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暗い願望

掲載日:2026/02/07

これが初投稿です。

文字数は8,200字程度。

原稿用紙だと20数枚の短編です。書く時間がないもので、まずは短いのでお茶を濁します。

世の中にたくさんの作家がいてたくさんの作品があるので、もしかするとよく似た作品が存在するかもしれませんが、あしからずご了承ください。

たくさん読書するようにしていますが、全部読み切れるわけではないので(こういう言い訳もよくないんですが)。


■おもな登場人物

・僕(松田):

とある県の大学一年生。夏休みに運転免許取得のため自動車教習所に通っている。

引っ込み思案な性格で垢抜けない。

・塩崎:

僕(松田)と中学の同級生。僕と同じ時期に同じ自動車教習所に通っている。精悍な顔つきで話上手のため人気者だが、僕をいじめていた。高校以降は僕とは進路が異なっている。地元の県立工業高校卒、工業系専門学校在学中。

・加藤:

同じく僕とは中学時代の同級生。同窓会の幹事をすることになっている。

・茶髪の彼女:

自動車教習所に通っている僕と同年代の女性。僕は見かけて気になっていたが、塩崎は気安く声をかけて仲良くなる。

 1.

 とても嫌な奴に、久しぶりに会ってしまった。

 そいつは塩崎(しおざき)という。僕の中学時代の同級生だ。卒業後の進路がまるで違っていたから、いくら同じ地元でも大学一年の今まで数年ろくに会うことはなかった。これからもそうであってほしいと願っていた。それなのに。


 中学時代の塩崎は、運動神経が良く、お調子者で話が上手かった。友人も多く人気者だった。ヤンキー風の顔つきで精悍だから、ひそかに憧れる女生徒も多かったという噂も聞いている。

 しかしその当時から今まで、塩崎に良い印象を持っている連中がいたのが僕にはずっと納得がいかない。

 何故なら僕は、塩崎とその友人一味のいじめの被害者だったから。誰かの歓心を買っていた塩崎は、僕には裏の顔を見せ続けていたのだ。

 僕は休み時間、首を絞められたり頭を叩かれたりしたことがある。放課後塩崎を含む数人に体育館の裏に連れて行かれ、因縁をつけられて正座させられたこともある。給食の上にふりかけだと言って消しゴムのカスを撒かれたこともある。椅子の上に画鋲を置かれたこともある。危うく気づいて払いのけたら塩崎たちがニヤニヤしていたから、多分こいつらの仕業だと思った。くせ毛(天然パーマ)なのを「天パ野郎」とからかわれたこともある。ほかにも……。


 塩崎と鉢合わせしたのは、大学の夏休みを利用して通っている自動車教習所の休憩室だった。目を合わせたくないから僕は学科教本を眺めるふりをした。塩崎が僕のことなんてもう眼中にないことを期待した。ところがなぜか向こうから気安く声をかけてきた。

「おう、松田、久しぶり」

 塩崎は短い黒髪だった当時と異なりソフトモヒカンだった。しかし目つきには相変わらず底意地の悪さを感じた。

 目を逸らしたが、塩崎は構わず尋ねてきた。

「ここって誰か可愛い子いる?」「さぁ」

 曖昧な返事をしたら、「ふん、そうか」と言った。塩崎はこれでも気さくなつもりなのかもしれなかったが、僕は怖気(おぞけ)がした。中学時代と同じく、何も言葉を返せなかった。今は僕の方が背は高いが、塩崎の胸板は厚く腕も太い。力関係は今でも変わらないのを悟った。

 僕はその場にいるのが嫌になって、退室しようと席を立った。すると塩崎が、早くも僕たちと同年代の女性に声をかけるのが目に入った。肩まである髪は茶色で、美形で快活そうなので、数日前に見かけて僕もお近づきになれたらいいのにと願っていた女性だった。僕はイケメンではないし引っ込み思案なので、手をこまねいているしかなかったのだが。 

 その後僕が講習をひとつ終えて戻ってきた時、塩崎はその茶髪の女性と、まるで以前からの友人かのように親し気に立ち話していた。


 塩崎とは入校日も進み具合も違う。僕もバイトやサークル活動があるから教習所に一日中いるわけではない。それなのにその後三日続けて塩崎を見かけた。幸い話しかけられはしなかったが、姿を見る度に胸騒ぎがした。

 四日目は見かけなかったのでほっとした。しかし五日目、場違いにもサーフボードを担いで来ている塩崎がいた。もう二人、アロハシャツを着て、やはりサーフボードを担いでいる連中がいた。

