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総当たり

作者: 三笠言成

初めて挑戦する口調なので、違和感を覚えるところもあるかもしれませんがさらっと読んでください!

それはちょうど学校に行く直前のことです。

頭の中に知らない女の人の声が聞こえてきました。

高めの声色で個人的に好みの音だったのですが、今その情報は関係ありませんね。

大切なのはその声の内容です。以下のようなものでした。

「義也くんに質問。今から学校に行く?それとも行かない?」

義也。僕の名前です。このような口調なので文章だとよく間違えられるのですが残念ながら僕は男です。そういえばこの口調のせいで一度たたかれたこともありました。あれはネットゲームにはまっていたころでしょうか。僕自身は全くそんな気はなかったのですが、どうやら相手の人に女の子と思われていたらしく、ぽろっと自分は男です発言をしたときに激しく非難されたものです。ああなつかしい。

閑話休題。

彼女は僕に質問、と言いました。

そしてそのあと学校に行くか否かを尋ねています。つまり僕は答えなければならないのでしょう。

まあ、当然前者、間髪入れずに行きますと答えるところなのでしょうけれど、ここで僕のいたずら心…というか天邪鬼が発動してしまいます。

天邪鬼発動!というと強そうですよね。実際はひねくれるだけなのですが。

「うーん、学校には行かない。」

「え、行かないの?へえ、あたしはてっきり間髪入れずに行くと答えると思っていたよ。」

その予定でしたから。

「何はともあれ承知しました。結局は同じことだからどうでもいいんだけどね。」

「結局は同じことってどういうことですか?」

「言葉通りよ、というか義也君。ほかにあたしに尋ねたいことはないの?」

そういえばそうでした。

まずたずねないといけないことがあるはずです。

「あなたは誰ですか?」

「誰…と来たか。誰かと言われれば難しい質問ね。でも簡単に答えるとすると、神様かな。」

そうきましたか。

まさか神様とは。

うーん、確かに彼女は僕の頭の中に直接語りかけているわけで、そんなこと普通の人間にできるはずがないからきっと人知を超えた何かなのでしょう…と心のどこかで思っていましたが、まさか神様とは。

「なら、もう一つ質問します。」

「いいよ。いまならなんでもこたえてあげるわ。」

「さっきの質問、なんだったのでしょう。」

「さっそくさっきの自分の言葉を否定するけど、その質問には答えられないね。」

なんでもこたえてあげるって言ったじゃないですか…というツッコミをぐっとこらえます。

「答えられない、というのはどういうことですか?今はまだ言えないという意味かそれとも知らないという意味か。」

「前者よ。まさか知らないわけ、ないじゃない。仮にも神様だからね。」

今はまだ言えない、というわけですか。

推理小説…特に探偵小説と呼ばれる部類のお話でよく耳にする言葉ですけれど、実際話す時期じゃないともったいぶることによって被害者増えるのがパターンですよね。

それになぞらえて僕が被害者にならなかったらいいけれど。

気にしても仕方ないか。

「あ、こっちからもう一つ。もうあたしに何か解答を期待しないほうがいいよ。」

「なぜです?」

「解答というより、あたしとの対話自体難しいかもね。一言二言はかわすけど。」

まったく意味が分かりません。

「まあどうでもいいです、でも生活の邪魔はしないでください。」

「辛辣…というか順応性が高いというか。普通自称神様に直接脳内に語りかけられたらもっと驚くものなんだけど。」

「何事もスルーが僕の座右の銘ですから。」

「早くその性格を直しなさい。」

「よく言われます。」

「じゃあ少し長引いたけどファーストコンタクト終了ね。で、なんだっけ。学校には行かないんだよね確か。」

確かに始まりはそこだったような気もします。

しかしいったいあの質問に何の意味があったのでしょう。

僕は考えます。考えます。考えます。

だけれども努力空しくその思考は中断されました。

神様の声によって。

「質問一、NO」


視界がブラックアウトしました。



「義也ー、もう学校には連絡入れておいたから安心して。あともうお母さん会社行くけど無理しないようにね、お大事に。」

階下からお母さんの声が聞こえてきました。

どうやらもう会社に向けて発ったようですが、お大事に、とはどういうことでしょう。

そして自称神様はいったいどこへ…?

