悪役令嬢であったとしても
体育の時間、生徒達がバレーボールをする中、神癒奈は茂みのある壁際に寄り、誰にも気取られず一人永戸と連絡を取る。
「ステラさんの態度ってば酷いんですよ! 私を助ける気かと思ったら貶して…!」
「あぁ、教室の盗聴器の録音を聞いた。厄介な令嬢の護衛についたな…」
茂みの剪定をしながらも永戸は神癒奈と話をする。
「俗に言う悪役令嬢って奴だな、ステラ嬢は」
「悪役令嬢?」
「尊大な態度や陰湿な口ぶりや行動でヒロインの邪魔をするタイプの令嬢をそう言うんだよ、分かりやすく例えば…そうだな、シンデレラの姉や母がそんな所か」
永戸は茂みからバレないようにステラを覗き込む。今彼女はバレーで見事なシュートをしていた。
「だが彼女の成績は優秀だ。テストは毎回満点、運動神経も抜群で性格が悪いところ以外欠点が一つもない、性格が悪いところ以外は」
大事なことなので2度言うぞ、と永戸はそう呟きつつ、剪定を終え、落ちた草や枝を袋に詰めていく。
「そうなるとどうやって接点を持てと言うのですか、相手は私を見下してくるんですよ?」
「そこは、お前の人当たりの良さでなんとかするんだよ」
「よく言いますよ……そう簡単に仲良くなれたら苦労しないです」
はぁーっとため息をつきながら神癒奈はステラの方を見る。あそこまで見下されたんだ、近くにいての護衛など不可能に近いだろう。
とすると、一歩身を引いた位置からの護衛となる。これでは即座に対応ができない。
「厳しい条件ですね」
「何かある時はフィーネが情報をくれる。それを聞いて随時対応してくれ」
そう言うと永戸は落ち葉を集め終わり、次の仕事場へと向かった。神癒奈はそれを見送ると、フィアネリスと連絡を取る。
「フィアネリスさん、そちらの方はどうなってますか?」
『問題はありませんね、直近の出来事にも問題はなさげで平和すぎてあくびが出てしまいそうです」
「運動場は開けてますけど彼女が攻撃される可能性はあるのでしょうか?」
「外部からは不可能ですね、不可視ですがバリアが貼られてます。ですが…内部からならばいくらでも犯行は可能です。この学園に入らなければ襲うことは不可能でしょう」
成る程、と神癒奈は思う。狙撃の心配がないのは安心すべきか、と思った。
そうしているうちにバレーの授業も終わり、休み時間がやってくる。神癒奈達は教室に戻ろうとするが、ここで、フィアネリスが先ほど言っていた言葉を思い返す。
【ですが…内部からならばいくらでも犯行は可能です】
その言葉を思い返していると、学園の関係者らしき事務員の執事が正面から歩いてくる。ステラの方をじっと見つめてはドスの効いた目つきで腰からカッターナイフを取り出す。そうしてステラに走り出そうとした時、神癒奈はフィアネリスに連絡を飛ばした。
「接触!」
「不意に現れましたね! ですが! 私の目が黒いうちは。そうはさせませんよ!」
生徒達に勘付かれないように瞬間移動で現れると、カッターを持つ手を掴み、近くにあった用務員室に連れ込む。流石全知、敵の行動は手に取るようにわかるのか速やかに無力化した。
【あとはこちらでやっておきますので、神癒奈さんは護衛の継続を】
「はい!」
神癒奈は体操服から着替えるためにロッカールームへ向かうが、フィアネリスは用務員室で捕まえた執事を縛り上げる。
「さて、洗いざらい吐き出してもらいましょうか、言っておきますが国際法は通じませんよ、私達なりの拷問法を取らせてもらうので」
そう言うとフィアネリスは先程執事が持っていたカッターナイフを指と指の間に突き刺す。それを見た執事は震えた。
「絶対に言うものか! 言ったら殺される!」
「言わなくても死にますよ? さぁどうしますか? ここでこのナイフで指の先から切り落とされていくのがいいか、吐いてイストリアの庇護下に置かれて捕まるか」
フィアネリスがカッターを相手の左小指に近づけると、相手は吐き出した。
「都市の議会議員に頼まれたんだ! 名前までは知らない! だが裏の仕事でステラを殺せとまでは言われた!」
「知ってる情報はそれだけですか? 本当にそれだけなら拍子抜けですが」
「は、ははは! この依頼を受けている傭兵は他にもいる! 執事だけじゃない! 生徒側にも紛れ込んでいる! 今頃別の奴がステラを殺しに行ってるはずだ!」
「…何?」
それを聞いたフィアネリスは生徒全体を走査する。すると、一名、先ほどまで学園にいなかった生徒が紛れ込んでいるのが確認できた。
「不味い! 神癒奈さん!」
ーーー