 どうやら教習所の中にサーフィン仲間がいるらしい。

 僕たちの住む田舎の県は海岸線がすべて太平洋に面している。この教習所も高台にあり、校舎の窓からそう遠くないところに海を望める。僕はサーフィンをしないが、良い波が来るという噂を聞いて県外からもサーファーが訪れる場所がいくつかあることは知っている。

 僕の耳に彼らの会話が聞こえてきた。

「学科終わったらここで待ち合わせしようぜ」

 ひとりはロン毛で、以前からサーフィンをやっていて、それなりの腕前らしい。どうやら塩崎は、そのロン毛たちと隣りの市の海岸まで行く約束をしているようだった。

 その話の輪が解けた後、先日の茶髪の女性が塩崎に親し気に話しかけるのを見た。塩崎はけっして長身ではないが、イケメンで話上手だからやっぱりこうなる。見たくもないものまで見せられて悔しいが、認めざるをえない。

 その後、僕は教習車で所内の箱庭を走った。そして何気なく、初老の担当教官に話しかけた。

「この教習所って海が見えて景色がいいですよね」

「まあな。でもあの辺の海は、遊泳なんか禁止になってる。()()があるからな」

「だし」(離岸流)という沖へ向かう潮流のことは僕も聞いたことがある。巻き込まれると抗って岸に泳ぎ着こうとするのは無理で、死の危険がある。あの辺りの海岸にもそれがあるらしい。

「眺める分には綺麗なんだけどな」

「僕もこの前砂浜まで行きましたけど、本当に綺麗ですよね」

 海岸へは、路上教習のコースでもある県道を逸れ、鬱蒼(うっそう)とした松林を抜けて行く。幅が車一台分くらいの砂利道が通じている。僕は松林の出口に「危険。遊泳・サーフィン禁止」と書かれた立て札があったのを思い出した。

「でもな。そうやって注意してあっても、たまに泳いだりサーフィンをして溺れ死ぬ命知らずがいるんだよ。おととしだったかな、若いのがひとり死んだ。あとはさ、あそこは落雷も怖いんだよ。何も遮るものがないから」

 実直そうな四角い顔の教官は顔を曇らせた。


 塩崎と茶髪の彼女が教習所の休憩室で、僕から少し離れたところで座っていた。お互いの顔を近づけて話し続けている。先日以来、二人が親密さを増したのが傍目(はため)にもよく分かった。

 自動車教習所は若い世代が多い。だから出会いの場になることがままある。もっともそんなことは僕には関係ない。僕なんかが声をかけても誰かが応じてくれる絵は思い浮かばない。

 その茶髪の彼女が、塩崎を見詰めながら話しかけていた。

「ねえ、サーフィンって最近始めたの?」

「ああ。今練習中」

「じゃあ今度練習に行く時連れってって」

「いいよ。明日の午後から行こうぜ」

 塩崎は彼女に頼みごとをされて上機嫌のようだ。

 聞きながら僕は、塩崎がお調子者で向こうっ()が強かったことを思い起こした。確か、木の実を取ってと頼まれて木登りしたら枝が折れ、落ちて腕を骨折したことがある。挑発に応じて他校の生徒と喧嘩したこともあったと思う。

 僕は、塩崎がここから見える海岸が危険なことすら知らないのだと思った。あるいは禁止なのに無視するつもりなのだと疑った。

 確かにたまにいる。たとえば悪天候なのに登山する人や、大雨で増水が予想されるのに川べりでキャンプをする人が。

 夏休み前、大学の教養課程で選択した心理学の教授によれば、こういう認知の特性は「正常性バイアス」というらしい。本来は周囲の状況が予期しない変化をした際などに、心が恐怖や不安を過剰に感じて疲弊することを防ぐ心理メカニズムだ。しかしこれが高じると自分だけは大丈夫と高をくくり、危険や不安を過小評価するようになる。

 僕は塩崎に声をかけようかと思った。

 ―ねぇ。あの海岸、サーフィン禁止なんだよ―

 しかし次の瞬間、それは無駄だという心の声がした。どうせ塩崎は怒気を露わにした吊り目で僕を睨むにちがいない。そして「うるせえな、黙れこの天パ野郎」などと侮蔑の言葉を吐くにきまっている。

