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日常に潜む不思議

初投稿です。

雨が降っている時、何故空から水が降るのか不思議に思ったことがある。


 星が綺麗な空を見た時、触れられるはずもないのに手を伸ばしたことがある。


 人混みの中で、誰もぶつからずにそれぞれの目的地まで真っすぐに向かうスーツ姿の人たちを不気味に思ったことがある。


 路肩に落ちている石で躓いた時、思わずその石を蹴飛ばして人に当ててしまったことがある。


 人は、ふと思っただけでもいくつものことを考えては忘れている。子供の頃の将来の夢や一週間前に食べた夕食、かつて約束した大事だったことまで⋯⋯⋯重要度は関係なく忘れてばっかりだ。


勘違いしがちだが、忘れる=記憶がなくなる訳ではない。あくまで思い出せなくなっているだけであり、記憶の中にはしっかり記録されているはずなのだが、残念ながらそれを証明することは未だ出来ていない。


脳天をかち割って脳を弄くり回してもわかっていないのだから、人間は不思議でいっぱいだ。


人間だけじゃない。空・大地・水・火・学校・家・病院・海・山・太陽・森・道路・花・スポーツ・工場・公園などなど、不思議は見てないなかったり、気にしてないだけで、そこらに蠢いている。


例えば、こんな風に⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ね。







「はいはい。何でこんなにいるのかね。明日も期末テストなんだけどな、俺に対する気遣いを少しは見せてくれたって良いと思うんだよ。お前もそう思うよな?そうだよな?いやそうって言え」


「私まだ何もしてないじゃん!」


夜遅く、誰もいない学校の中のトイレで木製バットを片手に黒い綿菓子から目が生えた靄を足で叩き潰す黒髪の青年は、目の前の赤い服におかっぱの少女に半ば脅しのような共感を求めていた。


「何もしてない?お前よ、こないだこの学校に出るなって言ったよな?」

 

「そ、そうだっけ?」


おかっぱの少女の姿をしたナニカは、青年の言葉にギクリと体を強張らせたが、惚けるように首を可愛げに傾げた。可愛げな少女の誤魔化しは、普通なら思わず許してしまうだろうが、目の前の青年には逆効果だったのか、木製バットをゆらゆらと揺らし始める。


