アオハルの終わりも唐突に
「ステラ・アードラの護衛、ご苦労であった、1日だけだが学園生活はどうだったかな?」
「珍しい体験ができました、私はこういった学習を受けてこなかったので」
「私は…もうちょっとここにいたかったです。この学園で学べる魔導力学に興味が湧きました」
神癒奈が学園長の言葉に忖度のない意見を言う中、名残惜しそうにするメルト、フローレアは上の空で「たのしかった〜」と答えていた。
「ステラさん以外の教室の生徒全員には記憶処理を施しておきました、私達という生徒はいなかったと」
「しかしよいのかね? ステラ嬢だけが真実を知っていて」
「これでいいんです、ステラさんが選んだことですから」
あの後、ステラが自らの名前を使って第二支部の四課と接触し、物資や資金の援助を行いたいと手紙を送ってきた。
ランジー課長はそれについて「政府の強力なバックが付くのがいいが…目立たないか?」と心配していたが、神癒奈達は快諾し、支援を受ける事となった。
当然ながらステラ嬢は四課という暗部を知る事となるが、それも彼女の覚悟の上だ、神癒奈達は止めはしなかった
「そうか、君達にとって、ステラ嬢にとって、とても良い経験をしたのだな、それならば良かった、これからどうするつもりかね?」
「先日、イーガスと呼ばれた生徒が危険な物質を所持していました、その事について、彼に直接問いただしたいです」
「よかろう、彼は今懲罰で生徒指導室にいる。行ってみるといい」
そういうわけで永戸達は生徒指導室に向かう。学校の中を素の姿で歩いてるせいか目立っていたが、学園長の友人という扱いで通してもらい、怪しまれずに済んだ。生徒指導室の前に立ち、扉を開ける、すると、そこではイーガスが椅子に縛り付けられて先生にガミガミと怒られていた。
「我が校の生徒でありながら、裏路地の傭兵と結託して、同じクラスの生徒を傷つけようとしていたとは不届きせんばん! 罰はしっかりと受けて…なんだ君達は?」
「イストリアの者です。彼に少し聞きたいことがあってここにきました」
「ふむ……本来であれば部外者の介入はさせないが、その表情…何やら不味いものでも見たかのようだな、いいだろう、話す時間をくれてやる」
「助かります」
永戸は生徒指導を受けるイーガスの前の椅子に反対向きに座り、背もたれに体を預けながらイーガスに問いかけた。
「イーガス、だったか。いい親に恵まれて良かったな、下手をすれば親子共々殺されてたぞ」
「…どうとでも言え、何の用できたんだ」
「俺たちの目的は、これの入手経路を聞きにきたんだ」
そうして取り出したEフォンに写っていたのは、イーガスが使用した魔想体のかけらだった。
「この物質は、存在するだけで世界を蝕み、人を化け物に変えるだけでなく、いずれは世界を滅ぼす物質なんだ、そんなものを、一般の生徒が、一体どこから手に入れたのか、俺達は知りたいんだ」
「この道具は…渡されたんだよ」
「どこのどいつに?」
「知らねぇよ、ただ分かることは、そいつは痩せてて、黒い燕尾服を着てて、仮面をつけて、シルクハットを被っていたことだ」
また随分とコテコテの怪しい奴だなと永戸は思う。永戸は質問を続けた。
「その時の事を思い出せるか?」
「それが…てんで思い出せねぇ、渡してきた相手がそいつだった程度だ」
「そうか……場所は分かるか?」
「裏路地だった事以外は…」
手がかりは相手の風貌だけか、と永戸は肩をすくめる。
実は魔想体そのものに関してだが、フィアネリスに解析をしてもらっていた。
だが、これがどのルートで流れてきたものなのか、どこで発生したものなのか、フィアネリスでも分からずじまいだった。
そんな物質の流れてきたルートを知ってるかもしれないとイーガスを頼ってみたが、分かったのは渡してきたやつがどんな奴だったかだけ、それも顔も名前もよく分からない存在と、ほとんど分からない情報しか知れなかった。
「そうか、質問に答えてくれてありがとう」
「あっ…あぁ」
永戸は立ち上がると、教室を後にする。教室から出ると、神癒奈達が待っていてくれていた。
