災禍の後片付け
魔神との戦いを終え、永戸と神癒奈達は王都の復興作業を四課のメンバーとともにする事になった。
「ったくよ、隊長さんと神癒奈ちゃんには感服させられるぜ、けど、もう無理は懲り懲りだ」
「残念だがこれから先、こんな任務がわんさか来るぞ。人に言えないような仕事がな」
「おっかねぇ……けど、今回みたいに、全員で生きて帰るんだろ?」
「そうだ、それが課長からの命令だからな」
瓦礫を撤去し、生存者を探しながら、永戸達は会話する。一方、神癒奈はメルトと一緒に怪我人の治療をしていた。
「これで怪我は大丈夫ですよ、ただ、暫くは無理に動かないでくださいね」
「ありがとうございます…助けていただき」
「いえいえ、メルトさん、そちらの様子はどうですか?」
「薬品が足りない……私の治癒魔法で治してるけど、魔力も足りるかどうか」
昨晩の戦闘の怪我人は大勢出ていた。イストリアの事後処理の部隊を動員して救出作業が行われていたが、激しい戦闘に晒されたせいか、重傷の者が多数いた。それらを一人一人神癒奈達は治して行く。
「一時的に魔力のパスを繋ぎます、それで怪我人の治癒をお願いします」
「わかり、ました…」
神癒奈がメルトに魔力のパスを繋ぎ、治癒魔法を連続でかけていく。
そうしている中、復興作業にあたっていたフローレアは王都の惨状を見て思うところがあったのか、立ち止まる。
「この街の平和が…あの魔神のせいで一瞬に……フローは……こんなものと戦わねばならないのですか?」
昨日自身に向けられた目線、アレを思い出すと、震えが止まらなかった。死と対面したのと同じ、そうフローレアは思った。
「フロー、手が止まってるぞ、復興作業を手伝うんだ」
「隊長殿……フローは、怖いです。世界を救うと決めて四課に入ったのに、あのような敵と遭遇して、恐怖がおさまりませぬ…!」
「……フロー」
すると永戸は復興の荷物を片手に、フローレアの頭を撫でた。フローレアは突然頭を撫でられ、驚いた様子で永戸を見る。
「隊長…殿?」
「怖い気持ちは痛いほどわかる。俺だって、あんなのと相対して怖がらない訳がない」
「隊長殿も、怖いのですか?」
「あぁ、怖い。一歩間違えれば自分なんて紙切れ同然にぐしゃぐしゃにされるような存在だ」
永戸は恐怖を隠さず、フローレアに話す。だが、けれどとここで彼は付け加えた。
「けど、俺達が止めなければ、世界は終わっていた。だから戦うしかなかったんだ。どれだけ恐ろしい存在でも、俺達は世界の命運を背負っている以上、戦うしかないんだって、フローは、まだ、あんなのと戦うのが怖いか?」
「えぇ、えぇ! フローは怖く思います!」
「なら、その恐怖を大事に抱え、そして乗り越えろ、英雄を目指したいのであれば、越えなければならない壁だ」
「はい…! その言葉、胸にして励みます…!」
そうすると、フローレアは復興作業へと戻っていく。そんな彼女の背中を見て、永戸は同じく思うところがあるのか、少しフローレアを見守ると、荷物を運びおえる。そんな時だった。
「……見事にやってくれたな、四課の死神」
「ランジー課長」
ランジーが珍しく現場に来ていた。王都の惨状を見ては険しい顔をすると、永戸に近づく。
「お前は…ちゃんとやり遂げたのだな、全員生還させて、任務をやり遂げたのだな、この過酷な任務を」
「命令でしたから、それに、俺としても、誰も欠ける事なく、終わらせたかった」
「今回の件で気付かされた。お前達は、本物の英雄だ、魔神を相手に一歩も引かずに、誰一人欠ける事なく戦い抜いた」
ランジーは永戸に手を伸ばす。永戸はそれを見つめると、その手を取って握手をする。それは、永戸達を改めて第二支部の四課のメンバーとして認める意味を込めての握手だった。