おかっぱ少女は察した。これ以上ふざけたら間違いなくフルスイングを顔面に叩き込まれるということに。


「じょ、冗談だってば。瑞月みつきさんってば怖いな〜」


「お前よ、その前は一ヶ月前にも出たよな?その前は三ヶ月前にも出たしよ。だんだん出てくるペースが短くなってるのは俺の気のせいか?」


「気の所為だよ!気の所為!まさかそんなことがある訳ないじゃないですか〜」


「あっそ、もう何かどうでも良くなってきたわ。とりあえず元の場所にぶち込んでやるよ」


そう言って瑞月と呼ばれた青年は、おかっぱ少女の頭を片手で掴み、その体を軽々と持ち上げる。


「ちょ、ちょ、ちょちょ、ちょと、ちょっと待って、ちょっと待てよ。落ち着こう、一旦落ち着こう!ね!ね!」


「俺は落ち着いてるが、話すのに飽きたから話は聞かん。つーわけで⋯⋯さいなら」


別れの言葉を告げられても何かを話そうとするおかっぱ少女に、瑞月は聞こえないフリをしながら片手で掴み上げていた少女を離し、顔面にバットを叩き込んだ。


便器の中に吸い込まれるように吹っ飛ばされたおかっぱ少女は、そのまま便器から流れるようにして消えていき、トイレは静寂に包まれる。


溜め息をつきながらトイレを出た瑞月の影から、一匹の大型犬が現れ流暢な言葉で話し始めた。


「瑞月、幼い少女にバットをフルスイングするのは流石に絵面が悪いぞ」


「良いだろ別に。痛覚もねーし、そもそもしょっちゅう沸いてくんだから虫みたいなもんだろ」


「痛覚がなくとも、触覚はあるはずだから普通に怖いと思うぞ。トイレの花子さん相手にバットをフルスイングする人間なんて、瑞月くらいだろうな」


「うるせーぞ、ダイア。はよ帰ってさっさと寝る」


ダイアと呼ばれた犬は、やれやれといった様子で頭を振りながら体を大きくさせ、瑞月を乗せて家まで空を駆けるのだった。







次の日、生徒たちで賑やかな教室に時間ギリギリで滑り込んだ瑞月は、気だるい体をなんとか動かしながら自分の席に着く。


「今日はいつにもましてすごい寝癖だね。直してあげようか?」


前の席から話かけてきたのは、新雪のように真っ白な髪に、透き通るような肌、人形のように整った顔立ちの女性と見間違える程の美貌を持った青年だ。


そんな青年の提案に、瑞月は眠気が限界のようで、ウトウトしながら机に顔を伏せる。

 

「頼むわ凛音りんね。つか眠すぎてヤバいからちょっと寝る。時間になったら起こし⋯⋯⋯て」


「はいはい、任されました」


凛音と呼ばれた青年は、慣れた様子で瑞月の後ろに立ち美容師のような手つきで霧吹きと櫛を使って瑞月の逆立った黒髪を整えていく。


「何で学校一の美青年が、学校一のヤバい奴と仲が良いのか全くわからん」


「脅されてるんじゃねぇの。お前助けてあげたらどうだよ。ワンちゃんあるぞ?」


「うるっせ!俺にそっちの気はねーよ!ただ疑問に思っただけだろうが!」


「やっぱり音×月かな?それとも月×音かな?」


「私は音×無派かな。オラオラ系と真面目系はイイよね」


「更科さんは女の子じゃん。今そんな話はしてないって」


「三角関係が一番イイじゃん。三平方の定理のような美しさを感じるよ」


「ごめん、何言ってるか全然わかんない」


クラスメイトたちが男女関係なく瑞月と凛音の話をしているが、二人の関係を深く知る者はそう多くない。


二人が何時、何処で、どうやって友達になったのかまでを知るのは、二人だけだ。


(ほんと、好き勝手話してくれるよ。僕が気づいていないとでも思ってるのかな?)


瑞月の寝癖を整えることに集中している凛音だが、周囲の話にはしっかり耳を傾けていた。話すのは良いが、出来れば本人がいない場所でして欲しいと思いながら髪を整え終えた凛音は、冷えるであろうと膝掛けを瑞月の膝にかける。


(少しの間だけど、お休みなさい瑞月)


心の中でそう囁き、周りの話に気づかないフリをしながら凛音は席に着くのだった。








放課後、二日かけてようやく終わった期末テストに瑞月は両手を空に伸ばして体をほぐす。そんな瑞月に微笑みながら、凛音は問い掛けた。


「だぁ~、ようやく終わった」


「お疲れ様。今日はどうする?」


「あ~素敵なステーキが食いたい」


「じゃあステーキハウスに行こっか。今日は僕の奢りでいいよ」


「マジ?今日の俺はめっちゃ食うぞ」


「よく食べるのはいつもでしょ。いいよ別に、今日まで勉強を頑張ったご褒美です」


「神かよ。いや神だわ。拝むわ」


南無阿弥陀仏と言いながら拝み始めた瑞月に凛音は苦笑しながら、ステーキハウスへと向かう。


「そういえばさ、明日転校生が来るって噂ごあるの知ってる?」


「転校生?しらね。噂話する相手いねーし」


「僕がいるでしょ、たった今その噂話をしてるし。でね、その転校生がすごい綺麗な人なんだって」


「どっからそんな噂が出てくるんだよ」


「職員室で先生たちが話してたのを、誰かが聞いてたみたいだよ」


「プライバシーの欠片もねーな」


雑談を交わしながらステーキハウスに到着した二人は、店員の案内で店の奥の方に席に座る。凛音が大きなメニューを二人で見れるように広げると、目立つようにある文字に指を指す。


