第5話 壊す者と守るもの
転生して、すでに数週間が経っていた。
キトは新たな肉体に馴染み始め、かつてのように戦う感覚を少しずつ取り戻していた。
隣には、拳一つで道を切り開く少年・フィスト。
素朴な村で生まれ育った彼は、ただ真っ直ぐな眼差しで人を守る強さを持っている。
「なぁ、次はどこに向かうんだ?」
フィストが笑いながら肩を並べる。
キトは空を仰ぎ、小さく息を吐いた。
「……国境の村だ。妙な動きがあるらしい」
「妙な動きって?」
「“神信奉過激派”だ。神の名を語って、逆らう者を殺して回ってる」
フィストの笑顔が消える。
怒りを隠せないように拳がわずかに震えた。
「そういう奴ら……絶対に許さねぇ」
二人は国境の村〈リベラ〉に向けて歩き出した。
そのとき、遠くから煙が立ち上るのが見えた。
「くそっ……もう始まってやがる!」
村はすでに炎に包まれていた。
神の印を刻んだ異様な装束を身にまとった過激派の兵士たちが、民を蹴散らし、子どもたちを泣き叫ばせている。
「神の導きに背く者は粛清せよ!」
炎と血の匂いの中、キトは剣を抜く。
その刃が月明かりを受け、妖しく輝いた。
フィストも拳を鳴らし、村の中央へと駆け出す。
「てめぇら……ここから一歩も通さねぇ!」
拳と剣が火花を散らす。
キトは刃で兵士たちを薙ぎ払い、フィストは殴打の衝撃で兵士を吹き飛ばした。
しかし
「フッ……やっと来たか。噂の転生者と、その取り巻きが」
瓦礫の中から、異様な威圧感を放つ男が現れた。
上半身を覆う黒い鎧には、神の聖印が埋め込まれ、皮膚には光る文様が刻まれている。
「俺は“神の代弁者”ゲルヴァル。この村は神に逆らった……だから、滅ぶ」
「代弁者だと?」キトの声が低くなる。
「神なんざ……俺がこの手でぶっ壊してやる」
ゲルヴァルは狂気の笑みを浮かべた。
「壊せるものなら、壊してみろよ、小僧ォ!!」
瞬間、ゲルヴァルの肉体が膨張する。
筋肉は鎧を押し破るほど膨れ上がり、背中から淡い光が噴き上がる。
彼は神の力を人工的に移植された「信徒兵」だった。
「フィスト、離れるな!」
「おう!」
ゲルヴァルの一撃は重かった。
フィストの拳で受け止めても、地面がひび割れる。
キトが斬りかかるも、神の加護に覆われた皮膚が簡単には裂けない。
「ははっ……もっと来いよ。神の力は人の力とは違うんだよ!!」
吹き飛ばされ、砂煙の中でキトは膝をついた。
だがそのとき、胸の奥が熱くなる。
怒り。
憎しみ。
焼き付いた、あの日の光景。
心臓の奥で、何かが脈打った。
「……ちっ……またかよ」
赤黒いオーラがキトの周囲に立ち上る。
鬼の血が、静かに覚醒の兆しを見せた。
ゲルヴァルの次の拳が振り下ろされる瞬間、キトはそれを受け止めた。
「……なんだ、今の力……!?」
ゲルヴァルの目が見開かれる。
「俺は……神の力なんざ認めねぇ」
一瞬の跳躍で間合いを詰め、キトは斬撃を叩き込む。
その刃が聖印の防壁を割り、血飛沫が舞った。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
その隙を逃さず、フィストが拳を地面に叩きつける。
衝撃波が爆ぜ、ゲルヴァルの体勢が崩れる。
キトとフィストの声が重なった。
「ここで終わりだ!」
キトの剣とフィストの拳が交錯し、ゲルヴァルの胸を貫いた。
「バ……カな……神の……力が……!」
ゲルヴァルは崩れ落ち、炎の中で静かに消えた。
戦いが終わり、夜風が村を吹き抜ける。
炎の赤が夜の闇を照らす中、子供たちの泣き声が止まり、村人たちは二人に感謝を告げた。
「お、お前ら……ありがとう……!」
キトは肩で息をしながら、空を見上げる。
胸の奥で感じたあの“脈動”はまだ消えていなかった。
(……この力、まさか……)
フィストがキトの横に腰を下ろす。
「なぁ、さっき……お前、ちょっと怖かったぞ」
「……俺にもよくわかんねぇ。ただ、血が……騒いだ」
そのとき
遠くの塔の上から、二人を見下ろす金色の瞳があった。
イオ。
月明かりの下で、その瞳がわずかに光る。
「……やっぱり、生きてたんだな。」
その声は夜の風に消え、誰の耳にも届かなかった。
焚き火の明かりの中、キトとフィストは静かに息を整える。
「お前、これからどうするんだ?」
「神を……壊す」
「そっか。だったら俺も行く。守るために」
キトは小さく笑った。
「勝手についてこい」
炎が二人の影を長く伸ばす。
神と鬼の血が交わる戦いは、まだ始まったばかりだった。
──次なる地へ。
そして、運命の再会へ。
今回はキトとフィストが初めて“本格的な敵”と対峙しました。
そして、物語の鍵を握る存在イオがついに姿を見せます。
血の覚醒、〇〇の因縁、そして神との戦いが本格化していきます
次回、いよいよ新たな仲間との邂逅へ




