狐と鬼と、手を取り合うために
見事鬼の軍勢を退けた神癒奈達、だが、喜ぶには難しいだった。兵士達は痛手を受け、死傷者も出た、その事に対して神癒奈は祈りをすると、南雲に振り向く。
「先程の鬼達の復活…アレはなんだったのですか?」
神癒奈は南雲に問いかける。すると南雲は噂を話し始めた。
「最近…分派の鬼族に力を貸したものがいると聞いた、もしかすると、そいつの力なのかもしれない」
「殺したはずの鬼達が肉体を朽ちさせながらも、一体どこに復活させる力が」
「私にもわからない、だが、相手は強大なのかもしれない」
都に戻ると、宮の方で緊急の対策会議を立てる。今回は鬼達は撤退していったが、もう来ないとは限らない。今のうちにやれる事をやっておこうと、神癒奈は話を始める。
「これから先、南雲さん達はどうしますか? 鬼族の襲来の迎撃に協力してくれるならありがたいのですが」
「居場所をくれた礼だ、力になる。けど、貴方はまだ信頼しきれない。だから、これで、真意を確かめたい。
すると、南雲は自身の大剣に手をかける。それで神癒奈をまっすぐ見た。それを見た神癒奈は、息を呑んだ。
「私に、挑戦すると言うのですか?」
「私が仕えるに値するか、測らせてもらいたい」
南雲のまっすぐな覚悟を持った目つきを見て、神癒奈は目を閉じて息を整える。そして、少しすると、彼女は答えた。
「分かりました、庭に来てください、一騎打ちをしましょう」
「よいのか?」
「私を信頼したい、そう願ってるからこそ、勝負を挑んでるんです、その想いには、答えなければ」
神癒奈は立ち上がると大太刀を持って庭に出る。同時に南雲も庭に出ると、大剣を振りかざした。
「力だけが自慢の鬼族と思わないで、私は、強いから」
「なら私は、私の全力を持って、貴方を倒します」
神癒奈は大太刀"夜廻桜"を抜くと、南雲と向き合う。すぅっと息を吸うと、神癒奈は駆け出した。加速の力で強化された速度で南雲に刀を振る。
が、南雲はその刀を手で受け止めた。
「なっ⁉︎」
「これが鬼族の頭領の覚悟、貴方の刀は、その程度?」
血も滴らぬ手で、神癒奈の刀を南雲は握りしめると、彼女に向けて大剣を振り下ろした。
神癒奈は片腕に停止の力場を纏わせて受け止めるが、大剣のあまりの重さに力負けしかけてしまう。
だがそれでもと、神癒奈は加速の力を再び発動させ、大剣を弾き飛ばす。
「力強い…いや違う、自身の力を、能力で高めている? でもこちらも能力がないわけではない」
すると南雲は拳で殴りかかってきた。神癒奈はその拳を受け止めるが、その瞬間、力が抜けるような感覚に襲われた。
「何⁉︎ 力が、入らない!」
「これが酒呑童子の力、"酩酊"の能力。今貴方は酒に溺れたかのように力が出せなくなっている、当然、能力も十全にね」
神癒奈は気持ち悪い感覚に耐えながらもふらつく体を立て直そうとする。だが、南雲は隙を与えず彼女を蹴り飛ばした。
神癒奈は自身の手から刀が離れ、そのまま庭を転がる。そして倒れるが、神癒奈は力の入らない体を無理やり起こし、立ち上がると、次は両剣"舞桜"を出し、身構える。
「酩酊の状態でありながらまだ立てるなんて、流石は焔月の当主、でも、貴方の得意の刀は使わせない」
「刀がなくても、私にはこれがあります!」
神癒奈は舞桜を構えると、無理やり力を込めて駆け出し、南雲に振るう。だが南雲はその剣戟を全て片手で受け止め続ける。
「硬い!」
「鬼族頭領の力は攻めだけじゃない、守りだってある、舐めないで」
南雲が大剣を振りかざすと、神癒奈は後ろにバックステップする。その直後、神癒奈のいた場所を大剣が振り下ろされる。すると、神癒奈が下がった先まで地割れが起きた。
「なんて力…!」
「これが鬼族の本気、貴方もまだ本気を出せるよね、出してみせて」
光る角を見せながら、南雲は神癒奈に近づく。
「……まずいですぞ! このままでは神癒奈殿は⁉︎」
「いや、神癒奈が、この辺りで終わる奴じゃない」
「見ておれ、我が孫は、アレを打ち倒す姿を」