「見て、キャンペーンで食べ放題をやってるんだって。6000円でステーキ食べ放題って安いね。しかも学生カップル限定」


「お前、これのこと知ってたろ」


「流石にステーキを何枚も食べられるのはね。これならいっぱい食べても僕の懐は痛まないし」


「神から聖人に格下げだな」


「聖人ではあるんだね」


「奢ってくれるからな」


二人は店員を呼び、学生カップル限定の食べ放題を注文する。当然のようにカップルとして注文しているが、凛音こと藤原凛音は男である。


どれだけ可愛くても男である。ぱっと見が女の子で、骨格まで女性っぽくても男である。店員はズボンを履いている凛音に気付かず、カップルと勘違いしてしまった。


この時点で、ステーキハウスの今日の売り上げが赤字になるのが確定してしまった。哀れ店長。


サラダバーとドリンクバーも一緒に注文した凛音と、ドリンクバーだけ注文した瑞月は席を離れはしたが、コーラだけ取ってきた瑞月だけ先に席に戻って来た。


ふと窓から外を眺めるが、あいにくの曇り模様だ。帰り際には雨が降っているかもしれない。気付きたくない事実に若干気分が落ち込んでいると、凛音がサラダを片手に席に帰ってくる。


「野菜食べないと栄養偏るよ」


「ステーキを食いに来て野菜食う方が邪道だろ。焼き肉で野菜食うか?」


「食べるね。ご飯も一緒に」


「俺と凛音がわかり合えないことはよーくわかった。俺は絶対食べないぞ」


「そんなこと言わずにさ。ほらほら」


凛音がフォークに刺したレタスを差し出してくる。瑞月は凛音の笑顔を見て確信していた。これは悪戯心に支配された笑顔であると。こうなっては抗う方が面倒なことになると思った瑞月は、被害が少ない内に差し出されたレタスを一口で食べる。


苦手なシーザードレッシングではなく、まだマシな和風ドレッシングを使っている辺り、元々食べさせるつもりだったのだろうと思いたった瑞月は、別で悪戯し返してやろうと心に誓った。


そんな瑞月の決心を知ってか知らずか、凛音はそれはもう満面な笑みで感想を聞いてくる。


「美味しい?」


「普通」


「じゃあもう一口」


「やっぱ不味い」


「そんな慌てなくたってもうやらないって」


苦笑しながらサラダを食べ始める凛音に、瑞月はいつまた食べされられるのではないかと警戒しながらコーラを飲んでいると、店員がステーキを持ってきた。


「サーロイン500gにヒレ200gとパンのセットです」


当然のことだが、サーロインが瑞月でヒレが凛音だ。二人の前に配膳された肉を前に、テーブルに用意されたフォークとナイフを取り出した。


「「いただきます」」


二人同時にナイフで肉を切り分け、フォークで刺した肉を頬張る。


「ん?」


「あ?」


そして感じる違和感。食べた時に感じる肉汁や旨味がまったく感じない。それどころか焼いた肉の温度も感じず、これではまるで生肉をそのまま食べたような⋯⋯⋯⋯⋯⋯


「ゲェッ!ペッ!ペッ!なんじゃこりゃ、生肉じゃねぇか!」


「ブルーレアって訳でもないね。さっきまで焼き色がついていた肉が、いつの間にか生肉になってる。付け合わせのポテトは冷凍だし、ニンジンも生だ」


凛音が冷静に状況を分析していく。周囲を見渡せば、先程まで賑やかだった店内には客の一人もおらず、店員の姿も見えない。電気を消えていて、外の街灯くらいしか光源は見当たらない。


「ねぇ瑞月、これってもしかして」


「もしかしても何もねーよ。人の飯の時間を邪魔しやがって⋯⋯ぶっ殺す」


「もう少しオブラートに包もうよ⋯⋯⋯」


「ショクザイヲムダニスルナンテユルセネーナー」


棒読みで言い直した瑞月が辺りを見回すと、厨房の方から呻き声と共に野菜や肉、調理器具などが組み合わさって出来たナニカがうじゃうじゃと現れた。


「「「「「クッテヤル、クッテヤル!」」」」」


「随分と変なのが出てきたね。食材が体なのに食ってやるなんて、皮肉か何かかな?」


「寒いギャグかなんかだろ。とりあえず殺してさっさと食べ放題に戻るぞ。時間がなくなる」


(もうオブラートに包むの忘れてる⋯⋯⋯まぁ、アレの対処は瑞月に任せて僕は原因を探ろうかな)