一方、こちらはロッカールーム。女子生徒達が着替える中、神癒奈も体操服から普通の学生服へと着替えていく途中だった。すると、フィアネリスからこんな情報が伝えられる。
【神癒奈さん! 生徒の中に偽の生徒が紛れ込んでます! その方はステラ嬢の命を今も狙ってます! 警戒を怠らないでください!】
「…なんですと?」
着替えの途中の神癒奈は、下着姿で周囲を見渡す。すると、ステラの近くに彫刻刀を持った生徒がいるのが見えた。
「させない!」
神癒奈は彫刻刀を持った生徒がステラに振りかぶったのを見て、即座に行動を起こす。制服を投げつけて相手の視界を奪うと、ステラをこちら側に引き寄せた。
「何、何が起きてますの⁉︎」
「見て! あの生徒! 刃物を持ってる!」
「嫌! あんなものを持って、何をされるか分からないわ!」
生徒達が壁に張り付き、震え上がる中、彫刻刀を持った生徒は顔にかけられた神癒奈の着替えを取ると、彫刻刀を構えた。
「ステラ・アードラをこちらに渡しなさい」
「断ります!」
「そう、なら、周りの生徒らを傷つける事だって辞さないわよ」
向こうもやる気なのか、彫刻刀を生徒の一人に向ける。向けられた生徒は「ひっ…」と小さく悲鳴を上げると首を横に振る。
「す、ステラなんてさっさと渡してしまいなさいよぉ!」
「そうよ! いつも意地悪ばかりして! ここでこの女に殺されるくらいならステラが死んだ方がいいわ!」
「貴方達⁉︎ 一体何を⁉︎」
生徒からの罵声に、ステラは驚愕を隠せない。今ステラに向けられているのは強い復讐心、普段からなじり倒してきたツケか、今この場にステラの味方はいなかった。
「皆から嫌われ者ね、そこの子も、ステラにいじめられてるのでしょう? ほら、ステラを渡しなさいよ、楽に復讐させてやるから」
「嫌…嫌…」
殺しにきた生徒がそんな甘い声で神癒奈を誘う。ステラは震えながら懇願する。
正直ステラは救えない悪役令嬢かもしれない。
だが、それはそれ、元々外部の者である神癒奈にとっては関係なく、渡す理由などなかった。
「確かに、この方は他の方に悪いことをしてきたのかもしれません、でも、それでも殺す理由にはなりません!」
「そう、じゃあまずはこの生徒から順番に殺していくから!」
殺し屋の生徒が彫刻刀を振り上げた途端、チャンスは来たと神癒奈は思い、ステラを持つ手とは反対の手で銃の形を指で作ると、呪文を唱えた。
『絶火!』
焔の弾丸が放たれ、振り上げられた彫刻刀がじわりと解ける。武器を失った殺し屋は一瞬驚き、その隙に神癒奈はステラから手を離すと殺し屋を抑え込み、羽交締めにしては殴って気絶させる。一連の行動を見ていた生徒達は恐怖に震えていたが、神癒奈が記憶処理装置を取り出すと、一人ひとり記憶を消していった。
「ここで起きたことは忘れてください。ただの生徒の喧嘩だと思って、授業に戻ってください」
そう神癒奈が言うと、記憶処理をされた生徒達は「そうね…」と言いながら着替えては去っていく。神癒奈と着替えをとっては服を変えステラに振り向いた。
「これは一体…どういうことですの?」
「……」
神癒奈はここでステラも記憶処理を施そうか悩んだ。だがこの装置にもリスクはある。ふとしたことで思い出して心理的に傷を負うということがあるのだ。
神癒奈が迷っていると、ステラはこう言い出した。
「真実を言いなさい、どれほど恐るべき真実でも、私は信じますわ」
その言葉で、神癒奈の迷いは吹っ切れた。決して隠れてステラを守れとまでは言われてない。よって、真実を話すことにした。
「私の命が、狙われている? お父様が議会で動いているから?」
「はい、貴方のお父さんが議会から降りないと、貴方を殺すとそう予告されてるんです。私たちは、それから身を守るために派遣されてきました」
深刻な話をしているが、ステラは落ち着いている。このような経験は何度もあったのだろうか?
「そうですの……それは非礼を詫びなければなりませんわね、貴方は私を守ろうとしてくれたのですから」
するとステラは頭を下げ、神癒奈に謝った。神癒奈は一瞬おどけるが、兎に角、と言っては話を戻す。
「あなたの安全が保証されるまで、学園内では我々が貴方を守ります。またいつ襲われるかわかりませんので」
「かたじけませんわ、では、以後ボディガードをよろしくお願いしますわね」
話が決まり、二人はロッカールームから出る、反対にフィアネリスがロッカールームに入り、殺し屋を捕まえるとそのまま用務員室まで連れて行った。
「あれも貴方の仲間ですの?」
「ええまぁ、頼れる味方です」
二人は授業に戻っていく。フィアネリスに後処理を任せては普段通りの日常を送るようにと…。




