である。

 アルドは嬉しそうにはしゃぐエルに若干の不安を覚えながらも何があってもエルを守ろうと決意を新たに門を潜って帝都の外へと踏み出す。


「どうしたのアルド。

 ほら早く行きましょう」

「嬉しそうだね、エル」

「だってお父様とお母様公認の婚前旅行なのよ」

「っチィガァァァウ!

 仕事で行くんだからね。

 お願いだから目立つことは・・・。

 いや、何でもない」


 既に目立っているエルを見て言っても意味が無いと悟ってアルドはエルの隣に並んで歩きだす。

 アルドとエルの旅がここから始まる。



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