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ヒトとキツネの異世界黙示録Ⅱ  作者: 遊戯九尾
第一章 左遷される英雄達
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裏路地の脅威

今日は四課のオフィスでの書類作業だった。各々が飲み物を飲みながら、ここ3番街で起きている事件をまとめる。


「1番街と比べて、割と穏便な事件が多いな」

「ここは平凡な人が暮らす平凡な街だからな、事件なんてそうそう起きないさ」


だがそれでも事件があることには変わりなく、永戸達は書類を一枚一枚整理していく。


「えーゆー様も書類仕事は苦手かい?」

「苦手ではありませんね、まぁ毎日は嫌になってきますが、たまにこう言った資料整理するくらいなら俺は喜んでやりますよ」


永戸の言う事にランジーはつまらなそうにする。永戸や神癒奈達はさっさと書類をまとめ終えると、ランジーに言った。


「課長、書類をまとめ終わったのでこちらに置いておきますね」

「うい、わかった、勤勉に仕事に励んでくれて助かるよ」


そう言ってると、課長の机からぴらっと一枚の紙が落ちた。


「ん? 課長、紙、落としましたよ」

「んー? どうせしない仕事だ、処分しておけ」


ランジーは捨てるよう言うが、永戸は紙を読み上げた。


「これは…表通りからの依頼、誘拐された子供を探して欲しい…か」

「誘拐なんてこの都市では当たり前だ、無視すればいい」


ランジーはそう言うが、永戸にとっては無視できず、荷物をまとめると、出発の準備をする。


「おいおい、まさか本気で依頼を受ける気じゃないだろうな?」

「子供1人探せずして何が四課ですか、神癒奈、フィーネ、行くぞ」

「はい!」

「かしこまりました」


そうして永戸達はただの剣と刀を持って、外へ出ていった。それを見たランジーは言う。


「ふん! お人好しのえーゆーが、粋がってんじゃないっつーの」

「まぁまぁ課長、隊長達は元々本部の所属でしたし、本部ではそれが普通だったんじゃないんすか?」

「下らん……英雄の夢想など……」


ランジーは永戸達の行いを否定するように言うと、酒を一飲みした。その酒の味は、焼くように喉を通るが、少し苦く思えた。


ーーー


永戸達がやって来たのは5番街、貧民街とされてる街で、以前ここで大きな戦いをした事がある。依頼主に会おうと永戸達は家の前に立つ。コンコンとドアを叩き、ドアが開くと、そこにはしわがれた老婆がいた。


「イストリアの者です。誘拐の事件について聞きに来ました」

「あぁ、イストリアの方々、どうか私を助けください」


家に上がっては事情を聞く。すると、老婆は一枚の紙を出して来た。


「私が息子を置いて買い物に行き、帰って来たら息子はいなく、これが置かれてたのです」


永戸達はじっとその紙を見る。するとそこには、"息子を預かった、返して欲しければ金を払え"と至ってシンプルな文が書かれていた。


「典型的な誘拐だな、犯人の詳細がこれじゃわからないな、フィーネ、頼めるか?」

「おまかせを」


フィアネリスは紙を手に取ると、観測をし始める。暫く彼女が情報を探していたが、めぼしい情報を得ると、紙を返した。


「情報が手に入りました、誘拐したのは裏路地のネズミですね、彼らは日々の生き抜く金を求めてますからね、このままいけば子供は臓器売買に、誘拐の金だけ取られてトンズラされるでしょう」

「そんな……息子を助ける事はできないのですか?」

「後は俺たちに任せてください。必ず息子さんを助けて来ますので」


そうして家から出て、永戸達はどうするのか決める。


「さて、どうする? 直接乗り込むか?」

「そうしたほうが早いかと、相手は所詮ネズミですので」

「ただ問題は…裏路地で問題を起こした場合、そこの管轄の組織に狙われないかですよね」

「一応、俺たちには四課の肩書きがある、大手を振って歩けるが、それでも襲うバカはいるからな、子供も人質にされてるし、守りながら戦うのは大変だぞ」


今の手持ちの武装的にもやや不安があった。ただの剣や刀では永戸達の剣技に耐えられないのだ、裏路地の独自技術の武器を使われた場合、武器のパワーで押し負ける可能性がある。