夢、でしょうか。

まあ夢でしょうね。

時計を見ます。

もう学校は始まっていました。

「あれ、僕こんな時間まで何をしていたんでしょう、遅刻じゃないですか…」

ん、遅刻?

頭の隅に先ほどのお母さんの声が引っ掛かったので呼び起こします。

「もう学校には連絡入れておいたから安心して。」

そして、「お大事に」

ひょっとして僕は風邪をひいているのでは?

自覚症状のない風というのも珍しい。

「…あ」

ふと、とある可能性にぶつかりました。

「さっきの質問のせいだったり?」

「正解!」

「やはりそうなんですね…」

……ん?

「神様!?」

「………」

「かーみーさーまー」

「……………」

だんまりを決め込んでいます。

そういえば「対話はできなくなる」的なことを言っていたような気も。

「ということは、神様は夢の中の存在ではないということでしょうか。」

まだ全部夢という可能性は潰れませんが。

しかし大切なのは仮定です。

仮定しましょう、もし神様がいるとすると?

「質問に答えたらその通りになる…?」

自分でも何を言っているのかよくわかりません。

「外…出てみるとしましょう。」

現実逃避とリフレッシュを兼ねて外出することにしました。

学校をさぼっている身として、あまり人目につくわけにもいきませんが。


「………っ!?」

サボったつけはさっそく。

「あ。危ない!!!!!」

思わず大きな声が出ます。だって、子供が道路に飛び出して……そこにトラックが突っ込もうとしているのですから。

「ね、ねえそこの子!」

その子も気づきました、自分が危ないと。

しかし体が硬直しています。

その時でした。またあの声が聞こえてきたのは。


「質問二。助ける?助けない?」

「…は……え?そ、そんなの」

助けるに

「決まっているでしょうが!」

視界がブラックアウト。

次の瞬間僕はトラックの前にいました。

トラックの前で動けなくなっていたはずの子供は道路の端っこに。

結果だけ見れば、僕が子供を突き飛ばした形に。

「っ…うわああああああああ」


僕は轢かれました。

そしてまた視界が真っ暗になります。

これが死、ですね。

子供が助かったのならまあよしとしましょう。

心の底から本当にそう思っているかといえばそうではありませんが。

そりゃ後悔はあります。まだ死にたくないですしね。


と、そこまで思考したところで視界が晴れました。

おお、ここが天国ですか。

ずいぶんと慣れ親しんだ光景…って

「危ない!!!」

子供に向かってトラックが突っ込んでいます。

この光景はさっき見ました、僕の死因じゃないですか。

「質問二、助ける?助けない?」

…さっきと同じ流れ?

確か僕は当然のように助けるを選びました、が、その結果死にました。

助けるを選んだら死ぬ。

「じゃ、じゃあ助けない!」


そう叫んだ瞬間子供が目の前で散りました。

文字通り。

「っ…う…」

悲鳴を飲み込みます。

そして考えます。

僕はさっき死にました。

今は生きています…というか生き返りました。

「いや…生き戻った…?」

というべきでしょうか。

そう、僕が思うに。

「選択を間違えて死んだから、分岐前にもどった?」

「正解。」

「…」

ここは喜ぶところなのかもしれませんが、目の前で子供が死んでいるのです。とてもそんな気にはなれません。

「質問三。」

ここできましたか。

「通報する?しない?」

「……通報?」

ああ、そうでした。これは立派な事故です。子供はきっと助かりませんが連絡くらいはするべきですね。

「通報します。」


またブラックアウト。だいぶこの感覚にも慣れてきました。

慣れてどうということもありませんけれど。


視界が安定してきます。

いつの間にか右手には携帯が。経験からすると、もう通報し終えているのでしょう。

すると目の前に影が落ちました。

顔をあげます。

トラックの運転手でした。

「おい、お前…見てたよな?このガキが飛び出してくるの。」

はあ?

