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Re-carnation  作者: 透譜


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第21話 黒の港に潜む影

夜の海は、まるで闇そのものだった。

 波音が絶え間なく響き、月明かりさえも霧に飲まれている。


 キトたちは、荒れ果てた海沿いの街「黒の港」に足を踏み入れていた。

 かつては交易で栄えた港町。今では密売人と流れ者が闇取引を繰り返す、

 世界の裏側に位置する“人の心が沈む場所”だ。


 潮風に混じって血と油の臭いが漂う。

 ルキが鼻を鳴らした。

「この臭い……嫌な予感しかしねぇな」


 フィストが警戒しながら辺りを見渡す。

「キトさん、この街……どこかおかしいっす。みんな目が死んでる」


 青龍が低く呟いた。

「魂を奪われたような人間ばかりだな。……悪の根が深い」


 キトは足を止め、静かに言った。

「この街を支配してるのは“アビスゲート”そう呼ばれてる組織だ」


 その名を聞いた瞬間、ルキの目がわずかに光る。

「アビスゲート? 聞いたことあるぜ。裏で神の加護を受けてる連中って噂だ」


 キトの拳が無意識に握られる。

「神の加護……? それが本当なら、放っておけない」


 黒の港の中心にある酒場。

 壁はひび割れ、床には酒瓶と血の跡。

 だが、客たちは誰も気にする様子がない。

 ただ、目の前の杯を見つめるだけ。


 そんな中、ひときわ大きな男がカウンターに腰かけていた。

 漆黒のコートに金の装飾。

 その瞳は、深淵を覗くように暗い。


「……ようこそ。神鬼キト、そして“六騎士”の名を掲げようとしている者たちへ」


 その声を聞いた瞬間、全員が身構えた。

 青龍が低く唸る。

「名乗ってもいないのに、俺たちを知っている……何者だ」


 男はゆっくりと立ち上がる。

「名はイヴィル。アビスゲートの創設者だ」


 その名が響いた瞬間、空気が凍りついた。

 キトの背筋に、久しく感じたことのない寒気が走る。


「お前が……アビスゲートの頭か」

「そう。そして“神に選ばれし者”でもある」


 イヴィルの指がわずかに動いた。

 瞬間、酒場の床が震え、闇が溢れ出す。

 黒い触手のような影が地面から伸び、周囲の客たちの身体を包み込んでいく。


 悲鳴が上がる。

 影に飲まれた人間の瞳が赤く光り、次々と立ち上がった。


「これが……“奪われた守護の力”だ」

 イヴィルは愉快そうに笑う。

「各地の守護たちから奪い取った力を、俺の駒たちに与えた。

 神の御業を人の手で使うそれがアビスゲートの理想だ」


 キトの目が鋭く光る。

「奪っただと……!」


「そうだ。守護の力は神のためにある。

 だが、神が消えたこの時代では、それを使える者がいない。

 だから俺が“集めている”。人のために、神を超えるためにな」


「神を超える……?」

 キトの声が震える。

「その言葉、聞き飽きた。俺はその果てで、何度も死んだんだ!」


 キトの拳が閃く。

 イヴィルの影と激突し、酒場の壁が崩壊した。

 爆風の中、イヴィルは笑っていた。


「いい目をしているな、神鬼。だが今はまだ、試す時ではない」

 その声とともに、イヴィルの身体が闇に溶けていく。

「いずれまた会おう。その時、お前の“本当の血”が覚醒するだろう」


 闇が消えたとき、酒場は瓦礫と静寂に包まれていた。

 残されたのは、黒い羽根が一枚だけ。


「……神に選ばれし者、か」

 ルキが羽根を拾いながら呟く。

「アイツ、何か知ってる顔してたな」


 フィストが拳を握る。

「守護の力を奪うって……そんなの許せないっす!」


 青龍は静かに空を見上げた。

「神と人、そして闇。

 バランスが崩れ始めている。もはや、この世界に安全な場所はない」


 キトは拳を見つめながら、低く言った。

「イヴィル……。お前の言葉の意味、確かめてやる。

 神の加護を名乗るなら神そのものと戦う覚悟を見せろ」


 夜の港に風が吹く。

 波の音が再び戻り、月が雲の間から顔を出す。


 その光が、瓦礫の中で光る黒い羽根を照らしていた。

 まるで、闇が次の夜明けを待っているかのように。

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