晒される脅威
「何が起きてますの⁉︎」
「どうやら、前方で戦闘が起きているようです!」
永戸と神癒奈達がイーガス達と戦闘を行う中、ステラは身を乗り出して前方を見る。ミニガンの弾丸がバラバラと土の壁とシールドビットとフォースシールドに弾かれる中、見えたのは昼間食事を一緒にしたメルトの姿だった。
「大丈夫ですか?」
「えっえぇ…貴方達…ここに何故」
「貴方を守る為にここに来ました。今前では、神癒奈さん達が戦ってくれてます、できればステラさんは車から身を乗り出さず、車内で頭を下げていてください…」
言われた通りにステラは頭を下げて祈る。
(神癒奈さん……どうか私を守ってくださいまし!)
壁の前ではクレスが車両を盾にしながらミニガンを撃つ傭兵にライフルを撃ち込んでいく。だが、ライフル弾を受けてもびくともしないのか、傭兵はミニガンを今度はクレスに向けて撃ってきた。
「おっかねぇ! 周りの被害とか考えなしかよ! 相手は裏路地の傭兵だろうなこりゃあ!」
ミニガンで次々に穴だらけになっていく車両を見ながら、クレスは悪態をつく。
すると、ミニガンが撃たれなくなったのをチャンスと見たのか、フィアネリスが前に出て、機剣ホワイトレクイエムを構えると波動砲を撃った。
それはまっすぐミニガンを持つ傭兵を撃ち抜くと、体に風穴を開け、敵を倒す。
「助かった!」
「お礼はいりません、次、行きますよ!」
そうしてメルトが車を守る中、クレスとフィアネリスはそれぞれ他の敵へと走る。
「悪しきはくじく!」
フローレアはスピアを振るい、次々と敵を倒す。しかし数が多いのか、振るうスピアの速度も落ちてきて、疲労が見え始めていた。
「フロー! 援護する!」
「クレス殿! かたじけない!」
クレスが後方からライフルで敵の眉間を綺麗に撃ち抜いていく。フローレアはその間に息を整えると、再び槍を構え叫んだ。
「我こそはエルフ族の槍使い! フローレア・ランディスノート! 我が正義の槍に貫かれたい者はかかってこい!」
フローレアがそう叫びながら前へ突っ込んでいくと、敵の傭兵も武器を持って能力を行使しながら接近する。危険だと思った能力はクレスが遠距離から対処し、接近戦が可能ならば、フローレアが攻撃を仕掛けていく。そんな中、フローレアは叫ぶ。
『恐れろ!』
フローレアの仮想の能力が発動し、敵達の動きが恐れで一斉に止まる。その間に、フィアネリスが剣を横薙ぎに一閃し、傭兵達が倒される。
「後はマスター達のみ…!」
周囲の敵はあらかた片付け、余裕が生まれたフィアネリス達、永戸と神癒奈の方を向くが、そちらでは一方的な戦いが繰り広げられていた。
「くそっ! なんなんだお前らは!」
「言ったろ、死神だと」
本気の四課のエースを前に一般の生徒のイーガスなど敵ではなく、あっという間に鎮圧される。
「いてぇ…いてぇよ…! これがイストリアのすることかよ!」
「俺たちは法に縛られない特別な部隊だからな、たとえ女子供でも容赦はしないぞ」
そう言ってイーガスを連行しようとするも、ここでイーガスはポケットから何やらケースを取り出した。
「…? 一体何を…!」
「…っ! 神癒奈! そいつを触らせるな!」
言う頃には遅く、イーガスはケースから取り出した謎の結晶を握り潰していた。
「へ…へへ…裏ルートで手に入れておいて良かったぜ! これでお前らをボコボコにできる!」
「いったい何を使ったのですか!」
「あいつ、禁忌を使いやがった! 魔想体だ! その結晶を体に取り込んだんだ!」
魔想体…それは、イストリア四課が極秘裏に回収をしている物質で、存在そのものが世界に対しての脅威になるもので、人間が手にすればあっという間になり損ないに成り果ててしまうものだ。そのかけらを体に取り込んだとなると、危険度はかかり増す。
