プロローグ【飛べない鳥と空飛ぶ天使】
この作品はフィクションです。この世界の人物、団体等とは一切関係ありません。
冬が寒い。
「・・・寒っ。」
冬を感じる凍てつく冷たい風が、指先と頬に刺すようにあたる。
見えるのは白い息と、誰もいない遠い地面。
今日も僕はここに立つ。まるで飛べない鳥のようだ。
羽がある癖に飛べない哀れな鳥、脳がある癖に何もできなくて、いつでも空を飛べるのに、落ちる恐怖に足がすくんでいる。しかし、この背中を押してくれる人間なんてどこにもいないのだ。簡単に死ねとか言って来る癖に、自分で死ぬまで殺してくれない。
「押してやろうか?」
突然声を掛けられて、体がビクッと跳ねる。心臓の鼓動が速くなる。まるで悪いことをしているのが見つかってしまった子供のように。勢いよく声の方に振り向き、その目で見たのは
「そんなに驚くなよ」
天使かと思った。
左右で色の違う、輝く純白と、美しく光を反射する漆黒の羽を持つ淡い茶髪の男が、懐中時計を片手にケタケタ笑っている。
「誰っ」
驚きのあまり、声がかすれてしまう。
「どうせお前今から飛ぶんだろ?すぐその脳みそぐっちゃぐちゃになンだから教えてやんなーい。」
羽の生えた男はこちらには興味などないかのように時計をいじっている。その様子になんだかイラついて、もうどうでもよくなってきた。
「・・・お前が来たから飛ぶ気失せた。」
「ふーん、飛ばないんだぁ。じゃあとりあえずさ、こっちおいでよ。」
男はコンクリートの地面に座って手招きをする。こいつは一体何者で、何が目的なんだろうか。
冷たいフェンスを乗り越え、僕は男の方におずおずと近づく。
よく見ると男は整った愛嬌のある顔をしており、髪より少し薄い色のコートをよく着こなしていた。
「で、お前は誰なんだよ。羽も生えてるし、天使か何かか?」
「そっけないなー、キミ。天使かー・・・ま、うん。天使とかそーゆーんだと思ってくれていーよぉ。」
反応が微妙なのは少し気になるが、一応この人は天使ということでいいらしい。
「んでさ、その天使サンがわざわざ僕に何しに来たわけ?」
「・・・キミさ、死にたいんでしょ?」
「・・・・・まあ。」
「人間てのはさ、どうやら死んだらすごい影響起こせるらしいんだよ。」
「はあ。」
いまいち話の内容がつかめずに困惑する。
「んで!キミはその『10代の死因ランキング』の自殺の欄をちょっとだけ押し広げるだけでいいのかって話。」
「つまり、僕に何をさせたいと。」
「どうせ最期なら、なんも捨てるもん無いならさ、この世界変えてやろうよ。」
「は?」
この日から、僕はまだ、この屋上の空から飛べていない。
天使サンが推し。
最後まで読んでくれてありがとうございます!次回は2025年、12月21日を予定しておりますので、是非読んでくれると嬉しいです!




