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Re-carnation  作者: 透譜


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第18話 魔の胎動

荒野を越えたその先に、小さな村があった。

数日前まで人の気配があったはずのその村は、今はまるで時が止まったように静まり返っている。

建物は崩れ、地面には焼け焦げた痕。

生温い風が灰を巻き上げ、どこからか低いうめき声が聞こえていた。


「……ここも、神の“粛清”か。」

キトの声は低く、怒りを抑え込んだように震えていた。


青龍が地に残る剣の痕を見て言う。

「神兵のものではないな。これは……人間同士の争いだ。」


「人間同士?」フィストが目を見開く。

「つまり、誰かが“神の代理”を名乗って暴れてるってことか。」


ルキは一歩前に出て、地面の血を指先でなぞった。

その瞬間、彼の腕の黒い紋様が淡く光る。


「……っ。」

彼の呼吸が乱れ、膝をつく。


「おいルキ! どうした!?」

フィストが駆け寄る。


だが、ルキはその手を振り払った。

「……平気だ。少し、力が……暴れようとしてるだけだ。」


キトが彼の前に立ち、腕を掴む。

「また“魔王の紋”が反応してるな。」


ルキは苦笑を浮かべる。

「まるで生きてるみたいだ……封じてるはずなのに、何かが呼んでる。」


青龍が刀を抜き、あたりを見回す。

「この地……空気が重い。何かが地下で脈打っている。」


その言葉に、キトは頷いた。

「行くぞ。感じるか? 地の底から……“声”がする。」


彼らは廃墟の中央にある、巨大な割れ目へと向かった。

そこには、黒く染まった魔法陣が刻まれていた。


地下へと降りると、空気が変わった。

湿った匂いと共に、何かが蠢くような鼓動。


「これ……生きてるのか?」フィストがつぶやく。


魔法陣の中心には、黒い結晶のようなものが浮かび、その中に“何か”が閉じ込められていた。

それは、禍々しいほどに美しいまるで漆黒の心臓のようだった。


キトがそれを見上げた瞬間、ルキの紋様が激しく脈打つ。


「うっ……ああああああッ!!!」


彼が叫び、全身から黒いオーラが吹き上がる。

地面が震え、空気が一気に重くなる。


青龍がすぐに構える。

「まずい、魔力の暴走だ!」


キトは咄嗟にルキの肩を掴んだが、衝撃で吹き飛ばされた。

背中を壁に叩きつけられ、血を吐く。


フィストが叫ぶ。

「ルキ! やめろ!! お前はそんな奴じゃねぇだろ!!」


だが、その声は届かない。

ルキの目は真っ黒に染まり、瞳の奥に“もう一つの意志”が光っていた。


『……久しいな、人の器よ。』


その声は低く、空間そのものを震わせる。

「貴様は……誰だ。」キトが歯を食いしばる。


『我は魔王バル・ダグラ。かつて神に敗れ、地に封じられし者。

そして今、この肉体を通して再び目覚める。』


その瞬間、空気が爆ぜた。

黒い光が吹き荒れ、地の底の魔法陣が完全に起動する。


ルキの身体が、ゆっくりと浮かび上がる。

背中に黒い翼の幻影、そして角のような紋が浮かび上がった。


「嘘だろ……ルキ……」フィストが拳を握る。


キトが立ち上がり、青龍と並んで構える。

「……まさか、魔王が宿っていたのか。」


青龍が言う。

「奴は封印の一部をこの地に残していた。ルキの力は、その核と繋がっていたのだ。」


キトは拳を握る。

「だったら、止めるしかねぇ!」


黒い光が広がり、空間が歪む。

ルキの口から響くのは、もはや人の声ではなかった。


『我を止められるものなど、この世に存在せぬ――!』


キトが踏み出す。

「存在するさ。お前の名を呼び続ける“仲間”がな!」


鬼気が燃え上がり、青い龍気がそれに呼応する。

フィストも拳を構え、叫ぶ。

「ルキィィィィィ!!! 帰ってこいッ!!」


三人の力が一点にぶつかり、黒い爆光が世界を飲み込んだ。


静寂。

爆心地の中心には、膝をついたルキの姿があった。

紋様は薄れ、黒い翼も消えている。


「……お、れ……は……」


キトが駆け寄り、肩を掴む。

「戻ったか。」


ルキは涙を滲ませながら笑った。

「……また、迷惑かけたな。」


「いいさ。仲間ってのは、そういうもんだろ。」フィストが拳をぶつける。


青龍が刀を鞘に戻し、空を見上げた。

「だが、このままでは済まん。魔王の力が一時的に鎮まっただけだ。

完全に封じるには、“神の遺物”が必要になる。」


キトが頷く。

「次の目的はそれだな。」


ルキは拳を握りしめる。

「今度は……俺の意思で、この力を制してみせる。」


焚き火のような希望の光が、崩れた地下空間を照らした。


だが、遠く天界では。

神エデンが玉座の上で目を開く。


「また、“封印”がひとつ壊れたか。」

その隣に立つ影が問う。

「どうなさいますか、主よ。」


エデンは静かに立ち上がり、白い指を天へ掲げた。

「天の裁きを地に下ろす時が来た。」

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