イーガスから暴風が溢れ、永戸達はそれに耐える。その暴風が止んだ後、永戸達が見ると、そこには、全身から目を生やし、禍々しい姿になったイーガスがそこに立っていた。
「体から力が溢れ出してくるぜ……テメェらなんざイチコロだ!」
「これよりなり損ないの鎮圧並びに魔想体の回収作業に入る。この作戦に命をかけろ! 行くぞ!」
イーガスが体中から光弾を飛ばしてくる中、永戸達は戦闘を再開する。あちこちに止まる車に光弾が当たって炎上する中、永戸達はそれらをかき分けイーガスに肉薄する。
「邪魔だぁ!」
「ぐっ!」
永戸のスピードに追いついたのか、イーガスが拳で永戸を殴り飛ばす。殴られた永戸は車のボンネットに叩きつけられ、そのまま転がっては車のガラスを割って中に叩き込まれる。
「永戸さん!」
「よそ見してる場合か? ええ⁉︎ 転校生!」
イーガスが今度は神癒奈に拳を振るおうとするが、神癒奈は陽炎で避けると、返しで両剣、舞桜を出し、焔月式両剣術、弐式で切り付ける。全身の目玉に剣戟が切り込まれるが、出血したかと思うと即座に再生し、再び光弾を撃ってきた。
「全然効いてませんよ!」
「いえ! 血が出るならば殺せます! 諦めないで! フローレアさん! 奴の動きを止められますか⁉︎」
「お安い御用! 『止まれ!』」
「ぐっ………こんのぉっ!」
フィアネリスの指示でフローレアは仮想の能力を使い、イーガスは一瞬動きを止めるが、振り払うように能力を弾くと、フローレアに向かってタックルをしてきた。
「鬱陶しい力を使いやがって! 潰してやる!」
「まさか仮想の能力が破られるとは! しかし、このフロー、ただの戦闘能力も負けておりませぬ!」
フローレアがスピアを振り回しながら飛び、タックルをかわしながら斬撃を入れると、すれ違いながら降り、そのまま背部をスピアで貫いた。そのスピアの先についていたのは白銀で、白銀の力がイーガスの身体を蝕む。
「力が…抜ける!」
「いいぞ! この調子で奴を叩け!」
第二支部が正式に特殊部隊になってから、フローレア達の武装は更新されており、白銀製の装備の使用許可が出た、クレスも白銀弾を装填したライフルを撃ち続け、目の部分を弾丸で貫く。
流石に白銀の弾となると耐えられないのか、イーガスの身体にある目は白銀弾を受けると潰れ、光弾を飛ばさなくなる。
「くそう! 訳のわからねぇものつかいやがって! これでも喰らえ!」
するとイーガスは地面に拳を打ちつけると、地面から光を溢れさせた。
「まずっ!」
「避けてください!」
地面から光の槍が溢れ出し、神癒奈たちは避けるも、辺り一面が光の槍で溢れ返り、動きづらくなる。そんな中、イーガスはまっすぐ突進してきて、神癒奈を掴んだ。
「んぐっ⁉︎ 離して!」
「テメェを握り潰せば、あのお嬢様の泣き顔が見れるってもんだ! 死ねぇええええっ!」
神癒奈が握りつぶされそうになった時だった、壊れた車から真っ赤な閃光が飛び出してきて、イーガスを切りつけた。
「んぐぁっ! 俺の力が!」
「違うな! お前の力じゃない、魔想体による仮初の力だ!」
永戸が聖剣で切りつけた際に零の能力でイーガスについた魔想体の力を封じ込め、神癒奈を手から離させた。
「永戸さん!」
「助けるのが遅れたな、神様」
落ちてきた神癒奈をキャッチすると、永戸は再びイーガスと向き合い、剣を構える。
「くそったれが! この、バケモノが!」
「どっちが! そんなものに手を出した時点でお前の方がバケモノなんだよ!」
