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ヒトとキツネの異世界黙示録Ⅱ  作者: 遊戯九尾
第一章 左遷される英雄達
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英雄殺しと呼ばれた男

 今日の依頼もボランティアだった。今回は炊き出しではなく物資の運搬、楽な仕事だとクレス達が思う中、永戸達は車の中で話をする


「それでそれで! 絶望を前にした隊長はどうしたのですか⁉︎」

「どうって言われてもな、絶対に倒す、その思いで奴との最後の戦いに挑んだな」


 フローレアに質問攻めに合う中、永戸はあははと苦笑いで対応する。


「素晴らしいです! どんな存在にも恐れず立ち向かうその精神! まさに英雄とも呼べる志!」

「英雄…か…」


 永戸はかつてあった大戦のことを思い出す。多くの異世界を巻き込んだ異世界大戦、その大戦で徴用されていた彼にとって、英雄という言葉は遠く思えた。そして、その言葉を遠く思う意味はもう一つあった……それは……。


「っと、そろそろ村に着くぞ、降車の準備だ」

「わかった」

「あっ、隊長殿! 車に戻ったらまた話を聞かせてください!」

「分かったよ、話せる範囲ならいくらでも話してやる」


 そうして車を降り、村人達に物資を届けようとするが、妙なことに気づく。


「…変だな、喪服の人が多すぎる」

「確かに、今日は慰霊祭か何かなのでしょうか?」

「少し、聞いてみるか」


 永戸達は道行く人達にどういうことか聞いてみた。すると、こんな答えが返ってきた。


「あそこの城を見てください。あそこの城の城主が、かつての大戦の英雄であって、かのものが村の法そのものであり、村に重税を敷いては物をとっていったのです。しかも、あの城には決闘と呼ばれる制度がありまして…」

「決闘?」

「決闘で勝利すればなんでも手に入れていいという制度を英雄が敷いたのですが、不思議な力でどうしても勝つ事ができず、こうして、村の若者から死者を出すばかりなのです…」


 永戸達は運ばれていく棺を見ていく。村としてはひっぱくしてるのか、英雄に挑んだ者は1人だけではないようで、何人分もの棺が運ばれていた。


「こんな事…許せません! 行きましょう! あの城に!」

「このような悪逆非道、天は許しても私は許せませぬ! 行きましょう! その英雄と呼ばれた者の城へ」

「おいおい、相手は大戦時の英雄と呼ばれた者だぞ⁉︎ いくら本部の3人が強いからって、争い事は避けるべきじゃないのか?」

「では貴方は、虐げられる人を見放すのですか?」


 神癒奈から真っ直ぐに見られ、クレスはぎょっとする。けどよ……とクレスは言った。


「相手は同じ英雄だぞ、こっちの方が数が多いとはいえ、勝てるかどうか…」

「大丈夫です。こと英雄に関しては、永戸さんが負ける見込みはありませんから」

「…はぁ?」


 どういう意味か理解できず、クレスがほうける中、神癒奈達はその英雄がいるとされる城へと向かったのだった。


 ーーー


 一方、城の内部では貴族の服装をした英雄が玉座に座り込んではふんぞり返っていた。


「この土地では、俺が法だ」


 窓から見える景色を見ては、くくくと笑う英雄。すると、謁見の間の扉が開かれた。


「たのもーう!」


 神癒奈が片足で謁見の間の扉を蹴破り、中に入ってきたのだ。それに驚いた英雄はビビりながらも言った。


「な、なんだお前達は⁉︎」

「イストリアの者です! この土地で行われている非道を正すため、貴方に会いにきました!」

「正す? 何をだ? この土地では、俺こそが法なんだぞ!」

「いいえ、貴方はこの土地を借りてるだけに過ぎない、この土地は皆の物です!」


 神癒奈が前へ一歩ずつ入り、兵達に槍を向けられるが、物怖じせずに声を出す。


「兵士! この者を処刑せよ!」

「触れるな!」


 神癒奈が叫んだ途端、ビリビリとした空気が辺りを走り、兵士達がその気に当てられては倒れる。その気には四課も当てられ、メルトは気絶しかけ、クレスは腰を抜かしそうになった。