「飛び出してくるところは見ていませんし、結果轢いたのはあなたでしょう。あなたは人を殺したんですよ。」

「う……」

彼の目が僕の右手をとらえます。

「お、お前まさか…通報したのか?」

「当然です。殺人者を野放しにするわけにはいきません。」

右手をとらえていた目が次にとらえたのは僕の顔でした。

そして近くに落ちていたブロック…というのでしたっけ、それを持ちます。

「一人殺しても二人殺しても同じこと!」

全然違いますが。

「二人殺したらまずいですよ。一人なら、そのうえ事故なら少しは刑罰も軽くなるでしょうに。」

「う、るせええ!!!」

ここで初めて気が付きました。

「ふ、二人目って僕ですか?」

その質問の答えを聞くことはできませんでした。そしてまたブラックアウト。


僕は再び死にました。


「質問三、通報する?しない?」

「通報はしません。」


だいたいルールがわかってきました。

質問の答えで生きるか死ぬかが変わるんですね。

了解です。神様。

要するに、質問されたら一番適当だと思う解を選び、口に出す。

すると次の瞬間その行動をし終えていて、あとは結果を待つだけとなる。

結果が死ならバッドエンド…いわばデッドエンドとなり、分岐点からコンティニュー。

こういうわけですね。

「正解。」

神様から正解をいただきました。

「ひょっとして神様、正解しか言えないんですか?」

「正解。」

つまり、真偽判定は大丈夫と。

よし、ルールはだいたい把握できました。

あとわかっていないのは目的ですが…それは僕が考えて導き出せる話ではありません。

だから考えるのはあきらめましょう。

「じゃあどうするかですが…きっと家に引きこもっていたら『質問、家を出る?出ない?』的な感じの質問がされて、家を出なかったら死ぬんでしょうね。」

ならば行動あるのみです。

なあに、コンティニューは何度だってできるのです。

長い時間をかけてでも今日一日を終えることができればいいですね。

とはいえ、忘れかけていた設定ですが、今は学校をさぼっています。

そして僕は粉砕された子供を前に涙を流すことなく、さらに警察や救急に通報することなく放っておいた極悪人です。

人目はできるだけはばかるべきでしょう、きっと。

そんなことを考えている間にコンビニにつきました。

家から徒歩十分の位置にコンビニがあると便利ですよね。

いや、徒歩十分は少し遠いですか。

「いらっしゃいませ。」

店員さんが明るく迎えてくれます。

僕は漫画雑誌コーナーによりました。

特に購読しているものがあるわけでもないですが。

単行本派なのです。

収集している漫画を読んでしまわないように雑誌をぱらぱらとめくり、眺めます。

最近の漫画家は絵が上手で話のわからないものでも案外楽しめるものでした。

似たような絵ばかりでしたが。

一通り気のすむまで漫画を眺めた後はお菓子コーナーに行きます。

男子ならわかってくれる人も多いと思うのですが、駄菓子というものは眺めているだけで楽しいものです。

コンビニなので駄菓子屋やスーパーと違い何種類もあるわけではありませんが、それでも懐かしいものはありました。

「質問四。」

と、ここでですか。

「万引きする?しない?」


「……ん?」


奇妙な質問です。

今日は確かに学校をさぼっているとはいえ、僕はどちらかというと優等生です。

そんな僕に万引きをしろと?

ありえないです。

が、何が起こるかわかりません。

先ほども、いたって普通、一般常識に則った行動をしたら死にました。

今回も万引きをしない、という普通の選択肢をとるとだめなのでは?