 ……嫌だ。これ以上不快な思いをさせられたくない。

 その途端、頭の中にはかつて塩崎から受けたいじめの記憶がよみがえってきた。こんな奴に何かしてやる義理もないと思った。

 塩崎と茶髪の彼女が席を立って休憩室を出て行った。姿が見えなくなると、僕は二人が僕の悪口を言っているような気がしてしかたがなくなった。卑屈で暗い感情が湧いてきた。


 翌日の昼下がり、僕が初めての路上教習に出ていると、めくるめく青空が灰色の雲に覆われ始めた。

「もうすぐ夕立が来そうですね」

「ああ、そんな感じの薄暗い空だな」

 いつもの初老の担当教官が答えた。すると、たちまち大粒の雨がフロントガラスを叩き始めた。ワイパーを動かすと、まるでそれが合図かのように雷鳴も(とどろ)いた。稲妻との間隔が短かったから、かなり近いところに落ちているらしかった。

 夕立とは都合が良い。今頃塩崎は茶髪の彼女と海でデートしているはずだから。

 夜、帰宅した僕は、暗い願望を抱きながら熱心にテレビやインターネットのニュースを見ていた。

 予想通りだった。

「今日午後四時過ぎ、××市〇〇の海岸で男性(一八歳)が波にさらわれ行方不明。同行の友人が警察に通報し……」

 名前は報じられていなかった。しかし、年齢と、事故の場所が教習所の近くの海であることから考えると、この行方不明者は塩崎なのだろうと思った。

 果たして翌日、教習所内で塩崎と茶髪の彼女を見かけることはなかった。行方不明者もまだ発見されないままだった。

 その日の講習を終えた夕暮れ時、僕は教習所から徒歩数分のその海岸に、ひとりで立ち寄った。

 いつも通り静かで、人っ子一人いない。一昨日と何も変わらない。松林の出口にあったはずの、危険を知らせる立て札がないこと以外は。

 そう、僕は一昨日もここへ来た。そして、その立て札が水難事故で死人が出た海岸への道筋にある割には粗末なのを確かめていた。木製のそれは大人の背丈ほどあったが、砂地から抜いて担ぐのは苦ではなかった。

 今日の僕は、夕暮れの松林の中を迷いなく歩いた。立ち止まった場所には無雑作に砂をかけて埋めた立て札がある。それを掘り起こし、再び元通り松林の出口に立てた。


 次の日も教習所に行った。

 僕は驚いた。何と塩崎がいたのである。相変わらず茶髪の彼女と仲睦まじそうだった。

 その後、先日の行方不明者の水死体発見のニュースがあった。それはむろん塩崎ではなかった。年齢こそ同じだが友人と二人で他県から海水浴をしに来た別人だった。

 一昨日午後は夕立だった。だから塩崎たちは海に行くのを中止したのだろう。よく考えたら塩崎も仲間も地元民だから、遊泳やサーフィンが禁止であることを知っていても不思議ではない。

 翻って言えば、もしかすると他県から来た人は禁止なのを知らなかったのだろうか。

 まさか立て札がなかったばかりに……


 2.

 加藤、暑いからうちで涼んでいけよ。

 へぇ、お前も自動車教習所に通い始めたんだ。ほんとはもっと早く通いたかったけど、親に頼りたくないから費用はバイトで貯めたって? そいつはえらいな。

 で、そこで松田に会ったんだ?

 ああ。俺も同じ教習所だから、見かけたことはある。「可愛い子いないか」って声をかけただけだけどな。

 うん、あいつ、それだけでビビッてる感じがした。

 俺も高校からは進路が違うから全然会ってなかった。ま、俺だって松田のことはいけ好かない奴だと思ってるんで、会いたくもなかったんだけどさ。

 え? いまお前は会いたくもないって言ったけど、お前は中学の時松田をいじめてただろって?

 人聞き悪いな。でもまぁ、正直に言うと松田には色々ちょっかいを出したような気がする。細かいことは忘れたけどな。

 むろん全部忘れたわけじゃない。一応自分に都合が悪いことだから忘れたふりをして触れないようにしているってのもある。

 え? やられた方はいつまでも記憶しているものだから、そうやっていじめたことを忘れるのは良くない?

 何だお前、俺に説教しにきたのか?

