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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

念願のエロゲの世界にトリップ

作者: るむるむる


 現実は嫌だ。俺は常々そう思っていた。これでも小さいころは色々と夢を見ていた。漫画やアニメに影響され中学にあがった時は女の子と仲良くなりケンカしたり、あるいは愛を確かめ合ったり友達に悩みを相談したり、しかし現実はそう甘くはなかった。


 女の子と仲良くなる。なにそれ? どうやって? 同じクラスの可愛い子とお喋りする。そんな機会なんてほぼない。だって、大抵はグループを作ってつるんでいるんだもん。女の子は女の子同士。男は男同士。うんまあ、当たり前だよね。男女混合のグループ? あるにはあったがそのグループとは縁もゆかりもなかった。

 まあ、要するに漫画やアニメみたいなイベントなど現実にはほぼありえないという事である。

 夢が砕け散った瞬間だ。


 だが俺はまだあきらめてはいなかった。中学がダメなら高校があるじゃないか! よしならば今度こそと気合を入れたが。


 はい、お察しの通りです。世の中そんなに甘くはない。つうかそんな簡単によく知りもしない可愛い女の子と長い時間二人きりでいられるシチュエーションなぞあるはずがない。うん、なる機会はあったよ! そりゃいくらなんでも中学、高校ときて一度もないわけじゃない。二、三回しかなかったけどさ。


 何喋っていいかわからず、ほぼ沈黙で時間が過ぎていきました。

 ……フラグってどうやって立てるんだよ。誰か教えてください。


 大学も似たようなものです。というかこの時期はすでに将来を見据えて動かなければ就職に困るので余裕はありませんでした。

 漠然と高校の延長で大学に通っていたらあっという間に取り残されてしまうのが目に見えているので、資格など食っていく手段を時間と親に甘えられるうちにとっておかなければ将来苦労することが目に見えている。


 幸い彼女もいなく自由に時間を使えたおかげで公務員の資格を手に入れることが出来ました。もちろん公務員の資格と言っても最底辺の資格ですけどね。 いやあ彼女いなくてよかったなあ! 自分のためだけに時間が使えてうれしいなあ!

 面接も一発合格! 地方の市役所で働くことが出来ます! ほんと彼女がいなくてよかったなああああああ!!

 ……むなしい。心底そう思う。

 社会に出て忙しくなりますます出会いがなくなる。毎日自宅と役所の往復。残業もなく定時で上がれるし土日祝日は休みで時間も余る。


 ほんとむなしい。女の子といちゃいちゃしたい。せめて二次元でもいいから! そう思い18禁ゲームに手を出した。そこから転がり落ちるようにあらゆるエロゲに手をだしむさぼるようにやりこんだ。


『あのさ、君といると胸の奥がキューっとなって体がポカポカしてくるんだ……』


 画面の中にいる女の子がそう語りかけてくる。


「くっそう……かわいいなあ! こんなことを言ってきてくれる女の子が学生時代にいてくれたら。なぜおれの周りにいなかったんだ! というか現実に存在するのか! くっそ! くっそ!」


 心の中で血の涙を流しながらテキストを読み進めていく。

 ふと時間を見るとすでに深夜一時だった。


「やべ、もうこんな時間か。続きは明日にするか。寝よ」


 ゲームを終了させパソコンの電源を落としベッドにもぐりこむ。


「あー、明日は仕事か……やだやだ。エロゲの世界に行きてえなあ。女の子といちゃいちゃしてえなあ」


 そうつぶやきながら俺の意識は眠りへと落ちて行った。



                  ──────────


 朝、目覚ましの音で俺は目が覚めた。うるさく鳴り響いている目覚まし時計を止めてむくりと上半身を起こして大きく伸びをする。


「潤一! 早く降りてきなさい! ご飯覚めちゃうわよ」


 下から声がかけられる。

 俺は一瞬何のことだが呆気にとられた。周りを見渡すと自分の部屋とは似ても似つかない空間。


「は?」

 状況がつかめずに俺は困惑する。こんな部屋に見覚えはない。俺の借りていた部屋はもう少し広かったし、エロゲのポスターや本などがあちこちに散らばっていて結構汚い部屋である。


 なのにこの部屋は多少散らかっているもののある程度は整理され、なにより健全な空気が漂っている。


「ど、どういうこと? なんだ?」


 きょろきょろと周りを見渡すと近くにあった小さな鏡に一瞬自分の姿が映し出された。

 あわててその鏡を手に取り自分の姿をまじまじと見る。


「……誰だこいつ?」


 鏡に映った人物は、まだ幼さが抜けきらない少年である。くせっ毛の強い茶色い髪の毛でぼんやりとした平和そうな少年。体格は少々小柄な印象だ。


 まったく見覚えのない人物が鏡の前にいて俺は激しく動揺した。


「なんだ? 何が起きた? というか俺なのか? 待ておちつけ……深呼吸しろ」

 落ち着いたところで何も変わらない。

 いや、少しだけ記憶に引っかかるものがあった。

 どこかで見たことのある人物ではあるが、いったいどこで見かけた人物なのか思い出せない。


「と、取りあえず状況把握が最優先だな。あと役所に連絡しなきゃ」

 携帯を探すために部屋を見渡す。机の上に置いてありあっさりと見つかったので早速自分の勤めている役所に電話を掛けるがつながらない。


「やべえ……どうしよう」

「お兄ちゃん! 遅いよ! 早く支度しなきゃ遅刻しちゃうでしょ!」


 ノックもせずに部屋に飛び込んできた少女に呆気にとられてしまった。ツインテールがよく似合う小学生くらいの女の子である。目が大きくてキラキラと輝いているのが印象的な少女だ。間違いなく可愛い女の子の登場に色々な感情が湧き上がる。


