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ヒトとキツネの異世界黙示録Ⅱ  作者: 遊戯九尾
第一章 左遷される英雄達
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助けを求める声に応えるために

ランジー課長に怒られて以降、永戸達は本当に平和な仕事しか与えられなくなった。

ボランティアに続くボランティアで、彼らが戦うことは一つもなくなった。

そして、そんな今日も、ボランティアで戦争で壊れた村の復興に来ていた。


「そもそもこんな辺鄙なとこの部隊で戦いが起きるってのがおかしな話だったんだよ。これくらい平和なくらいがちょうどいい」

「……本当にそうか?」

「あぁ、戦闘技術なんて、俺らの四課には必要ない、死神部隊の称号なんて、本部の部隊だけで十分だ」


果たして本当にそうだろうかと永戸は思う。ここも同じ特査四課だ、必要とあらば戦闘が起きてもおかしくない部隊で、果たして本当に平和なくらいがちょうどいいのだろうかと永戸は思う。


「見てみろよ、神癒奈ちゃんとフィーネを、ちゃんとこの課に適応してるだろ?」


永戸は神癒奈達をみる。現地の子供達と遊んでいて、のどかな光景を見せていた。


「隊長さんも、肩肘張らずに、あんな風に戦う事を忘れたらいいんだよ。そうしたらきっと楽になるぞ」

「楽に…」


そう言うと永戸は装甲車の上に寝転がった。青空が綺麗だ。こんな空ならゆっくり休んでも雨が降る事なく問題はないだろう。


「そうだ、それでいい、隊長さんは気張り過ぎだ、そうやって休んでるくらいが丁度いい」


永戸はクレスにそう言われる中、目を閉じて眠り始める。クレスはそれを見てやっと隊長もこの課に馴染んでくれたかと思うとホッとしてボランティアの活動に戻った。

永戸は青空の下、装甲車の上で寝続ける。しばらく寝続けるが、するとその時だった、脳裏に嫌な感覚が走ったのは。


【キミは僕を継ぐ者だ…キミはいずれ、僕と同じように世界に絶望する】


ハッとなって永戸は目を覚ます。聞こえてきた声は、聞きたくもない憎たらしい声だった。


「……俺は、決して絶望しない」


永戸が頭を抱える。相当汗が出てたのか、かなり濡れていた。

永戸は装甲車を降りると、気晴らしにボランティアの器材を運んでいく。すると、クレスが村の村長と話していた。


「おっ、もういいのか? 昼寝は……大丈夫か? すごい汗だけど」

「問題ない、村の復興の器材はここに置いといていいか?」

「あぁ、置いといてくれ、あとは俺が話をつけとくよ」


そうして永戸は荷物を運び続け、やれる限りの仕事をこなした。復興の器材は全て運び終わり、暇な時間がやってくる。


「本当にやることがなくなったな……」


永戸は再び装甲車の上に横たわり、寝始める。今度見た夢は、今までの戦いの日々だった。

神癒奈と出会い、彼女を四課に誘い、都市での慌ただしい日々を送り、絶望という存在と戦い、機械の兵士達と戦い、しまいには地球にまで怪獣退治に行った。

思えば、忙しない日常だったなと永戸は思う。戦いの日々で、ずっと命をかけてきた。

それが今ではどうだ、大切だった武器が取られ、同じ四課でありながら天と地の差くらいある平和を謳歌し、やることもなくこうして昼寝をする日々、こんな事をしていて、かつての仲間達にはなんて言われるだろうと永戸は思っていた。

そう思っていた時だった。


「化け物だ! 化け物が出た!」

「っ!」


ハッとなった永戸は装甲車から飛び降り、普通のロングソードを手に取って声のした方へ向かう。


「何が起きたんですか?」

「向こうの森に化け物が出たんだ! 人のような、獣のような、そんな奴だった!」

「どうしたんですか⁉︎」

「それが…」


遅れてきた神癒奈に事情を話すと、2人は確信を持って言った。


「間違いない…」

「"なり損ない"…ですよね」


2人で納得してる中、遅れて4人もやってきた。フィアネリスは事情を話さなくても理解したようだったが、残る3人は何が起きたか全然わからずにいた。


「なり損ない? なんなんだよそりゃあ」

「知っておりますぞ! 人や獣が何かの影響を受けて変化した怪物のことを指すのだ!」

「つまり……これから戦うのは……元々人間だったモノってこと……? そんなのと戦うだなんて…」

「やるしかない、戦闘準備だ」


永戸はチャチなロングソードを背中に背負うと、現場に向かおうとする。それをクレスは止めた。


「おい! まさかお前! また命を賭ける気でいるんじゃないだろうな! あれだけ課長にどやされて、武器まで取られて、まだやる気だってのかよ⁉︎」

「あぁ、でなきゃ、この村の人に被害が出る」

「俺たちじゃなくてもいいだろ! 他の一課や四課に任せようぜ!」

「ダメだ……ここで仕留めておかなければ、村人に被害が出る」


そうして永戸はクレスの忠告を無視して行こうとする。だがそれを、クレスは彼の手を掴んで止めた。


「もうやめてくれ……普通の戦闘任務ならまだしも、こんな危険な任務、俺たちに務まる訳がねぇ、今からでも遅くない、本部の一課に連絡するんだ」

「……悪い、クレス、それはできない。助けを求める声がある以上、その声に応える。それが、四課の使命だから」


そう言い残すと永戸達3人は森の中へと入っていく。残った新兵3人はそれを見ては悩むのだった。


ーーー


森の中に入った永戸達、敵に警戒しながら進むも不自然と静かだった。


「静かだ……相手は、こちらの出方を待ってるのか」


そうしていると、白い影が目の前をよぎった。永戸達は武器を構えるが、白い影は四方八方を飛び回っては木の上で永戸達に姿を現す。それは、人の顔をした白い毛皮の猿の姿をしていた。

