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Re-carnation  作者: 透譜


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第9話 砂塵に眠る誓い

砂漠の夜は、昼の灼熱が嘘のように冷たい。

キトは焚き火の前で静かに拳を握っていた。

横でフィストが心配そうに声をかける。


「おいキト……あの“獣王ルキ”ってやつ、本気出してなかっただろ」

「……あぁ。あいつは何かを抑えてた」

「何か?」

キトはわずかに目を閉じる。

「まるで……自分自身を、だ」


炎が揺れ、砂に映る影が揺らめいた。

キトの頭には、戦闘中に見た“紅く光る瞳”が焼き付いていた。

あれはただの獣の闘志じゃない。何か別の存在が潜んでいる。


翌朝、キトはひとりで砂の都を歩いた。

フィストは街の鍛冶屋で武具を整えていたため、今回は同行していない。

風に流れる砂の音の中、老人の語る言葉が耳に残った。


「ルキ様は優しい方じゃ。しかし……夜ごと黒き獣に魘されておる」

「昔はただの戦士だった。だが、神兵がこの地を襲った夜から

 あの方の中に“何か”が棲みついたんじゃよ」


「神兵……?」

その名に、キトの瞳がわずかに揺れた。

かつて自分を滅ぼした存在。神の軍勢。


「ルキ様はその夜、仲間を全て失った。

 神を憎みながらも、力を制御できぬ己を責め続けておるのじゃ」


老人の話が終わると、

キトは無言で立ち上がり、向かう先を定めた。


夜。

砂嵐が吹き荒れる中、キトは王の神殿へ足を踏み入れた。

そこには、黒い獣の影を背負いながら祈るルキの姿があった。


「また来たか、転生者」

「聞きたいことがある」

「……俺に“神”の話をする気か?」

「お前の中に“神”と“魔”の力、両方が混じってる。

 あれは何なんだ?」


ルキはゆっくりと立ち上がり、闇の中で微笑んだ。

「神が俺を救うと嘘をついた。

 その代わり、俺の魂を“魔”に売った。

 以来、俺はどちらの存在にも属せねぇ。

 神にもなれず、魔にも堕ちねぇ。……ただの“獣”だ」


その言葉には、痛みと絶望が混ざっていた。

だが、キトの中で燃えるものがあった。


「だったら、抗えばいい」

「抗う?」

「神に与えられた力なら、神を倒すために使えばいい」


ルキの瞳が鋭く光った。

「言葉だけなら誰でも言える」

「じゃあ拳で語るか」


砂の神殿が唸りを上げた。

瞬間、ルキの体から黒きオーラが噴き出す。

風が渦巻き、天井が砕ける。


「来い、転生者ッ!」

「望むところだ!!」


拳と拳がぶつかり、

砂が弾け、夜が裂けた。


キトの身体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。

だが立ち上がる ボロボロになっても、何度でも。


「お前の苦しみは、俺が壊す!」

キトの叫びが夜を切り裂く。

ルキの拳が振り下ろされた瞬間、

キトの瞳に“幼い自分”が重なった。


泣いていた少年。

そしてその傍に立っていた“白い影”。


記憶の断片が閃く。


キトの拳が、光を放ちながらルキの頬を打ち抜いた。

ルキは一瞬、黒いオーラを散らして沈黙した。


荒い息の中、キトは呟く。

「……神の力なんて、所詮は呪いだ」


ルキは笑った。

「お前も、神に見放された顔だな」


「そうだ。だから神を殺す」


沈黙のあと、ルキはゆっくりと背を向けた。

「……明日の夜、もう一度来い。

 お前の言葉が本物かどうか……試してやる」


夜更け。

キトが傷だらけで帰ってくると、

焚き火の前で待っていたフィストが立ち上がった。


「おい! 何があった!」

「……獣王が、泣いてた」

「は?」

「戦ってわかった。あいつも、俺と同じで……

 神に裏切られた人間だ」


キトは拳を見つめ、静かに笑う。

「明日、もう一度行く。

 今度は戦うためじゃねぇ。……繋ぐためだ」


砂漠の夜風が二人を包んだ。

その風の先に、獣王ルキとの本当の“誓い”が待っている。

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