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ヒトとキツネの異世界黙示録Ⅱ  作者: 遊戯九尾
第一章 左遷される英雄達
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"大戦"を知る者

 ボランティアから帰ってきたら帰ってきた早々ランジーに怒られた。


「なり損ないと交戦した⁉︎ 本部の一課や四課に任せておけばいいものを! なぜ戦った!」

「被害が拡大する前に止めました。結果的に被害がゼロに収まったのでよかったと思ってます」

「よかったじゃない! 万が一死者が出たらどうするつもりだったんだ! なり損ないはそこら辺の敵とは訳が違うんだぞ!」


 ランジーが怒鳴り続けるが、永戸は顔色を変えずに対応を続ける。


「……俺達はなり損ない退治のプロです。新兵3人抱えてても、全員生還させてみせます」

「プロだと⁉︎ 自惚れてるんじゃねぇ! どっちにしろお前達3人は、新兵3人の命を危機に晒してるんだぞ!」

「分かってます。ですが戦ったのは彼らの意思であり、俺はその3人の思いを尊重したつもりです」

「3人に責任転嫁するつもりか⁉︎ それが本部の四課式か!」


 ランジーが永戸を怒鳴るが、ここでクレスが声を上げた。


「いえ、戦ったのは確かに俺達の意思です。俺達は、隊長達を助けるべく、戦闘に参加しました」

「俺達の意思って…お前ら……こいつらを庇うつもりなのか?」

「庇うつもりなどありません、俺は隊長の命令を遂行したまでです」


 クレスのその言葉にランジーは頭を抱えると、言った。


「もういい…お前たちは下がりなさい。神癒奈君も、下がっていい、だけど、隊長とフィアネリス君は残りなさい」

「はい」


 そうしてメンバーが下がっていくが、神癒奈は不思議に思った、自分たち3人ではなく、何故永戸とフィアネリスだけ残るのかを。神癒奈は部屋を出た後聞き耳を立てた。すると、こんな会話が聞こえてきた。


「……確か、お前達は大戦を生き残った兵士だと聞いている。アレほどまでの凄惨な大戦を経験して、それでも尚、お前達は戦うのか?」

「戦わなければ、誰かの幸せが奪われるのしたら、俺は戦います」

「私はマスターについていくのみです。マスターの意思が私の意思であり、マスターの存在が、私の戦う理由です」

「そうか…………俺も、大戦で徴兵されていた。地獄のようなあの大戦で、俺は何人もの人間を殺してきた。今でも思い出すくらいだ。酒でも飲まなきゃやってられねぇくらいによ」


 ランジーは弱々しい声で二人にそう言う。だが二人は同情せず、ただ立ち尽くすだけだった。


「お前達は404だったな…命をかけて、任務を遂行する特攻隊、そりゃあ命の価値も軽くなるか……」

「お言葉ですが、今の俺たちは決して命を軽んじてなどいません、仲間の命は最優先で考えてます」

「口ではどうとでも言える……俺は恐ろしいんだ。お前らの無茶で、新兵達が命を落とさないか」


 ランジーの言うことに二人は何も感じず、淡々と返した。


「誰も死なせません、俺たちがいるからには」

「そんな簡単な話じゃないだろ!」


 ランジーは再び怒るが、だが二人の動じない姿を見ると、再び意気消沈した。


「なぁ、なんでお前らは平気で戦えるんだ? 本部の連中だってそうだ、絶望だの機械の兵士だのと戦ってきて、なんでまだ平気で戦えるんだ?」

「……それが四課の使命だからです」

「四課の使命……お前らは歴史に名を残す事はないんだぞ、誰にも賞賛されないし、基本報われることのない戦いをする。それなのに戦うのか?」

「はい、戦います」


 それを聞いたランジーは諦めたようにふぅっとため息を吐くと、二人に言った。


「分かった…それがお前達の意思なら、俺もある程度は受け入れよう。だが、俺の下で無茶は許さんからな」

『了解』


 そうして二人は部屋から出ようとするが、神癒奈の気配に気づくと言った。


「盗み聞きとは感心しませんね」


 フィアネリスがひょいっと扉を開けると神癒奈が「わっ」と倒れてくる。


「お前、聞いていたのか⁉︎」

「え、えへへ…二人だけ残して何を会話してたのか気になりまして」

「……焔月の禁忌が、勝手に俺たちの話にでしゃばってくるんじゃねぇ!」


 禁忌と言った途端、永戸は殺意剥き出しでランジーを睨みつけた。禁忌とは、世界の脅威とされるもので、人々から忌み嫌われている。その言葉を使ったランジーを、永戸は許せなく思ったのだ。