 英雄もその空気に当てられたのか、一瞬眩むが、耐えると言った。


「な、なかなかの気じゃないか、それで、目的はなんだ?」

「この土地に敷いている重税を撤廃し、決闘という制度もやめてください」

「言ってくれるじゃないか、だが、この土地でそのような願いを言うということは、当然、分かっているだろうな? 私に決闘を挑むということだぞ」

「ええ、決闘、受けて立ちましょう、相手するのは、この人です」


 神癒奈が手を伸ばすと、その先には永戸がいた。はぁっとため息をつきながら、永戸は前に出る。


「九尾の狐ではなく、ただの男が、俺に挑むというのか?」

「…そうだ、お前の相手は俺だ」


 永戸は、背中から剣を抜くと、英雄に向けて掲げたのだった。それは、剣にしては煌びやかな装飾をしていて、美しくも力強い刀身を持っていた。


「…ほう、聖剣持ちか。久々に沸る戦いができそうだ」

「その余裕も、いつまで待つか、測ってやるよ」


 そうして永戸と英雄は決闘を行うことになった。


 ーーー


 決闘用の部屋にて、神癒奈達は永戸を見守る。


「お、おい! いくらなんでも同じ英雄同士やり合うだなんて、それに相手は不思議な力を持ってるんだろう? 隊長1人で大丈夫なのか⁉︎」

「大丈夫です。あの人のことは、私が一番信頼してますから」

「信頼って…負けたら死ぬんだぞ!」

「あの人に限って、それはない、あの人は、ここで倒れるほど、やわな人間じゃない」


 クレスが慌てる中フローレアは目をキラキラさせて永戸を見ていた。


「遂に、隊長殿の戦いをこの目で見られるのですね! 隊長殿! 負けないでください!」


 フローレアがそういうと、永戸は背中越しにサムズアップをして答えた。


「それで、勝利条件は?」

「どちらかが倒れるまで戦う。倒れたら勝負ありだ」

「分かった。そのルールでいこう」


 永戸は聖剣一本だけを構え、対する英雄も鎧を着込み、剣を構えた。


「紅いコートに聖剣…まさかな」


 英雄はふとあることを考えるが目の前の戦いに集中し直した。


『行くぞ!』


 互いに飛び出し、剣がぶつかり合う。最初は互いに拮抗していたが、互いに能力を発動させ合うと、永戸が押された。


「ほう、身体強化か、それも加速系の、直接的な戦闘能力が増さないし、負担が体に来るだろう」

「そういうお前は典型的な通常能力の身体強化か、パワーやスピードが増す分、強化には限界がある…!」


 互いに剣を弾き合うと、スピードで永戸が勝ち、永戸が英雄を切りつけた。


「やった!」


 フローレアが勝利を確信する。だが、英雄の体の傷はすぐに治っていった。


「テンプレートな回復能力持ちか⁉︎ そりゃ村の人も勝てない訳だ!」

「この世は能力を持つものが全てだ! 能力のない雑魚など、相手にならない!」


 英雄と永戸が斬り合いを続ける、両者持ち合わせている戦闘系の能力は同じ、しかし回復能力を向こうは持っている。次第に永戸は防戦一方へと追い込まれていった.


