第20話 血焰の影
夜明け前の薄闇。
砂漠の戦いを終えたキトたちは、東の山岳地帯ヴァルド山脈へと足を踏み入れていた。
次に目指す地は、火の一族が住まう「ブラッドヴェイン」。
そこに、次なる強者がいると青龍が告げたのだ。
「この先には“狂戦士”がいる。名はフレイン。血で戦う一族の末裔だ」
青龍の言葉に、キトは静かに頷いた。
「血で戦う……か。面白いな。会ってみよう」
ルキは腕を組み、険しい表情を浮かべる。
「おい、あいつらは危険だぞ。刺激すれば何をしでかすかわからん」
しかしキトは笑った。
「なら、俺が抑える」
その後ろでフィストが拳を握る。
「山の向こうに、また仲間が……そう信じたいっす!」
赤黒く焼け焦げた大地。
溶岩が流れ、地面から立ち上る蒸気が空気を震わせる。
この地の空気そのものが“戦い”のように熱かった。
その中心で、ひとりの男が立っていた。
三本の漆黒の爪を持ち、血のようなオーラをまとった狂戦士。
彼こそ、血焰のフレイン。
「来たか……神の六騎士を名乗る者どもよ」
キトは肩をすくめた。
「まだ“名乗る”なんて言葉は早い。俺たちはただ、強くなるために旅をしてるだけだ」
「フッ、強くなる? いいぜ。なら証明してみろ! お前の“血”でなァ!」
フレインが地を蹴る。
瞬間、地面が爆ぜ、風が唸りを上げた。
彼の動きは獣そのもの速く、荒々しく、そして恐ろしく美しい。
鋭い爪が首筋をかすめ、血の熱が走る。
フレインの一族は、自らの血を燃やして戦うそれが“血焰”の力。
「どうした神鬼! この程度かよッ!!」
「……まだだ」
キトの瞳が紅く光り、鬼の力が解き放たれる。
衝撃波とともに拳がぶつかり、空気が弾け飛ぶ。
フレインの頬に血が飛び散るその瞬間、フレインの力が一気に跳ね上がった。
彼は笑い、血を浴びるたびにさらに強くなっていく。
「ハハッ、血だ! 俺の血が燃えるッ!!」
「自分の痛みで強くなる……か。だが、それじゃいずれ壊れるぞ」
「壊れて何が悪いッ!! 戦いの中で燃え尽きる、それが俺たちの誇りだ!!」
キトは拳を固め、静かに言った。
「……なら、壊れる前に止めてやる」
炎と雷のような拳がぶつかり合い、眩い光が山を包む。
遠く離れた岩の上で、青龍とルキがその戦いを見つめていた。
「どちらも“常人”じゃないな……」
青龍が呟く。
「あいつら……どこまで強くなる気だ」
ルキは拳を握りしめた。
最後の一撃。
キトの拳がフレインの胸を打ち抜いた。
フレインは膝をつきながらも、血まみれの顔で笑った。
「ククッ……楽しいじゃねぇか……お前……」
血を吐きながら、フレインが手を伸ばす。
「俺に……勝った奴にだけ……この力をくれてやる。血焰の影――お前の中で燃やせ」
キトはその手をしっかりと握った。
「お前の血も……お前の誇りも、無駄にはしない」
次の瞬間、赤い焔がキトの腕に流れ込み、紅い紋章が浮かび上がる。
それは戦いの証であり、絆の印だった。
夜。焚き火の前で、キトたちは休息を取っていた。
「……あいつ、死んだのか?」
ルキが静かに問う。
キトは火を見つめたまま答える。
「いや、あいつは燃え尽きただけだ。魂は、きっとまだここにいる」
青龍が口角を上げた。
「血焰のフレイン……いい名だ。あいつがいれば、俺たちはさらに強くなる」
「仲間、またひとり……!」
フィストが拳を握る。
キトは夜空を見上げた。
星の光が血焰の赤に反射して、揺らめいている。
「次は……誰の魂を燃やす番だ?」
焔が舞い上がり、夜が深く沈む。
旅は、まだ終わらない。