こんな魔物は見たことない。間違いなく相手はなり損ないだと永戸達は確信した。


「戦闘開始!」


永戸が飛び上がってはなり損ないを切り裂く下手なロングソードでも切り裂けるほど弱いなり損ないのようだが、なり損ないはすぐに体を再生させると永戸を爪で引っ掻いた。


「ちいっ!」


永戸は剣で防ぐが、空中にいたため、地面にはたき落とされる。そこへ向けてなり損ないが飛びかかるが、神癒奈が刀を前に突き出し、攻撃を防いだ。

そのまま返す刀で神癒奈はなり損ないを切るが、やはり再生され、身を引かれる。


「マスター! ご無事ですか⁉︎」

「なんとかな! くそっ! 白銀製の武器がナイフしかないぞ!」


なり損ないに対して効果があるのは、体能力者用の物質とされた白銀と呼ばれる特殊な物質と永戸の零の能力だけだった。永戸は零を発動させ、踏み込んで切る。すると今度はダメージが入り、なり損ないの身体に傷がつき、少し溶けた。


「行けます! このまま集中攻撃を!」


フィアネリスが突進し、ランスを突き刺し、なり損ないを木に縛り付ける。だが次の瞬間、なり損ないが暴走し、ランスを抜くと、フィアネリスに飛びかかった。


「っ!」


フィアネリスは大きな盾でそれを防ごうとするが、その前に飛んできたライフルの弾がなり損ないの頭部に命中し、なり損ないはよろけた。


「あぶねぇ……フィーネが襲われる前に止めれてよかった」

「クレス!」

「これは俺の性分じゃねぇ! けど! 突貫隊長がこんな無茶をやるってんなら俺だってついていってやる! だから頼む! 死ぬな!」

「当たり前だ!」


永戸は立ち上がると、やってきた新人3人に指示を出す。


「フロー! やつの近接戦闘は俺とタッグを組め! でも前に出しゃばるな!」

「了解であります! 隊長殿!」

「クレスは射撃で援護! 奴を怯ませるだけでいい!」

「了解!」

「メルトは術で俺たちのサポートを頼む!」

「わかりました…!」


こうして新生四課のメンバーが出揃い、動き出した。


「『ブースト!』『クロックアップ!』『メメントモリ!』」


複数の強化がかかり、永戸達の体が軽くなる。無詠唱で強化魔法を連続でかけられるあたり、流石は四課に入る素養があると永戸は思った。

そのまま、フローと共に、永戸はなり損ないを攻撃する。


「我が槍を喰らえ!」

「断つ!」


フローがスピアを突き刺し、永戸が剣で叩き切る。上手く同時攻撃が入ったのか、なり損ないの体に傷がつく。


「たぁあああっ!」


神癒奈が刀で連続で切り込み、なり損ないの存在を保つ源である核を露出させた。だが、なり損ないは神癒奈を狙おうと拳を振り上げる。


「させるか!」


その直後、クレスの射撃が飛んできた。ライフルが片腕を穿ち、なり損ないは怯む。最後の攻撃のチャンスが生まれた。


「獲った!」


永戸がなり損ないの目と鼻の先まで近づくと。これだけは唯一ランジーからとられなかった、白銀製のダガーをなり損ないの核に突き刺した。瞬間、パキッと核が割れ、なり損ないは姿を保てなくなり、その場から消えた。


「やった…のか?」

「や、やりましたぞ隊長殿! 我々は、かの邪悪な魔物を見事打ち滅ぼしたのです!」

「こわ…かったぁ…」

「よく頑張ったな、みんな」


気が抜ける新兵達を永戸が誉めるとクレスは言った。


「隊長さん達は前からこんな怪物と戦ってきてたのか?」

「そうだ、俺たちは、このなり損ないとの戦いをずっとしてきた。こいつらとの戦いに関してはプロも同然だ」

「プロって言っちゃってまぁ」


座り込んだクレスがふっと笑う。


「助けを求める声がある以上、その声に応える。か、それが、お前らにとっての信条なのか?」

「あぁ、それが、俺たち四課にとっての志だった」

「……わーったわーった。俺の負けだ。お前の心には感動したよ、隊長さん。俺たちは、あんたについていく。あんたがどんな無茶苦茶な判断を下しても、俺はそれに従うよ」

「私も! 隊長殿の指示に従いまする! 隊長のその強い精神を信じて! 私は戦います!」

「怖いけど……けど、隊長さんを信じてみる、隊長さんは、みんなに優しくて、強い人だから」


新兵3人がそういうと、永戸はボロボロになったロングソードをしまい、言った


「あぁ、よろしくな、みんな」


その日、イストリアミズガルズ第二支部特査四課のメンバー達の決意は、一つに固まったのだった

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