「ふっ! 所詮は下級の英雄だ、大戦で手柄を立てた私の敵ではない!」

「悪いな! 俺も同じ、大戦帰りなんだ!」


 剣が徐々に永戸に迫る。永戸はそれを弾き返していくが、遂に限界が生じ、ついに英雄が永戸を切ぅた。だが、その時、紅黒い稲妻が走り、永戸の存在が"ブレ"た。


「今の……何…⁉︎」

「永戸さんに宿っている能力は、何も身体強化だけじゃない、対能力者において特攻とも能力を持ってます」

「特攻?」

「えぇ、その名は"零"、彼が英雄を殺す者……"英雄殺し"と呼ばれる所以です」


 稲妻が走った途端、形勢が逆転し、永戸の斬撃の速度が先ほどよりはるかに増した。


「何……その力は⁉︎ やはりお前は……!」

「気づいたか? 俺の正体に?」


 互いに身を引いて睨み合う、英雄は息を荒げていたが、永戸は息を荒げず、落ち着いていた。


「聞いた事がある。大戦期に、血のような紅いコートを身に纏い、英雄達を殺して回ったとされる存在……"英雄殺し"! まさか、まさかお前が!」

「そうとも、俺はその辺の甘ったれた英雄とは訳が違う。生きて帰れると思うなよ」


 紅黒い稲妻の走る身体を見せつけ、永戸は剣を構える。


「うおおおおお! 隊長殿はかの有名な英雄殺しでありましたか! まさかその姿をこの目で見られるとは!」

「英雄……殺し……」

「マジかよ…英雄殺しと言えば、大戦中から続く大英雄の名だぞ」


 自分の部隊の隊長が、英雄殺しだったと知って、驚く新兵、だが神癒奈とフィアネリスはさも当たり前のように涼しい顔をしていた。


「対英雄において、あの人が負けることは絶対にない、あの人ならば、どんな相手にだって」

「確かに、英雄殺しの異名持ちともなれば負ける見込みは絶対ないわな…だが相手も大戦帰り、勝負は五分五分だぞ」

「その心配はございません、マスターの零は、その力すらも埋める力でありますので」


 どういうことだ? とクレスは対戦相手の英雄を見る。すると気づいた。彼から先程までの余裕がなくなっていることに。


「なんだ…身体が…重い」

「そんな重い鎧を着ているからだろ、いっそ脱いで戦えよ」

「違う! 身体に力が…入らない!」


 力の入らない身体に力にぜえぜえと息を吐き続ける英雄、その様子は、先程までの余裕っぷりとは全然違っていた。


「何が起きてるんだ⁉︎」

「あれが零の能力です。零の能力は、力の与えられた勇者や英雄に対して力を発揮し、強化されていた能力を抑え込む力があります」

「零の力によって、今の彼方の英雄様は、赤子も同然、簡単にねじ伏せられるでしょう」


 クレス達3人は2人の話を聞いてもう一度永戸達を見つめた。これなら勝てるかもしれないと。


「この土地では! 俺が法なんだぁああああ!」


 英雄が剣を振り上げて突っ込む中、永戸は神速の斬撃で英雄の胴体を切る。すると、相手が回復能力を発動させようとしてもしなかった。


「何故だ⁉︎ 何故回復しない⁉︎」

「諦めろ、回復の能力すらも今のお前にはない、今のお前は、ただの人間同然だ!」


 続けて二刀目が入る。英雄は口から血を吐き、兜の隙間から血を垂れ流すが、それでも倒れずに立っていた。


「まだ立ってるか、往生際の悪いやつだ」

「ま……待て! 勝負はここまでにしよう! お前達の勝ちでいい! 村への重税も、決闘という制度もなくす! だから勝負はここまでだ!」

「最初に言ったよな、どちらかが倒れるまで戦うと」

「言ったが! ここで終わりにしよう! 私の負けでいい!」


 英雄が命乞いをするが、だが永戸は英雄に近づき、剣を振り上げると言った。


「お前に挑んで、お前が殺してきた奴らも、同じことを言っただろう。だがお前に殺された、なら、相応の罰が必要だとは思わないか?」

「待ってくれ! 俺は弱い奴を狩ることはできても、強い奴を狩ることはできない! 後生だ! 許してくれ!」

「悪いが…許しはしない、死神の鎌は、振り下ろされなければならない」


 そう言って永戸は英雄に剣を振り下ろした。


「ひぃいいいいいっ!」


 だが、振り下ろされた聖剣は、英雄の頭を破ることなく…地面を砕いた。


「…気絶したか、こんな者、殺す価値もない、イストリアの兵士を呼ぶんだ、この者を逮捕する」

「は、はい!」

「おいおいおい…ほんとうにやっちまったぞ」

「これが英雄殺しの実力! 私! 感極まりました!」


 そうしてイストリアの兵士が呼ばれ、英雄が捕まる中、永戸達はしてやったような顔でそれを眺めていた。


「やりましたね、これで村の人たちの圧政もなくなります」

「イストリアからは、新しい領主をこの村に送ると通達が来ました、これで一件落着ですね

「そうだな、これで苦しむ人がいなくなる」


 永戸達3人は村を眺める。平和が訪れる村を見て高い城から眺める景色は、とても美しく見えたのだった。

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