第10話 獣王、咆哮
夜の砂嵐が吹き荒れる。
街の灯りがひとつ、またひとつと消えていく。
神殿の鐘が鳴り響いた瞬間、空が裂けた。
白銀の装甲を纏う“神兵”たちが天より舞い降りる。
その中心には黄金の翼を持つ将がいた。
「この地の罪人ルキ。神に背いた罪、ここで贖え」
民が逃げ惑う。
砂の都は瞬く間に戦場へと変わった。
キトとフィストはその光景を見て、走り出した。
「クソッ……あれが“神兵”か!」
「奴らは人間を裁くと言いながら、ただ殺すだけの存在だ」
神殿の頂上では、ルキが剣を抜いて立っていた。
黒い風が彼の身体から吹き出している。
「神よ……また俺の民を奪う気か」
怒りと悲しみが混ざるその声に、
黒い炎が応えるように揺らめいた。
キトが駆けつけた時、
神兵の一団がルキを取り囲んでいた。
「ルキ!」
「来るな、キト……これは俺の罪だ」
「罪?あんたのせいじゃねぇ!
救えなかったのは“神”だ!」
ルキの目が見開かれた瞬間、神兵の槍が降り注いだ。
キトが前に飛び出す。
剣と拳が交錯し、砂塵が爆ぜた。
「ルキ! 民を守るんだろ! だったら立て!」
「俺には……もう力が」
その時だった。
地面から黒い紋章が広がり、
ルキの体を闇が包んだ。
「まだ……俺は……終わっちゃいねぇッ!!」
闇が咆哮を上げる。
獣の形をした黒炎が背中から噴き上がり、
ルキの瞳が紅に染まる。
「魔王の力……!」
キトが呟く。
砂が浮き、空気が震える。
ルキの拳が一振りされただけで、
神兵が数体まとめて吹き飛んだ。
「これが……俺の中に棲む獣だ。
神がくれた呪いであり、俺の誇りでもある!!!」
黒炎の中で、獣王ルキが叫ぶ。
だが、力の代償はすぐに来た。
黒炎が制御を失い、街へ広がろうとする。
「ルキ! やめろ、それ以上は自分が喰われる!」
「わかってる……だが止まらねぇんだ!」
キトが駆け寄り、拳を合わせた。
「だったら俺が止める!!」
二人の拳がぶつかり合う。
その衝撃で黒炎が弾け、砂が吹き飛ぶ。
「お前の力は呪いじゃない!
誰かを守るための力に変えろッ!!」
「守る……力……?」
ルキの脳裏に、民の笑顔が蘇る。
子供たちの声、仲間の叫び。
それが、黒炎の中で光に変わった。
闇が静かに収まり、紅の瞳が人の色を取り戻す。
夜明け。
砂漠の空に初めて光が差した。
焼け焦げた神殿の跡で、ルキは膝をついていた。
「……俺は、また暴れちまったか」
「でも守ったろ。お前の街を」
キトが手を差し出す。
ルキはその手を見つめ、静かに掴んだ。
「神を殺すんだろ?」
「あぁ」
「なら、俺も行く。獣王として」
キトが笑った。
「歓迎する、ルキ」
フィストが呆れ顔で肩をすくめる。
「また濃いのが仲間になったな……」
三人の笑い声が、砂漠の風に溶けていった。
その背後で、
倒れた神兵の通信機が微かに光を放っていた。
『――報告。対象、覚醒を確認。
神の審判を――開始せよ。』
この第10話では、
•ルキの魔王の力の片鱗を明確に描写
•“神に裏切られた者同士”としての共鳴
•仲間としての誓い
を軸にしています!
最後の神兵通信によって、
次章では「神の審判部隊」や「上位神兵」など、
物語が一段階スケールアップする伏線を貼っています