永戸は聖剣を構えると、次の瞬間、存在がブレた。そして、気がつくと、イーガスは既に斬られていて、永戸はトンッと落ち着いた様子で立つ。
「ぐはぁっ⁉︎ いつのまに⁉︎ 一体どんな手品だ⁉︎」
「存在を別次元に移す事によって行動を別次元で行って既に終わらせた力さ!」
分かりやすく説明するが、イーガスには納得がいかなかった、こんな力、並大抵の魔法使いや英雄が使うものではない。持つとしたら人間を辞めた存在、そんな者がいるのかと思うと、ありえないと思った。
「ありえねぇ…テメェが本当に人間を辞めたバケモノだなんて、俺は信じねぇ!」
永戸に向かって拳が振るわれる。魔想体の力で強化された拳が永戸を襲うも、永戸は聖剣をガンブレードに納刀し、大剣にして受け止めた。
「これで終わりだ! 焔月式抜刀術、壱式・改!『バスタードブレイズ!』」
永戸が、見様見真似で覚えた焔月式抜刀術を使い、鞘にしたガンブレードのトリガーを引き、炸薬で聖剣を撃ち出すと、炎と光を纏った聖剣が打ち出され、イーガスの胴体を思いっきり切り裂いた。
「嘘…だろ…この力を使っても…勝てないだなんて」
イーガスから魔想体が抜け、そのまま彼は倒れる。永戸は魔想体を回収すると、専用のアイテムボックスに入れ、厳重に確保した。
「まさか魔想体が使われるだなんてな……みんな無事か?」
「なんとか……フローは無事です」
「ったく、ヒヤヒヤさせるぜ、座学で聞いてはいたがとんでもないな、その物質」
「ステラ嬢の方は」
永戸達はステラのいるリムジンに近づき、メルトと合流する。
「ステラに傷はついてないか?」
「大丈夫…です……傷はついてません」
土の壁の魔法を解き、永戸達の姿を見せると、ステラは驚いた、これほど若い戦士達が、目の前の惨事を処理しただなんてと。
「貴方方は、一体何者かしら?」
ステラは思わず聞く。すると永戸はこう答えた。
「都市のあらゆる犯罪を裏で止める、何でも屋ですよ、お嬢様」
「そう……この度は大変助かりましたわ。つきましては、この後晩餐会にでもきてもいいわよ?」
「とても魅力的な提案なのですが、お断りさせて頂きます、俺達は、存在を知られるわけにはいかないので」
そう言うと永戸達はその場を後にする。だが、神癒奈だけがその場に残った。
「確か、神癒奈さん、と言ったかしら? それが、貴方の本来の姿なのね」
「はい、この姿だと、色々と不都合がありましたからね」
神癒奈とステラは向き合う。政治家の娘と死神と呼ばれた特殊部隊の隊員は、初めて本当の姿で向き合った。
「それで、これから貴方達はどうするの?」
「もう貴方が襲われることはありません、私達は、仮初の学園生活から離れ、またいつもの日々に戻るまでです」
「そのいつもの日々が、先ほどの轟音が鳴り響く戦闘の事なの?」
「……はい、そうです」
神癒奈は嘘偽りなく答える。それを聞いたステラは驚き、世界の広さを実感した。神癒奈という少女が、仲間と共にあんな戦いに身を投じていただなんてと。
「……命をかけて、この都市を守っているのね」
「はい」
「……せめて、貴方に恩を返させてもらえないかしら、そうね…裏で資金援助でもさせて頂戴」
「そこは……課長と要相談ですね」
神癒奈はあははと笑うと振り返っては帰ろうとする。
「それじゃあ、さようなら」
「さようなら、貴方と出会えた事、忘れませんわ」
そうして神癒奈は永戸達を追って帰って行った。それを見届けたステラは言う。
「この腐り果てた都市にも、一筋の希望というのは存在するのね、決めたわ、私は彼らを支援する、個人的にでも構わないわ」
その言葉が、後にランジー課長に届き、彼が驚いたのは言うまでもない。




