第14話 龍の神殿、封じられし誓い
山々を覆う霧の奥へ、キトたちは青龍に導かれて進んでいた。
風が止み、世界が静止したような錯覚に陥る。
やがて霧が晴れると、そこに現れたのは
巨岩を削り出した、龍の姿を模した神殿。
その口の奥が入り口となり、青い光が脈打っていた。
「……ここが“龍の神殿”か」
キトが息を呑む。
「龍はこの地に眠り、神の時代が来る前から人々を守ってきた」
青龍の声は、どこか懐かしげだった。
「だが神々は恐れた。この力が自らの秩序を乱すことを。
ゆえに“龍の魂”は封じられ、祈りの代わりに沈黙を強いられたのだ」
静寂の中、神殿の扉が鈍い音を立てて開く。
青龍が振り返り、キトを見据えた。
「この先に踏み入れる者は、己の魂と向き合わねばならぬ。
それでも来るか?」
キトは迷わず頷いた。
「来るとも。俺はこの世界の“真実”を見届ける」
その瞳に宿る炎に、青龍は一瞬だけ口角を上げた。
「ならば見せてもらおう。神鬼キトお前の魂の在処を」
神殿の中は、時の流れが止まっていた。
壁一面に龍の紋章が刻まれ、青白い光が漂う。
中心には巨大な円盤状の石床があり、その上に一振りの刀が突き立っていた。
青龍がその前で立ち止まり、静かに語る。
「この剣は“龍影斬刀”。
龍の魂を継ぐ者だけが抜くことができる。
だが、もし不純な心で触れれば、その身は龍の炎に焼かれ灰となる」
キトが一歩踏み出そうとした瞬間、青龍が制した。
「触れるな。これは俺の試練でもある」
青龍は深く息を吸い、両手で柄を握った。
だが剣は動かない。
足元から龍の紋様が光を放ち、青龍の体に無数の鎖が絡みついた。
「……な、にこれ……?」
フィストが驚きの声を上げる。
青龍は苦しげに唸りながら、地を睨んだ。
「俺の心の奥底に……“神への恐怖”が残っているのか……」
その時、キトの胸が強く脈打った。
“血”が反応している。
手の甲に、見覚えのない光の紋章が浮かび上がる。
「キト! お前、腕が……!」
ルキが声を上げるが、キト自身も制御ができない。
青龍を拘束していた鎖が、キトの放つ光に共鳴し、音を立てて砕けていく。
「これは……“神の力”……?」
青龍が目を見開く。
キトは歯を食いしばり、言葉を絞り出した。
「違う……これは俺の中にある“神と鬼の狭間”の力だ!」
その瞬間、剣がわずかに揺れた。
青龍がそれに気づき、再び柄を握る。
キトの放つ光が剣に伝わり、重い音を立てて
龍影斬刀がついに引き抜かれた。
天井を突き破るような光柱が立ち昇り、神殿全体が振動する。
封じられていた龍の魂が解放され、咆哮のような風が吹き荒れた。
青龍の瞳が蒼く輝き、背中に龍の幻影が浮かぶ。
「龍よ再び、我が剣に宿れ!」
光が収まった時、青龍の手には龍影斬刀が握られていた。
彼は膝をつき、静かに頭を垂れた。
「……この力、再び人のために振るうことを許してくれたのか……」
キトは手を差し伸べた。
「俺たちは、神に抗う。
だがそれは破壊のためじゃない。
この世界に“自由”を取り戻すためだ」
青龍はその手を見つめ、やがて微笑んだ。
「お前の言葉、龍も聞いている。共に行こう、キト」
握手が交わされた瞬間、神殿の奥で何かが軋む音がした。
封印が、まだ終わっていない。
青龍が険しい表情になる。
「……どうやら、“もう一柱”が目覚めたようだ」
キトは振り返る。
神殿の奥、闇の中から赤い瞳がゆっくりと浮かび上がった。
「“封じられし龍”……?」
青龍は低く呟いた。
「違う、これは……神がこの地に遺した“監視者”だ」
キトは剣を構え、仲間たちに告げた。
「行くぞ。ここからが本当の試練だ!」
その夜、神殿の上空に再び雷が走った。
封印の奥で動き出す黒き影。
それは、かつて龍の魂を封じた“神の兵器”アーリウスの影だった。
そして、キトの腕に刻まれた紋章が、静かに脈打つ。
“神の血”が目覚めるたび、何かが近づいている。
神の理と、鬼の誓い。その狭間で、キトは覚醒の境界に立たされていた
第14話「龍の神殿、封じられし誓い」では、
青龍が正式に仲間になると同時に、「神の血」の存在が本格的に浮上しました。
キトの光が龍の封印を解いたことで、
“神の力=破壊ではなく解放にも使える”というテーマを初めて示しています。