 まぁ、確かにそりゃあ、いじめに遭った方は悪い意味で記憶に残るっていうのは分かる。だから松田が俺のことを恨んでいても不思議じゃないのかもしれん。

 でもな、言っちゃ悪いが松田だって悪いと思うぞ。

 加藤、お前も分かってるはずだぞ。松田って調子に乗ってただろ。マジでムカついただろ。そう思ってたの俺たちだけじゃないはずだぜ。

 松田ってさ、大学に進学したくらいだから中学の時も勉強はできた。でも、あいつはそれを鼻にかけてやがっただろ。

 ある時さ、授業の後廊下であんな簡単な問題もできないなんてバカじゃないのって陰口叩いてたことがある。その時直前の授業で教師に当てられて答えられなかったの俺だったから、めちゃくちゃ腹が立った。

 バカで悪かったな。

 どうせあいつは、勉強はできるのか知らんけど所詮は人を見下すしか能がないんだろうが。

 それでおんなじように見下された奴と一緒に一度締めてやろうってんで、放課後松田を体育館の裏に呼び出して、反省のために正座させてやった。

 まぁ、こういうのはあいつにしてみりゃあ、いじめに遭ったっていう記憶になるんだろうな。

 松田はさ、よその県の私立中学受験して落ちて、うちみたいな公立中学に行く羽目になったんだったよな。だからなのか知らんけど、「俺ほんとはこんなところに来たくなかった」とか「俺ほんとは合格できたんだけど」とか受験に失敗した負け惜しみをブツブツ言ってやがった。聞いたことあるだろ? 

 ま、痛い奴だよ。

 ほかにもあるよな。

 たとえば、うちの中学って給食あったよな。松田って嫌いな物が出たら露骨に嫌な顔して残して、こんなの食う奴の気が知れないとか文句言ってたよな。

 お前の好き嫌いなんて知ったこっちゃない、何だよ毎日フランス料理でも食ってんのかって話だよ。それにさ、クラスの中にうちが貧乏で給食が頼りっていう奴がいたけど、どうせあいつは気にも留めてなかっただろ。

 こういうのも腹が立つから、松田の皿に消しゴムのカス入れてやったよな。どうせあいつ食べかけで残すんだし。それ、お前も一緒にやっただろ。覚えてるって? そうかそうか。


 俺、高校はさ、地元の県立工業の建築科だろ。今は工業系の専門学校行ってる。うん、高校までは親父と同じ学歴だな。

 塩崎(しおざき)工務店、親父がそこそこだけど一応会社やってるからね。将来跡を継ぐつもりだけど、別に大学行かなくてもいいって言われたし、俺も勉強好きじゃないしさ。

 で、また松田の話に戻るんだけどさ。あいつ、工業高校なんてバカの集まりだってまたぞろ見下してただろ。この発言にもブチ切れて胸倉つかんだり、あいつの席に画鋲ばらまいた奴もいるんだけどさ。

 なるほど、加藤も松田がそう言ってるの聞いたことあるんだ。

 確かに俺の高校にはヤンキーもいた。何かやらかして停学処分食らう奴とかもたまにいた。でもな、工業高校出た奴がやってる仕事が世の中の役に立ってるってこともあるんだ。分かるよな? これでもうちの親父がいなかったら家が建たない人だっているんだぜ。

 でもどうせあいつ、大学出てないと人間じゃないと思ってんだろ?

 大企業だか国家公務員だか医者だか何か知らないけどさ、そういう感じの仕事じゃないと人生負け組だと見下したりするんだろ。で、自分がもしそういうのになれなきゃ人生終わりだとか落ち込んだりするんだろ。


 え、お前相変わらずイケメンだって?

 何だよ急に。それ、言われると照れるっちゃ照れるんだけどな。

 でも自慢じゃないけど俺、小学生の時からモテた。だからイケメンに作ってくれた両親には感謝してる。めちゃくちゃ身長が高いわけじゃないけど。でも体はさ、時々走り込みしてジム通いもして鍛えてるんだ、これでも。

 だから、顔とか裸を見せればたいていの女を引き付けられるって自負してる。最近サーフィン始めてるんだけどさ、海岸歩いてると視線を感じることはあるね。で、そういう女子はこっちも気に入ったら声をかけてさ、何ならお持ち帰り。

 ちなみに俺が童貞捨てたのは中二の時。早いだろ。相手は、俺の六歳上の姉貴の高校時代の同級生。当時俺は十三歳だから、あっちは十九歳だったな。

 え、そんな話は聞いてないって? うらやましいけど? 