「お……お兄ちゃん?」

「……? どうしたの? それより早く支度してよ! 今日はあたしの晴れの舞台なんだから」


 甘えてくるように俺の腕をとってくる美少女。やばすぎる。悩殺ものである。抱きしめてペロペロしたいと思うが理性を優先させる。とにかくこのままでは埒が明かない。促されるままに着替えをすませて部屋を出る。


 どうやら家の造りは典型的な一軒家らしいな。つうか何なんだ。本当に意味が分からん。いやでもなんか引っかかるんだよな……いま俺の隣にいる少女もどっかで見たことがあるぞ。


 こんな幼い子と知り合いになった記憶はないんだが。まあいいや取りあえず支度をすませて外に出よう。

 外に出ればなにかしら情報が掴めるだろう。


「やっと降りてきたわね。もう時間ないから今日は朝飯抜きだよ早く学校に行きな。美々あんたも今日から聖城学園の一員なんだからね。もういたずら騒ぎを起こしちゃだめよ。もう成人してるんだからね」


 ……いや、ちょっとまて! 口調から察するに母親なんだろうが美人すぎるだろ! どう考えても二十歳前後にしか見えないんだが、姉とかそういう感じなのか? それよりも何よりも俺の隣にいる少女が成人だと!!


 どう考えても小学生だろ! おかしいぞ。このシチュエーション! いや……この設定がよく使われるものがなんなのか俺は知っている。


「まさか……マジかよ」

「潤一? どうしたの?」

「お兄ちゃん朝から変なんだよね……」

「この子が変なのは昔からでしょ」

「あははは、お母さんひどい。もうとにかく遅刻しちゃうから早く行こう」


 そういいながら美々が俺の手を引いて外へと駆け出す。


「なあ……ここってどこなんだ?」


 我ながらアホらしい質問だと思うが自分がどこにいるかを把握しておかなければならない。

 予想されていたが美々は怪訝な表情を浮かべて俺を見上げてくる。


「お兄ちゃん? 本当にどうしたの大丈夫?」

「あ、いや……そうだ! あれだ! あれ! この街の名前ってなんだっけ?」

「……。古野原市このはらしだよ? 変なお兄ちゃん」


 美々はそれっきり口を開かなくなった。時折こちらをうかがうような視線を向けていたが俺は気にせず記憶を引っ張り上げる作業に没頭した。


「おーっす! 今日はいい天気だな! どうした潤一? んなしけたツラしやがって。今日は新入生の歓迎日だぞ! 先輩がそんなツラしてると沽券に係わるぞ」

「神奈ちゃん! おはよー!」

「おー美々か。そういやお前も今日から新入生だったな。いやーあのちっちゃいガキがいつの間にかでかくなりやがって」

「えへへ。よろしくね先輩」


 学校に向かう途中いきなり現れた少女に声をかけられ俺は困惑したまま口を閉ざしていた。この少女も美々に負けないくらいの美少女である。といっても方向性はまた別だ。


 美々が可愛らしく可憐というのであれば、神奈と呼ばれた少女はスタイルがよく健康的な印象だ。髪の長さはセミロングをもう少し短くしたもので前髪も綺麗に切りそろえている。中々の長身で額ひとつ分くらいでギリギリ俺のほうが勝っている。


「おいおい? 潤一。どうしたんだ? いきなりあたしの姿をマジマジとみて? さてはあれか? あたしの美貌に見惚れたのか?」

「神奈ちゃんは美人だもんね! でも残念お兄ちゃんじゃ釣り合わないし脈がないよ」

「はっはっはっ! 美々はいい子だな! よし特別に飴をやろう」


 美人と言われて気をよくしたのか神奈がポケットから飴を取り出し、美々に渡す。

 美々はそれを嬉しそうに受け取り口の中で転がし始める。そこへさらに新たな登場人物が俺に声をかけてきた。


「朝から賑やかそうだな。全く。入学式で浮かれるのはいいが、楽しいのは最初だけだぞ?」

翔希しょうきか。希望を持った新入生にいきなり不穏な事を言うなよ」

「そうは言うがな、神奈。お前下手したらここにいる美々と同級生になってた可能性だってあったんだぞ? 全くあわや留年騒ぎを起こして俺に泣きついて来たのはどこの誰だか忘れたとは言わさんぞ?」