「………」

考えよう。

もし万引きをして死んだら、僕が盗んだことはなかったことになる。

万引きをしなくて死んだら、結局盗まないといけないのに一度死なないといけなくなる。

「します。」

僕は前者を選択しました。そして暗転する視界。


次の瞬間僕はコンビニの外にいました。

ポケットに手をやると駄菓子が。

「やってしまいました。罪悪感がすごいです。」

いっそ死にたい。

やりなおしたいですね。


しかし何も起きません。

五分ほど歩いてみましたが、僕は死にませんでした。

ああ、正解だったのですね。

何ともいやな結果でした。

あとでこの駄菓子は返しておきましょう。


家につきます。

家にいるからと言って全く気を抜くことはできませんが、アウトサイドよりは文字通りホームグラウンドのほうが何事にも対応できるというものです。

「質問五。家に入る?入らない?」

ここでまた質問ですか。

まだ九時過ぎなんですが。

あと何時間で一日は終わるのでしょう。

もちろん体感時間で。


「入ります。」

さほど悩むこともなく僕は家に入ると選択しました。

鍵を差し込み、回します。

ドアノブをひねると。

「…え?」

玄関に人がいました。

「こ、こんにちは…?」

呑気に挨拶をしてみましたがきっとそんな状況ではありません。

「え、えーと…どなたですか…?」

横に目をやると窓ガラスが割れているではないですか。

僕は直感しました。

この人は、空き巣的な人です。

「………」

彼は無言でナイフを取り出し、無言で突き刺してきました。

ザ・居直り強盗。


僕は死にました。


なんか、死というものが軽く扱われてきている気もします。

が、実際神様は軽く扱っているので仕方ありません。

「質問五、家に入る?入らない?」

「入りません。」

直後、僕の体は門の前にありました。

「っ!?」

そこに突っ込んできたのは一台のトラック。

「え、なんで……?」

選択は二者択一でどちらかが正解ではないのでしょうか。

そのまま僕は轢殺…圧殺されました。

視界がブラックアウト。

「質問四、万引きする?しない?」


ここまで、戻るんですか。



そして、ようやく夜になりました。

体感時間でいうと三日。

死ななかったら正解、というルールが真ではない、という時点でこのゲーム…ゲームの難易度はとても高いのです。

いや、コンティニューができる分マシというべきでしょう。

時刻は十時。正確に言うと二十二時。

高校生の僕にしては少し早いかもしれませんが、眠ることにしました。

さすがに睡眠中まで被害は及ばないはずです。

「質問六十二、眠る?眠らない?」

念のため僕は、眠らない、を選びました。

質問も気が付けば六十二です。

体感時間の割に少ない気がしますか?

でも、選択肢五つ戻るとかもザラにあったので仕方ありません。

何回死んだか数えるのも嫌になるくらい死にました。

おそらく今回も死ぬでしょう。

眠らない、を選択したからといってどうやって死ぬのだ、という感じですが何が起きてもへんじゃない…というかおかしなことしか起こってこなかった今日という一日です。

何事もスルーがモットーの僕ではなかったらもう発狂しているかもしれませんね。

それは自分を高く評価しすぎな気もしますが。

それはさておき質問六十二。

これまで通りいけばもうすぐ死ぬはずですが……

と、僕の上に本棚が落ちてきました。

何度も死に慣れるとこの程度のことでは驚きません。

思い返してみると、子供がトラックにひかれた時もそこまで驚いていなかった気もしますが。

「ああ、圧殺ですか。」

落ちてくる本棚をよけることもせず死を受け入れます。

また死にました。ブラックアウト。


「質問六十二、眠る?眠らない?」

「寝ます。」

もう大丈夫なはずです。

ここまでの質問はほとんどすべて総当たりしてきましたから、三つ前に戻るとかもないはず。

ようやく今日が終わります。

今日が終わったからと言ってこのナニカが終わるとは限らないのですが、その時は神様に文句でも言いましょう。

僕は眠りました。




「……え?」

程よい快眠状態に陥っていたのにそこで意識がブラックアウト。

いや、眠っているということはすなわち暗転しているのですが…なんというか、こう、眠りとは異質の感覚に襲われました。

まるで、死んだみたいに。

「眠っている間に心臓麻痺でも起こしたのか?僕は。」

「正解。」

正解だったようです。

眠っている間に死ねるとはなかなか憧れるものですね。

これまでいろいろな死に方を僕はしてきましたが。


視界が晴れます。さて、次は何分前からリスタートでしょう。





「質問一、学校に行く?行かない?」



ああ……また初めからやり直しですか。

このゲームはいつ終わるんでしょう。

続編なんてありません。

これでおしまいです。

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