新たな仲間とボランティア
第二支部四課に入って早速の仕事はいつもやってたボランティアの炊き出しだった。とは言っても、人員が少ない以上、本部でやってた時より忙しく、手を回すのも大変だった。
「流石は歴戦の猛者! ナイフ捌きもとても素晴らしいですね!」
「フロー、口はいいから手を動かせ、実働隊のこの少ない人数でなんとかこの量の料理を作り上げるんだ」
永戸達は大量に待つ難民がいる中、外郭で炊き出しを行っていた。
「ランジー課長も、なんで外郭で炊き出しなんてさせるかね、俺たちの身にもなって欲しいよ」
「あの課長さん、なんだかつかみどころのない方でしたね、本当に私たちにボランティアだけをやらせたいのでしょうか」
「わ、私としては…ボランティアだけの方が楽かなと…」
「皆様、マスターもいいました通り口の前に手を動かしてください。後がつかえてるんですよ」
お椀を持って並ぶ難民を見て、フィアネリスは焦る。本部にいた時は人数が多かった分分担できたからいいものの、第二支部に移ってからは忙しくて大変であった。救護兵のメルトが怪我人を診ていく中、残る5人は必死に料理を作る。
「大変です永戸さん! 配給のパンの量が足りません!」
「なんだって⁉︎ どう言うことだこれは!」
「第二支部にまともな物資補給がまだされるわけないよな、この大人数を賄うなんて無理だ」
「んなこと言ってる場合かクレス! スープとパンの量が均等に分けられないと暴動が起きるぞ!」
「そうは言ってもよ、今から第二支部に頼んで外郭までパンを運んでもらうのは無理だって」
無理なら無理でこっちだって策はあると永戸は米の袋を取り出した。
「それは! 備蓄用のお米だぞ! 勝手に使っちゃ課長にどやされてしまうぞ!」
「しったことか! 飢える奴全員に美味しいご飯を届ける、それが俺たちの四課式だ! パンがなければ米を食べればいいじゃないってマリーアントワネットも言ってた!」
「言ってない! そんな和食好きなマリーアントワネットが存在してたまるか!」
永戸は神癒奈と共に急いで米を炊き始める。クレスはその姿に驚きを隠せず、フローレアは永戸達を目をキラキラさせながら見つめる。
「全員に料理を行き渡らせるぞ! なにがなんでもだ!」
「凄い…これが英雄の貫禄…私感激いたしました!」
「あーあーもう知らねーからな、課長がなんて言うのやら」
こうして米を炊いた永戸達は、無事全員分に料理を行き渡らせる事ができた。
ーーー
なんとか料理を完遂し、片付けの作業を行う永戸達、そんな中で、神癒奈1人だけを聴き込みに出していた。
「この課で聴き込みなんかしたって、どうせ役には立たないよ、俺たちは新兵、あんた達と違って戦ったことはないんだからさ」
「それでも、今ここで生きる人たちの悩みを聞くのが、俺たちの仕事だ」
そういいながら永戸は炊き出しの残ったスープをメンバー全員に配る。
「…これは?」
「余ったから捨てるのが勿体無いだろう? 労りだと思って飲むんだ」
「ありがとう、しっかりしてるな、隊長さんは」
クレスがスープをいただく中、フローレアやメルトもスープをもらう。一方永戸達はスープを一気飲みすると、聴き込みに加わった。
「外郭の暮らしで何か困ったことは?」
「最近は魔物の動きも活発化してきてね、襲われないか日々ビクビクしてるんだ」
「そうか、わかった」
永戸が頷くと、次の人へと質問していく。
「物資の補給が滞ってて…食料もまともに得られなくなってきてる」
「外郭の警備隊の数が減りつつあるんだ、このまま減っていけば、魔物に襲われるかもしれない」
聞けば聞くほど問題だらけだった。永戸はそれら全てをメモすると、第二支部の方に連絡する。
「外郭警備の拡張と、物資の補充の密度をあげてほしい、できるな? できないじゃない、やるんだよ」
第二支部の方と揉めながらも、永戸はスムーズに住民達の願いを聞き届けていく。一つ一つ丁寧にやれる事をやって、そうして彼らは外郭の暮らしに影響を与えた。
「凄いな……英雄という肩書きがあるだけで、こうも人を動かせるのか」
「多分…違うと思う……あれは、人としての優しさと、彼らなりの行い、あれが、本部の四課なのだと思う…」
「アレが本部の四課の動き! 参考になります! アレほど手短に手早く住民達の声を聞き届け、第二支部から援護を要請するとは!」
本部の四課ねぇとクレスは頭に手を回し、彼らを見つめる。どうせここで頑張っても救われるのは外郭の一角で、俺達四課はそこまで影響を与えないのに…とクレスは思うが、だが、彼らの行動がどこか眩しく思えた。
ーーー
仕事を終えて、装甲車で帰り、第二支部の四課のオフィスに着く。着いた途端に聞こえてきたのは怒号だった。
「お前達! 備蓄の米を使って炊き出しを行ったそうだな! アレは本来災害用に保管するためのものだぞ!」
「パン一個まともに行き渡らないあの環境下で、不平等な炊き出しを行うことは俺たちなりの倫理に反したので、米を使ったまでです」
「オマケに炊き出しの後聴き込みをして第二支部に援護を要請したそうじゃないか! 我々の部隊はそこまでしなくていいんだ! ただ適当に炊き出しを行うだけでいい!」
ランジーが机を叩きながらそう怒鳴るが、だが永戸達は冷静に説いた。
「確かにここの流儀だとそれでいいのかもしれません。だけど俺たちは許せないんです、不平等な幸せと命の危機になる恐れが」
「外郭の人間など掃いて捨てるほどいる! パンが足りなかったって別に構わないんだ! 警備隊だって増やさなくてもいい! アレは都市に住まう事ができない者達なのだから」
「確かにその通りです。ですけど、だからと言って適当に仕事をして見捨てるというのは俺たちのプライドに反します」
「プライドだと⁉︎ お前達は"ここ"の四課の隊員だ! 命令権は俺にある! 向こうの四課とは訳が違うんだ!」
ランジーは酒瓶を倒しながら立ち上がり怒鳴った。だがそれでも、永戸は引かずに言った。
「それでも、俺はここの隊長です。現場指揮は俺にもあります、だから、今回の件は通してください」
それを聞いたランジーは永戸のまっすぐとした目を見る。それを見てはぁっとため息をつくと、椅子に座り、酒瓶を立て直して言った。
「今後とも無茶苦茶な要望を立てるようならお前を隊長から降格させても構わないんだぞ」
「その時はその時です。俺たちは俺たちのできる事をするまで」
「……わかった、お前のその無茶苦茶な要望をある程度は許そう。だが勘違いするな。ここはお前達のいたような四課じゃない」
「重々承知しています」
そうして永戸達は帰還後の資料のまとめ作業に入る。それを見たクレスは言った。
「なぁ、隊長さん、あんたの一体どこが、そんなに突き動かせる原動力になるんだ?」
「理不尽を許さない心…俺の、いや、俺達の甘ったれた根性からだよ」
「甘ったれた根性ね……この本部とは違うお気楽な四課でそれは優秀なこって」
クレスは甘ったれた根性と聞いて、永戸のことを意外と人間味のある人だと思った。
想像していたのは、もっと冷徹な人物だと思っていた。
だが、実際はそうではなく、人に寄り添う、温かな人に見えたのだった。
彼らのその姿は、第二支部の四課のメンバーにとって、まばゆい光のように思えたのだった……。