「なんだよ……禁忌に禁忌って言っちゃ悪いのか!」

「彼女に謝ってください。同じ課を共にする仲間として、禁忌として見るというのなら、俺は貴方を許さない」


 そう言うと永戸はロングソードを抜く構えを取る。ランジーは驚くと手を前に出して落ち着くよう言った。


「分かった! 彼女を禁忌扱いした事を謝る! だからここで事を起こすな」

「……」


 永戸はため息をつくと、抜こうとした剣を鞘に納め、神癒奈に手を差し伸べる。


「帰ろう、また明日も仕事だ、長居してても疲れるだけだからな」

「はい」


 そうして永戸達は部屋から出て帰っていく。それをランジーは椅子に深々と座って息を吐きながら見た。


「彼らは何故……英雄と呼ばれてるんだ、危険な任務を平然とこなすからか? 禁忌ですらも味方に引き込むからか?」


 ランジーには理解できなかった。永戸達が何故英雄と呼ばれていたのか……。

 それ以上に、大戦時の過去が、彼を苦しめるのだった。


 ーーー


 翌日、いつものようにボランティアをしていると、フローから聞かれた。


「隊長殿、この前課長殿となんの話をしていたのですか?」

「んー? 昔の事だよ、イストリアがなかった頃の話」

「それって…大戦の話ですか? 文献で読んだことがあります。非人道的な戦いが繰り返されていたと」


 メルトは大戦について話す。大戦とは、かつて、多くの異世界を巻き込んだ異世界大戦と呼ばれたもので、その大戦によって、多くの異世界と人々が犠牲となり、戦争は長きにわたって続いた。生き残った者たちがもう二度とこのような戦争を起こさないようにとイストリアを創立、基本的に生存者はそこに属しているが、この前倒した英雄も、その異世界大戦の生き残りであった。


「えぇっ! 隊長殿は兎も角、フィアネリス殿も異世界大戦の生き残りだったのでありますか⁉︎」

「あぁ、まぁな、俺達が所属していたのは404 NOT FOUND隊、この四課の前身となった部隊だ」

「404…知らない名前だな、大戦についてはイストリアに入る際に座学で聞かされたが、そんな部隊があったなんて知らなかった」

「公式には存在していない部隊だったからな」


 永戸はそう言うと荷物を置いては背伸びをする。フィアネリスは空間転移を使ってホイホイと荷物を移動させていく。一方神癒奈は普通に荷物を運んでいた。


「そんな部隊に所属していた本物の英雄が今では辺境の地でボランティアとは、皮肉なこった」

「元々いた四課でもこのようなボランティアはございましたよ、ですが、この課の課長は戦いを、我々を酷く恐れています。だからこのような雑用しかさせないのかと思われます」

「お前らはそれでいいのか? 戦いのない毎日を送るのは、俺は、別に構わないけどよ」

「それが課長の命令なら従う。だが現場で悲しむ人がいるならば、俺たちはそれを止める」


 頑固な課長に頑固な隊長と来たなこれはとクレスはやれやれと首を振る。するとメルトがやってきた。


「この村の健康状態は安全…です……村人達全員が健康です」

「そか、この村に問題はなさそうだな」


 荷物も下ろし終わったしと四課のメンバーは装甲車に乗って帰る。夕焼けでのんびりとした風景が窓の外に広がっていた。


「隊長殿!」

「なんだ? フロー」

「また聞かせてもらえませんか⁉︎ 隊長達の戦いの日々を」

「…ああ、いいぞ、どこまで話したっけな」


 永戸がフローに話をする中、車内には穏やかな空気が流れていた。


「隊長さん、いい奴だよな、無鉄砲なとこはあるが」

「えぇ、でも彼は、いついかなる時も戦う事を選択してきました。どれ程絶望的な状況であっても、希望へ向かってまっすぐ突き進んで行った。私にとってマスターは、至高の存在なのです」

「そうか……きっとそれが、お前らを英雄たらしめる要素なのかもな」


 そうして装甲車は都市へと帰る。穏やかな空気をのせて……。

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