「お、おい! やめろよ! あれは、そのちょっと準備が足りなくて」

「去年一年の間に進級する準備が足りなかったというのか? 面白い意見だな?」

「うう」

「翔希さん。あまり神奈ちゃんをいじめないであげてください」

「別に俺はいじめたつもりはないんだがな……ま、これに懲りたら今年はしっかりと勉強することだな」

「ふぁーい」


 などという会話が繰り広げられ神奈はあからさまに落ち込みそれを美々が慰めている。

 そしてこの翔希という登場人物の出現で俺は一気に思い出した。


「マジかよ……」

 俺の一言に全員の視線が俺に向かうが俺はそれに気にかける余裕はない。

 そう俺は念願のエロゲの世界に足を踏み入れたのだ。このゲームを俺は知っている。数あるエロゲーの中でも名作とうたわれて高評価を得ている作品だ。


 だが……なぜによりにもよってこのゲームなのだ! 俺は声を大にして抗議したい!

 ああ、確かに望んでいたさ! エロゲの世界に入って女の子とイチャイチャしたい! それは俺の掛け値なしの本音である!


 だが、これはないだろう! 俺は絶望した。なぜならばこのゲームはいわゆる中二バトルゲームだからである。

 そして主人公は最後に登場した人物。平澤翔希ひらさわしょうき

 俺は主人公の親友ポジションである。だがこれが最悪なのだ。


 この俺が憑依した高峰純一(たかみねじゅんいち)は主人公グループの中でも盛り上げ役に位置している人物なのだが、主人公がどの攻略ヒロインルートを辿ろうと全て死亡フラグが立っているという作中において屈指の報われないキャラなのである。いわゆる真エンドと言われている大円団ルートですら仲間をかばい敵に命をとられるという始末。


 エンディングでは主人公とヒロインの間に儲けられた子供に俺、すなわち潤一の名前が付けられるが……ふざけんなあああああああああああああああ!


 ああ、確かに感動したさ! PC画面の前でも泣いたさ! エロゲにもかかわらずヒロインよりも人気のあるキャラで話題になった人物だよ!


 けどな、けどな! 俺が望んでいたエロゲの世界で、よりにもよってこの人物に憑依するってそりゃないだろう!


 純粋に女の子とイチャイチャできるエロゲなんて腐るほどあるのに! なんでこのゲームなんだ! なんで歩く死亡フラグと言われているキャラに憑依してるんだよ!


 つうかこのまま俺が死ぬと俺自身はどうなるの? 怖くてためせねええええ! リセット機能! リセット機能はどこにあるんだ!


「潤一? さっきから険しい顔をしているが何か悩みがあるのか? 相談に乗るぞ」

 翔希が心配そうな表情を浮かべながら俺に声をかけてくる。


 さすが主人公だな。おい。なんというが頼りがいのあるオーラを放ちまくってやがる。けどなお前が俺の妹を選んだら、俺はお前達のために単身で敵の拠点に乗り込み暴れまわったあげく精神を食われて廃人になり肉体が砕け散るんだよ!


 ちなみに神奈を選ぶと密かに神奈に思いを寄せていた俺は、主人公に抱いていた劣等感と嫉妬が合わさり敵に寝返ってお前と戦いお前の腕の中で息を引き取る事になってるんだよ!


 他にもたくさんあるんだよ! 頼む。頼むからこのまま平和でいてください! 由井正雪(ゆいしょうせつ)さん! お願いですから出てきて来ないでください!


 由井正雪の言うのは史実では江戸幕府に対して反乱を起こそうとした人物だが、事が始まる前に企てがばれて最後は自刃した人物なのだが、このゲームにおいてはそれをモデルにして改変して絶望的な力を持つラスボスなのだ。


 ちなみにこのゲームは夢をテーマに作られているゲームで、夢の力を現実に顕現させ戦っていく設定だ。

 本当の自分の夢はなんなのか自ら望む夢とはなんなのか、それぞれの人物の葛藤を描き立ち向かいそしてヒロインと結ばれる。

 自分自身の夢と向き合い乗り越えた時に夢から現実へと立ち向かうことが出来るうんぬん等々とまあそう言う感じで作られている設定だ。


 んでもってこのラスボスがまた変態チックなあり得ない力で主人公たちに襲い掛かってくるのだが、その理由がはた迷惑以外何物でもないという困ったラスボスなのだが、人気はなぜかあるという。


 他人事なら笑って済ませられるが、自身の身に降りかかるとなると笑い事では済まされない。

 と、ともかく死亡フラグを回避しなければ!


 いやな汗が体をつたう。


「潤一? 本格的に顔色が悪いぞ? 風邪でも引いたのか?」

「翔希さん。お兄ちゃんが風邪なんて引くわけないじゃないですか。バカなんだから」 

「あはは美々、ひでえなあ。ほら急ぐぞ。入学式に遅刻なんてシャレにならん」


 そう言いながら三人は早足で進んでいくが俺の足取りは非常に重たかった。このまま学校に着けば次々とフラグが立ちこの街は戦いの渦に巻き込まれる。


「学校いきたくねえええええええ」


 俺の叫びは平和そうな青空へと吸い込まれていった。  


 本が発売されます詳しくは活動報告で。

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