だが、それでもと永戸達は子供を守る事を選び、フィアネリスに案内されながら裏路地へと進んだ。


ーーー


都市において裏路地とは表通りとは違うアウトローの世界だ。都市の法の外にあり、そこに住む人々は、日々生き残るために殺しや盗みを平然と行う、命懸けの世界だった。そんな中に永戸達は入っていく。


「へっへっへ…」

「見ろよ…イストリアの役人がこんなところにいるぜ…」


5番街の治安は極めて酷く、当然ながら裏路地の広さも他の街と比べてかなりの広さを誇っていた。


「1番街と比べて、賑やかですね」

「5番街の裏路地は、むしろこちらが本当の街ではないかと言われるほどの大きさを誇りますからね、1番街と比べて技術レベルも組織の大きさも低いですが、油断はせずに」


フィアネリスにそう言われ、神癒奈は気をつける。そうして歩いているうちに、目的の建物へと辿り着いた。


「ここですか?」

「だといいのですが、ね!」


フィアネリスがドアを蹴破り、中に入ると、子供を人質にした男達がいた。


「なんだお前らは⁉︎ 金を渡しに来たんじゃないのか!」

「イストリアの者だ、その子供をはなしてもらおう」


永戸がそう言うと、ただの剣で男達に切り掛かった。男が怯えた瞬間、剣が振り下ろされ、男の手首が宙を舞う。


「おぁあああああ!」

「てめぇやりやがったな!」


他の男が銃を撃つが、永戸はそれを赤黒い稲妻を迸らせながら零で回避すると剣戟で男達に次々と傷をつける。


「くそっ! こいつら! ただの役人じゃねぇ! 逃げるぞ!」


裏路地の男達は逃げようとするが、神癒奈に立ち塞がられる。


「悪・即・斬!」


神癒奈は殺さない程度にと、刀を背にして構えると、連続攻撃を行う焔月式抜刀術弐式で男達を倒す。

一通りカタがつき、犯罪を犯そうとした者達を警察組織に送ると、神癒奈は人質にされていた子供を救出する。


「怖かったよぉおおあおお!」

「よしよし、もう泣かないで、お姉さんたちがお婆さんのところまで連れて行ってあげますから」


子供を助け出し、後は連れ帰るだけだ。だがここで、思わぬ邪魔が入った。


「ヒトのシマで偉く暴れてくれてるじゃないか、イストリアの役人さんよ」


やって来たのは少しヨレヨレのスーツを着た男で、武器を持った男達を連れて来た。


「お前がこの領域の首領って奴か」

「そうだ、ネズミがコソコソしてると言うんで美味しいところを横取りしようとしたら、まさかイストリアの役人がやってくるとは、ここが何処だか分かってるのか? お前達は死ににでも来たのか?」


裏路地には領域というものがある。そこを支配している組織があり、日々他の組織と勢力争いをしている。どうやらこの男は立ち寄った領域の組織の首領らしく、ヨレヨレのスーツながらも覇気を放っていた。


「いや、待て、お前達の顔、見覚えがあるぞ……そうだ思い出した、そこの男と狐、双方別々ではあるが、一時期殺しの依頼が来てたな。すぐに取り消されたが、いったいなぜそんな奴がこんなへんぴな場所にやって来たんだ」

「こっちにも事情があるんだ、俺としては、引いてくれることをお勧めする」

「できないな、裏路地の掟、知らないはずがないだろう」


裏路地の掟、それは、管轄している領域で抗争があった場合、支配している組織が介入し、鎮圧の為殺しを行うという事だ。仮にそれは抗争が終わっていたとしても発動され、こうして目の前に敵が立っている。