 まぁそう言うなよ。

 それに引き換え松田はモテなかったよな。中学の時しか知らないけどさ。あ、やっぱり加藤もそう思ってんだ。

 まぁ、そりゃそうだろうな。松田って鉄道マニアだし。

 確かに趣味なんか勝手にすればいいし、俺の姉貴も推し活してるけどさ、あいつ相手が興味なさそうなのにマニアックなことグダグダ喋ったりしてたんだよな。そんな感じならそりゃモテないよな。

 おまけにあいつ髪は天パで整えてないし、服装も相変わらず垢抜けないだろ。美容院くらい行けよ、鏡くらい見ろよって思った。中学ん時もさ、あいつのことウザいキモいって言ってた女子は実はけっこういたし。

 鉄道マニアって言えば、あいつ写真撮るんだっけ。そうそう、撮り鉄ってやつな。

 で、何? この前松田が駅のホームで三脚立てて、ほかの客に向かって邪魔だとか悪態ついて、駅員に注意されて逆切れしてるのを見た?

 おいおい何だよ最低じゃん。自分より弱そうな人間には強く出るってか。


 そうそう、松田が立て札を引っこ抜いた件な。

 え、何で俺は松田がそんなことをしたのを知ってるかって?

 それはさ、俺の中学時代からの友達で、だから松田のことも知ってる奴がいるんだけど、松田が松林の中で立て札を掘り起こして、元あった場所に戻すのを偶然見かけたからだよ。よその県から来た奴が行方不明になった次の日の夕暮れ時だったってよ。しかも懐中電灯まで持ってたって、怪し過ぎだろ。

 立て札がなくなったことを知ってて、元々立ってた場所も知ってて、あの松林のどこに埋めたかってことまで知ってる奴じゃないとそんなことしないよな。

 ちなみに俺の友達がその時教習所の近くの松林に行ったってのはさ、あの辺の松林と砂浜って実は夏の夜なんかデートの穴場、というかカップルがしけこむところだからなんだよな。ぶっちゃけ、俺の友達はこれからお楽しみのつもりだったってことなんだけどな。

 あの海岸、海と砂浜が綺麗なんでたまに写真撮ってる人がいるけど、夜空も綺麗なんだよ、満点の星だし。おまけに遊泳禁止だから特に夜なんか誰もいない。まぁ、たまに花火とかしてる奴はいるけど。

 そう言う俺も、この前の夜、教習所でナンパして知り合った彼女と二人で行った。

 おっと、また言わなくてもいいことを言ったかな?


 松田は俺がサーフィン始めたの知ってたらしい。でさ、教習所の近くの海って潮の流れが危ないからサーフィン禁止なんだけど、あいつ俺がそこへ行くんじゃないかと勝手に思い込んだんだろうな。

 で、先回りして立て札引っこ抜いとけば、その後俺が知らずにサーフィンしに行って溺れ死ぬかもしれないと考えたんだろうな。

 うん、加藤もやっぱりそう思うか。

 でも、その代わりと言っちゃ何だが、次の日よその県から来た俺と同い年の奴が溺れ死ぬ事件が偶然起きたわけだ。

 いや、死んだ人間には悪いけどさ、ほんとは危険な海岸くらいちゃんと調べとけよとも思う。でもさ、そいつは松田が立て札引っこ抜いたせいで、遊泳禁止だとは知らずにそこに行ったのかもしれないだろ? まあ、本人は死んでるから、一緒にいた友人てのがどう言うかだろうけどな。

 それにしてもバカなことをやったもんだよな、松田って。

 俺はこんなチンケな手には乗らない。だって俺は教習所の近くの海が危険なことは知ってたからさ、そこでサーフィンしようとは思わなかった。サーフィン仲間にも、初心者なんだし絶対やめとけって言われてたし。まぁ、ちゃんとした奴らがいたおかげで命拾いした。夕立も来たからほんと行かなくてよかったよ、マジで。

 そう、お前もサッカーやってるけど、外で何かする時は雷には注意しろってのは常識だもんな。

 あの日? 結局彼女とカラオケボックスで時間潰した。健全だな。


 加藤。お前、今度中学の同窓会をやるって言ったよね。幹事お疲れ。担任の中西先生も来てくれるって? そいつは懐かしいな、今は別の中学で副校長になってるんだっけか。

 で、松田は来るのか? 何だ、まだ知らせてないのか。まぁ来たら来たで、お前俺のこと殺したいと思って立て札隠しただろって追及したら面白いかもな。

 ま、でも知らないふりしといてやるか。

 そうだ、お前ももうすぐ運転免許取れるだろうから、ドライブ行かないか。何ならレンタカー借りてもいいしさ。

【参考資料】

・離岸流(だし、リップカレント)について:

med.miyazaki-u.ac.jp/renewal/dashi.htm

223100.pdf

海水浴シーズンは「離岸流」に注意!気をつけるポイント。 | なみある?メディア

リップカレント(離岸流)に気をつけよう | 【公式】JLA | 公益財団法人 日本ライフセービング協会

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