「お前達の覚悟を甘く見ていた、同時に、お前達の実力も甘く見ていた。これまでお前達にしてきたことを謝る」
「よしてくださいよ、あなたは俺たちの課長なんですから」
永戸はそう言うが、ランジーはでもと言った。
「でも、こんな無茶苦茶な作戦をやり遂げてきたのは事実だ。新人達はまだためらいを感じるかもしれないが、だがお前達がいれば部隊を任せられる。これからは、お前達を信じる。必ず、生きて帰ってくると、危険な依頼も回そう」
「……勝手にしてください、これまで俺たちに冷たく接してきたかのように」
永戸はふっと笑うと、ランジーも申し訳なさそうにはははと笑った。
すると、意外な人物が永戸達の前に現れる。
「久しいね、永戸君」
「ユリウス課長…お元気でしたか?」
「うむ、君たちがいなくなってからも仕事は変わらずだったが元気ではあったよ、そっちも、元気にやってるようだね」
「ええ、お陰様で、大変なことはたくさんありましたけど、三人とも、いつも通り仕事をこなしています」
そう言ってると、瓦礫の撤去作業を手伝っていたフィアネリスも現れる。
「おや、ユリウス課長、久々ですね、その様子だと、そちらは大事がなさそうで何よりです」
「フィアネリス君も元気そうで、ほっとしてるよ、神癒奈君も……うむうむ、元気そうだね」
遠くで怪我人を見ている神癒奈を見て、ユリウスは満足そうにする。
永戸とフィアネリスはユリウスと久々に会い、楽しげに会話する。
「新参者を連れてながらも、早速世界を救ってくれたようだね、感心感心」
「割とピンチに追い込まれましたけどね、神癒奈と二人でなんとかしました」
「相変わらず、英雄道を歩んでいるようで何よりだ」
「ところで、今の四課の隊長は誰がやっているんですか?」
「ケイ君がやってくれてるよ、あのメンバーの中で一番信頼できる者だからね」
ケイ、それは、永戸の友人で憧れの人でもあった人だ。永戸の持つ聖剣イクセリオスの原典の元の持ち主で、勇者の力を持っている。そんな彼が第一支部のリーダーかと永戸は思うとふふっと笑った。
「あいつらしいポジションですね」
「あぁ、君達がいなくなってから四課で隊長を務められるのは彼ぐらいだったからね、立派に隊を率いてくれてるよ」
「それなら、ほっとしました」
永戸はユリウスの言葉で今の第一支部は安心だと確信すると、フィアネリスに茶の席を用意させる。
「ふぅ、復興の現場で飲む紅茶は少々苦いものだね、ランジー君も座りたまえ」
「は、はい……」
どうやらランジー課長とユリウス課長には知り合いと言えど上下関係があるらしい。優雅に茶を飲むユリウスに対してランジーはおどおどした様子で茶を飲んでいた。ランジー課長達と別れを告げると、永戸とフィアネリスは二人で歩く。
「これで、ようやく俺たちも四課らしい仕事ができるな」
「ええ、我々の本領がようやく発揮できると言うものです」
「課長は誰も死なせるなと言ってたが……」
「貴方に限って誰かを死なせるような真似は許さないでしょう?」
「そうだな、せっかくできた新しい後輩なんだ、みんなで六人で頑張って、四課としての使命を果たすまでだ」
そう言っては永戸とフィアネリスは笑い合う。すると神癒奈が小走りで近づいてきた。
「永戸さん、フィアネリスさん! こっち手伝ってください! 怪我人の治療の手が足りなくて!」
「分かった! 貨物から回復用のポーション取ってくるから待っててくれ」
こうして、世界の破滅は回避され、永戸達第二支部四課は、死神部隊としての第一歩を踏み始めたのだった。




