13
咲良は白い砂浜で立ちすくんでいる夢をみていた。遠くに誰かいる。若い女性とジャスミンだ。ジャスミンが付けている首輪はわずかに輝いている。誰かを守るためではないの?選ばせるためなの?ジャスミンはじっとこちらを見たまま動かない。その夜の境界は確かに薄くなっている。白い砂は昨日よりも冷たかった。咲良は戻る場所を振り返らなかった。振り返れば、きっと足が止まると知っていたからだ。波打ち際に立つと、海は鏡のように静まり返っている。
*
「ねえ…」
菫の声は誰にも届かないはずだった。それでも、海面の奥がわずかに揺れ、そこに白い影が立ち上がる。ジャスミンだった。
《ここから先は戻れなくなるわ》
その意識が胸に落ちる。
「それでいいわ」
菫は呟いて一歩前へ出た。その瞬間、首輪がさらに輝き、熱を帯び始めた。
白い砂浜で、ジャスミンは菫の前に立ちはだかった。
《戻りなさい》
「いやっ!」
《そう?でも選ぶのはあなたよ》
《戻るという選択をすれば、最後まで付き添える》
菫は初めて泣いた。それは怖さではなく、理解した涙だった。ジャスミンも理解したように少し首を傾げて頷く仕草をみせた。そのあと元通り絵のなかに戻って、微笑むような表情のまま菫の横に座ったが、同時に白い首輪が静かに冷えていったことには気付くはずもなかった。
*
夢と現が交錯したような長い夜が過ぎて、いくらかでも眠ったのだろう、ベッドから上半身を起こして脇のゲージに目をやると、昨日から行方不明のジャスミンがそのなかで眠っていた。
「ジャスミン!戻ってきてくれたんだっ」
菫はベッドから飛び起きて、ゲージのなかのジャスミンに手を触れ驚いた。すごく冷たかった。氷のように…。いや、もっと冷たく感じた。
「ジャスミン?」
菫はジャスミンの頭に触れてもピクリともしない。
「パパっ!たいへん!ジャスミンがっ」
菫は部屋を飛び出し、大葵の部屋をノックした。
ダイニングルームから和代が顔出した。
「菫お嬢さまっ!どうされました?」
「ジャスミンが戻ってるんだけど、動かないのっ」
「ジャスミンがなんだって?」
大葵が扉を開けて問いかける。
「ジャスミンが動かないの…。死んでるみたい…」
ジャスミンはいつものゲージのなかで静かに息を引き取っていた。