フローレアは負けるんじゃないかと慌てるが、永戸と玉藻前は落ち着いた様子で神癒奈を見守る。
二人は神癒奈を信じていた。
それは、未来を見通すフィアネリスでなくても、彼女の勝利は揺るがないと、確信を持って思っていた。
「まだ!」
神癒奈は駆け出すと、近寄ってきた南雲の大剣を宙返りで避ける。そのまま彼女の肩に手を当てると、術を唱えた。
『絶火!』
「ぐっ!」
南雲の肩に熱い熱線がまっすぐ通ると、彼女は火傷を負い、片腕が痺れる。その隙を逃さず、神癒奈は痺れた片腕の方にまわりこむと、舞桜を振り回した。
そこで斬撃が初めて通り、彼女に僅かに傷がつく。
「来て!」
神癒奈が手をかざすと、落ちていた夜廻桜が彼女の手元に戻り、舞桜をしまうと、焔月式抜刀術、零式を見せる。
不可避の斬撃が飛び、南雲は全身を切られるが、酩酊の効果か、傷は浅い、だが、それでも攻撃が通った事により、感覚を取り戻せてきたのか、酩酊の効果が覚めてきて、神癒奈の足取りは軽くなる。
「酔いが覚めてくるとは、なかなかやる」
「これでも、色々と訓練は積んできましたから!」
酔っている間でありながらも、刀の振りは正確で、寧ろ南雲に攻撃するチャンスを悟らせないように立ち回っていた。それを見て永戸はあるものを連想する。
「酔拳か」
「なんでしょう? それは?」
「地球にある映画に出てくる拳法だよ、酔っているように見せかけて撹乱しながら攻撃をするんだ、今の神癒奈は、酔拳、いや、酔剣をしている」
「かっかっか! 流石妾の子じゃ! 酔ってても戦えるとは!」
ふらつきながらも攻撃を叩き込んでいく神癒奈を見て、永戸と玉藻前は感心する。
だが、南雲の方も負けてないのか、刀の斬撃を大剣で防ぎながら、攻撃のチャンスを伺う。
「どんどん速くなっている!」
「私の戦う力は、焔月のみんなが命をかけて託してきた力! だから、負けられないんです!」
舞いながらも零式を何度も切り込み、南雲に傷をつけていくが、一瞬の隙をついて南雲は神癒奈の首を掴んだ。
「くぅっ!」
そのまま地面に叩きつけて、南雲は神癒奈を引きずる。力任せに押し付けられ、神癒奈は再び酩酊状態になるが、南雲の掴む手に触れると、再び術を唱えた。
『劫火!』
「つっ!」
溢れ出てきた焔に南雲は熱さで手を離し、神癒奈は刀を杖にしながら立ち上がる。酩酊で視界が定まらないが、だが、知ったことかと思うと、神癒奈は目を閉じて刀を鞘にしまい、構える。
「戦いの最中に目を閉じるだなんて! 勝利は貰った!」
南雲は勝利を確信し、大剣を構えながら神癒奈にまっすぐに突っ込んでくる。その時、永戸は悟った。
「勝ったな」
永戸がそう言った次の瞬間、神癒奈の刀が焔による点火で爆速で引き抜かれ、突っ込んできた南雲の横腹を横一閃で切りつけた。
「焔月式抜刀術、壱式改…『閃火』」
その一撃で勝負は決したのか、南雲は力尽きて地面に膝をつき、逆に神癒奈は刀をしまう。
「酒呑童子様! 酒呑童子様が…負けた⁉︎」
「流石神癒奈殿! 見事な勝利であります!」
勝負が決し、鬼達は驚き、フローレアは喜ぶ。
南雲に仕える鬼達が南雲に駆け寄る中、神癒奈は南雲に近寄ると、その傷を癒した。
「流石は…焔月の、当主…敵わないな」
「ちょっと危なかったですけどね」
神癒奈は南雲の治療をすると、彼女を縁側まで運ぶ、そして、彼女を膝枕させると、ゆっくり休ませた。
「……戦った相手に対して、こんな事をするなんて、変わってるね、貴方は」
「私なりの、敢闘賞です」
えへへと神癒奈は笑いながら南雲にそう語りかける。
「これだけ強いなら、私は、貴方に仕えても構わない、認めるよ、貴方の力を……」
南雲はふぅっとため息をつくと、そのままぐったりと休むようにする。それを見た神癒奈は微笑んだ。
「貴方はこれから私に仕えるのでしょう? 教えてください、貴方のことを、酒呑童子のことも」
「あぁ、教えよう。私と、彼女のことを」
そう言うと、南雲は、自身の過去のことを話し始めた。