「それで、何か手がかりはつかめましたか?」
「相手の風貌以外掴めなかった、正直調査は1ミリも進んだ気がしないな」
「そうですか……ひとまず、課長に報告しましょう! 役目も終えた事ですし」
「そうだな、帰るか」
そうして永戸達は学園から出て、第二支部へと帰ったのだった。
ーーー
第二支部に帰ると、そこにはステラが送り込んだものらしき謝礼金と、ほんの少しばかりの気持ちか、1番街の一等地で買える高級菓子があった。
「はい、任務お疲れさん、今回も無事に済んだな」
「ええ、何事もなく済んで良かったです」
永戸はランジーに報告すると高級菓子の一つを取ってはコーヒーを入れ、椅子に座ってはくつろぐ。神癒奈達も高級菓子を頂くと、椅子に座ってゆったりし始めた。すると、クレスが永戸に話しかける。
「しかし、魔想体なんてもの、よくもまぁ出てきたよな、隊長さん、あんたはどう考えてるんだ?」
「イーガスの話が本当なら、彼に魔想体を渡してきた存在がまだ魔想体を所持してる可能性が高い、そうなると、世界のピンチどころの話じゃなくなるぞ」
その辺の生徒のイーガスに魔想体をポンと渡せるという事は、相手は魔想体を複数所持している可能性が高い、もし所持しているならば、世界の破滅を同時に行う事だって可能だろう。
「おっかねぇ…あんな劇物を沢山所持してる奴がいるって考えてもゾッとするぜ、けど魔想体は、外部会社に委託をしてまで回収をしているほどの物なんだろ? そうそう出るものか?」
「分からない、少なくとも、そう易々と発生するようなものではないのは確かだ、だけど、それを利用して悪事に使おうとする輩がいるとは……一体誰なんだ?」
永戸はコーヒーを飲みながら、魔想体を利用している者が何者なのかを考える。裏路地で渡されたと言ってたが、いくら裏路地でもそんな劇物を渡せるような組織は普通ない。となると、相手のスケールは相当大きなものだろうと永戸は思った。
「魔想体ねぇ……まさかそんな物をウチの四課が取り扱う事になるとは、思いもよらなかったよ、ほんと、えーゆー様はご苦労なこって」
「まぁ、取り扱いが危険ではありますが、回収は俺らの仕事なので、もしまた出たならば回収を続けるまでです」
「しかし今回回収されたのは魔想体のかけら、アレの中では危険度は低いブツだ、さっきの話とそれを考えると、犯人は一つの魔想体を細かく分解して誰かに渡した、そう考えるのが無難じゃあねぇのか?」
成る程、確かにそれは普通に考えとしてありだと永戸は思った。このランジーの推理は個数も発生率も限られる魔想体で犯罪を起こすにうってつけの推理だった。
「確かに、それならばイーガスに魔想体が行くのも納得がいきます」
永戸はコーヒーを飲み干すと、菓子を食べ終え、今回のレポートを書く。ランジーの推理も書き留めながら、永戸は今回の事件について考えた。
(何故、一般生徒のイーガスに魔想体のかけらが渡された? 相手はこちらが来るのを読んでいた? だとしたら、侮れない相手になりそうだ)
静かな部屋の中、永戸は考えを巡らせながらも、レポートを書き留めて行ったのだった。
ーーー
その夜、裏路地のある場所にて……"ソレ"は降り立つ。
「やはり、"絶望"と"希望"の継承者が止めに入ったか、ククク、実験のつもりで魔想体をばらして渡してみたが予想通り、世界を蝕むなり損ないへと変貌したようだね、まぁ、世界を蝕むには少し心許ないケド」
ソレは、厳重に保管されたケースの中で淡く輝く魔想体のかけらを見ながら、そう呟いた。
「止めに入るのは想定済みだったけど、けどこうもあっさり釣れるとはね…計画通りに行けば、両方の力で世界を滅ぼす事だってできる」
どうやら目的は永戸と神癒奈の二人の力のようで、ソレはケースを握りしめると、不敵に笑った
「絶望の陽宮永戸、希望の焔月神癒奈……さぁ、私の手の上で踊っておくれよ、次なる災厄を起こすために」
楽しげに言うと、ソレは暗闇の中に消え、夜の闇の中に紛れて行ったのだった。




