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 咲良は来年から小学校へ入学する予定だ。本人も楽しみにしているようだ。

「ねえねえ、お母さま」

咲良がパーラールームのソファのうえで、壁に掲げられたあたしとジャスミンの絵を指差しながら訊ねる。咲良には小さい頃からパパ、ママではなく、お父さま、お母さまと呼ばせている。

「なあに?どうしたの?」

「あの犬、かわいいね。真っ白だし」

「うん、あのこはジャスミンっていってね、お母さんとずっとお友達だったけど、だいぶ前、咲良が生まれるよりずっと前に亡くなっちゃったんだよ」

「ふーん、そっかあ。咲良もそんなお友達ほしいなあ」

咲良は菫に微笑み掛けた。

「そうねぇ…。お父さんに相談してみようかな…」

「ほんとっ!ほんとに?絶対だよっ」

咲良は嬉しそうに笑顔を見せた。

その日の夜、菫は咲良が望んでいると犬の飼育のことを悠人に伝えた。

「ああ、犬ぐらい飼っても構わないよ。ただし、自分で世話ができるのが条件だよ。君はもちろんだけど、和代さんにもこれ以上負担をかけたくないからね」

ダイニングルームで食事をしながら夫悠人は微笑んだ。菫は遠い昔に同じような言葉を聞いたような気がした。

「え?犬を飼われるんですか?」

料理を2人の前に給仕しながら山川和代がどちらともなく訊ねた。

「ただし、咲良がひとりで世話することが条件だよ」

悠人は横目で和代を見た。

「私、犬は嫌いじゃないですから、大丈夫ですよ。咲良お嬢さまのお手伝いしますから」

和代はシャルドネ種の白ワインを悠人のグラスにつぎ足しながら微笑んだ。

「いやあ、そう、それなんですよねぇ…、それが気になるんですよ」

悠人はワインを一口飲んでから、和代ではなく菫に向かって続けた。

「君も…、えっと、ジャスミンだったったっけ?犬飼ってたからわかるだろうけど、犬の世話ってたいへんだからね。それ、人を当てしちゃったら、犬は世話してくれる人の云うことしか聞かなくなっちゃうからね」

「わかっているわ。それぐらい…」

菫はグラスに残っていたワインを飲み干した。

「咲良お嬢さま、お呼びしましょうか?」

食卓の雰囲気が悪くなってきたのを気に掛けたのか、和代があいだに入って2人を交互に見た。

「いえ、今夜はもう遅いし、別に急ぐ話でもないので、明日あたしから咲良に話してみます」

菫は和代にバスルームを使うと告げて、席を立っていった。



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