化け物たちに一直線に向かっていった瑞月に対処を任せ、凛音は化け物たちが出てきた厨房にバレないように向かう。 


食ってやるという発言や食材が生に戻る現象に、食材や調理器具の身体。理由があると考えるのが自然だ。


凛音が入った厨房は店内と違って電気がついていた。明るく照らされた厨房は、真っ暗闇の店内とは違って安心出来るはずなのに、凛音の心情は真逆だった。


(成る程。予想はついていたけど、ひどいものだよ)


凛音は料理経験がある。プロ料理人に張り合えるとは言わないが、それでもそれなりの自信があった。

だからこそ、この厨房に入っただけでわかる。


冷凍しているせいでわかりにくいが腐りかけの肉に、雑な扱いをしていることがわかる程度に手入れされていない調理器具の数々。細かく見れば粗は幾らでも見つかるレベルで酷い。


「提供された者やサラダバー事態に問題があったようには見えなかったから客にまでは出していないだろうけど、廃棄される食材の量はそこそこじゃ済まなさそうだね」


原因がわかれば対処は簡単だ。あの化け物たちは捨てられる食材たちの怨念だろう。食用として育てられた挙げ句、食べることなく捨てられるなんて無駄の極みだ。


「僕ももう少し気をつけようかな」


帰ったら無駄がないか確かめようと心に決めた凛音は、急いで瑞月の下へと駆けつけようとホールへと向かう。


「「「「「クッテヤル!クッテヤルッ!」」」」」


「オラこいやぁ!上等だコラ!焼き肉にしてやらぁ!」


ホールにいたのは、食材たちの化け物相手に殴り続けている瑞月と、怨嗟であろう声を挙げながらボコボコにされている食材の化け物たちだった。


化け物たちは分裂が出来るのか、分裂しては殴られて、分裂しては殴られてを繰り返している。そのせいか食材が更に散らばって辺りは酷い有様だった。


先程とは別の意味で近寄りがたい空間だが、あまり時間をかけたくもないので、瑞月に聞こえるように大きな声で叫んだ。


「瑞月!そいつらは廃棄されてきた食材たちだよ!」


「それで!?食えばいいのか!?」


「お腹壊すよ!」


「じゃあどうすんだよ!?」


「いつもと同じだよ。感情を込めて殺れば良いんだ!」

 

凛音からの対処法を聞いた瑞月は、獰猛に頬を吊り上げた。


「なんだよ、簡単じゃねーか。時間かけて損したぜ」  


「「「「「クッテヤル!クッテヤルッ!」」」」」


「応、ちゃんと喰って殺るよ!」


瑞月が攻撃をテンポを上げて、化け物たちに連打を打ち込む。怨嗟の声を挙げながら分裂するよりも遥かに速いスピードでだ。


「「「「クッテヤル!クッテ」」」」


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


「「「クッテヤ⋯⋯⋯」」」


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


「「クッて⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


「ク⋯⋯⋯って」


「これで、終わりッ!」


凛音の目にはとても見えない速度の連打を叩き込まれた化け物たちは、最後には煙ように消し去り、最後の一撃で完全に消滅した。


それと同時に店内に明かりがつき、賑やかな客の声や忙しなく動く空間へと戻ってきていた。


(ふぅ、どうにか元に戻ってこれたよ。でも、今日は予定変更かな)


「よぉし凛音。早く食おう!時間がなくなる」


「いや、お会計しよっか」


「うぇ?」


きょとんとなる瑞月を他所に料理に手を付けずに会計を済ませた凛音は、未だに呆けている瑞月に話し掛ける。


「瑞月、もう外出たよ」


「あ?ホントだ。てか良いのかよ、金だけ払って出てくるなんて」


「良いよ別に、もうそんな気分じゃないしね」


「でも、まだなんも食ってねーし」


「レタス食べたでしょ?」


「あれは食ったって言わねーんだよ!」


腹が減ったと全身を使って表現する瑞月に苦笑しながら、凛音は瑞月の興味を引く話題を出す。


「じゃあ僕の家にいこっか。僕が振る舞うからさ」


「マジか、じゃあ行こう。今すぐ行こう」


「家は逃げないよ」


「逃げるかもだろ」


「逃げないってば」


日が暮れて夜に差し掛かる中で、二人は道中で他愛ない会話をしながら凛音の家へと向かうのだった。

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