「どうしても引かないと言うのなら…」


永戸が零を発動し、神速で接近して切る。だが男は素早いその動きを目で追い、槍で防いだ。


「……できるな!」

「当たり前だ、裏路地で受けられる施術は受けられるだけ受けた、時折激痛の走る施術もあったが、今ではこの領域の首領になれるくらいの実力はある。使われてる槍もここらじゃ最高品質のものだ、お前のそんなボロい剣じゃ太刀打ちできないほどのな」


首領と永戸は互いに一歩引くと、再び武器をぶつけ合う。永戸の神速の斬撃を全て首領の男は捌き切っている。


「永戸さん!」

「構うな! 神癒奈はフィーネと一緒に子供を守れ!」


他の武器を持つ男達を相手に、神癒奈は刀を振るう。だが、他の男達も施術をされてるのか、神癒奈の神速の斬撃にも対応していた。


「なるほど、確かに殺し屋に狙われるだけの実力はある。だが変だ、イストリアにこれほどまでの実力の奴らがいたとは、その実力、一課のレベルでは収まるまい」

「お前の見えないところで、俺達みたいな連中が戦ってるんだよ!」


永戸は斬撃を次々と入れていくが、槍で全て弾かれると、攻撃を返される、ならばと永戸は突き出されて来た槍を踏み、剣をそれに向けて振り下ろした。


「一撃でダメなら、何十も切れば!」


ここで永戸は零で攻撃を複写し、一撃で同時に何十もの斬撃を叩き込んだ。その攻撃が槍に届くが、あまりにも強い威力の攻撃だったのか、両者の武器が壊れた。


「なっ…特注の槍を、こうも…!」

「まだ俺が素手だと思うな!」


壊れた剣を巻き戻しで再構築し、永戸は首領に斬りかかる。その時だった。


「待った!」


首領がそう言った途端、永戸は首筋で剣を止めた。

どう言うつもりだと永戸は思うが、首領は話しだす。


「あくまで我々は騒動の後始末に来ただけ、そちらに捕まる理由にはならない、そうだろう?」

「何が言いたい?」

「私を見逃してくれたら、そちらの件も見逃そう。戦ってみて、お前達には関わらないほうがいいと見た、お前の忠告に従い、こちらは引く」

「……分かった」


永戸は剣を戻すと、神癒奈の方を見る。神癒奈の方は優勢だったのか、男達を傷だらけにしては無力化しかけていた。永戸の目線に気づいたのか、神癒奈も刀を納めると、永戸達はフィアネリスに子供の守りを任せ、背中を見せないように去っていった。


「彼らは何者なんだ、ただのイストリアの兵士にはとても思えない、何せ、殺し屋に狙われるような輩だからな」

「見逃してもらえただけ運が良かったですよ親分、あいつらは多分、ここら辺のドブネズミみたいな実力じゃない、1番街付近の上澄みレベルのものだ」


首領は首に手を当てる。少しだけ切られ、血が垂れてるのか、手に血がつく。それを見ると、彼らの恐ろしさの片鱗を垣間見たような気がした。


ーーー


「おばぁちゃーん!」

「おお、よく無事で帰ってこられたね! 良かった! ありがとうございます! 息子を無事で返してくれて」

「いいですよ、これも仕事ですから」


子供が無事帰って来て喜ぶ親子に、神癒奈が優しく対応する中、永戸とフィアネリスは先程の会話を思い出していた。


「マスター、先ほどの会話」

「あぁ、俺と神癒奈の存在が裏路地の組織に伝わってる。……以前から懸念してたけど、表通りでは平和だが、裏路地では…」

「ええ、狙われる可能性がございますね、警戒せねばなりません、この都市の裏路地の脅威に…」


永戸とフィアネリスは思う。これから先、都市中の組織に狙われるのではないかと。今の四課の人を巻き込まないためにも、永戸達はこの事は内密にし、殺し屋に狙われないよう注意するのだった…。

今回の話はワールズストレンジャーでやった回の焼き直し回となりました

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