四課としての使命Ⅱ
無事儀式の生贄に選ばれ、まずは第一フェイズを越えたなと永戸達は思う。神癒奈は今頃儀礼用の衣装に着替えさせられて儀式への準備に入っているだろうと永戸達は思う。
ここで、永戸はクレスに聞く。
「課長との連絡はどうなってるんだ?」
「それが、繋がらねぇんだよ、昼間っから連絡を試しているんだが、圏外でもないはずなのに繋がらないんだ」
「頼むから繋がってくれよ……俺たちの武器が使えるか使えないかで戦力の差が大きく開くからな…」
永戸は願い続ける。ここで課長と繋がって交渉が成立しないと、最悪魔神が出た時に止められない危険性がある。永戸は通信がつながる事を願った。
ーーー
一方、イストリアミズガルズ第二支部では、怒声が飛び交っていた。
「あいつらぁ! また俺の命令を無視して任務に行きやがったなぁ! しかも今度は大型任務だぞ! 死ににいくようなもんだ!」
「あわわわわわ!」
酒のグラスを叩き割り、ランジーは怒りを露わにする。
「か、かかかか課長! クレスさんから電話が来てます!」
「ほっとけ! あんな奴らはもう救いようがない! 死んだほうがマシだ!」
「本当に、そう思ってるのかね?」
ランジーがある1人の男の声を聞いてギョッとすると、振り返る。そこには白髪の少し老いた男が立っていた。
「ユ、ユリウスさん! このようなお姿を見せてしまい、申し訳なく思います!」
その男の名はユリウス・グリフ・レーゲン、永戸達が元々所属していた第一支部の四課の課長であり、彼らの直属の上司であったものだ。
「久しぶりだね、ランジー君、その様子だと、かなり元気なように見えるけど
「はい! ですが、部下がバカを起こして、勝手に出撃していって…今頭を悩ませてたところです」
「ふむ…永戸君や神癒奈君らは直情的なところがあるからね、かれらを制するのは難しかろう」
「はい! 本当に手の焼ける奴らで! 命知らずで、どうしようもない馬鹿ばかりです!」
そうランジーはいうが、ユリウスは笑顔のまま近づくと、ランジーにこう言った。
「君はまだ恐れているのかね、大戦期のあの凄惨な戦いのことを」
「それは…忘れるわけがありません! あんな大戦が起こり、多くの世界が滅んだ! 俺の故郷だって…」
「なら、何故君は永戸君らに力を貸さないのかね? 彼らは世界を救う為に今も必死に戦っているのだよ?」
「何故って! こんな馬鹿げた依頼をたった七人で解決なんてとても出来るわけがない! ましてや彼らは命を軽んじすぎる! もう目の前で命を失うのは…」
「ごめん被りたい、そう言いたいのだろうけど、我ら"四課の使命"を忘れたわけではあるまい」
ハッとしてランジーは四課の使命を思い出す。たとえ犠牲が出ようとも、四課はあらゆる手段を持ってして世界の危機に立ち向かう部隊だ。その使命をランジーは思い出すが、だが認められずにいた。
「もう、人が死ぬのには嫌になったんです! 私の命令一つで死ににいけと言うのは……!」
「……だが、やらねば世界は救われないよ、それどころか、戦火がどんどん広がり、いずれは他の世界すらも滅ぼす。そうならない為に四課は存在するんだ」
「それでも、狂ってます…世界を救うためとは言え、少数の命をかけなければならないのですから」
「そうだね、狂っている。だが、誰かがやらなければならないんだ」
ユリウスは近くの椅子に座ると、ランジーにこう言った。
「私も、永戸君にその事を教えられたことがあったよ、どれほどの絶望が待っていようとも、四課は持てる全ての力を持って戦い、世界を救わねばならないのだと、彼らは確かに馬鹿かもしれない、だが彼らは優秀な隊員だ。世界を救う術を、幾つも持っている。それは、彼らの元課長であった私が保証する」
「ユリウスさん…」
「私との会話で、何か思うところがあるのならば、彼らをもっと自由に活動させてみてはどうかね、聞いてるよ、彼らの武器を奪い、最近ずっとボランティアの活動しかさせてないと、これでは四課の面目が丸潰れだ」
ランジーは考える、ユリウスの言う通り、彼らの束縛を解除すべきかと。だが、解除すれば彼らはきっと思うがままに動き回り、チームを危機に晒すだろう。ランジーはそこに悩んだ。
「信じるんだ、永戸君達を、彼らは、君が思うほど馬鹿ではない、そして新兵の子らも信じてあげるんだ、この四課に選ばれた、優秀な隊員だと」
ランジーはその事を聞くと、ゆっくりと頷いた。それを見てにっこりと笑ったユリウスは椅子に座ったままふぅっと息を吐くと、メルトに言った。
「ところで、茶を用意してはくれないかね、私は午後のアフターヌーンティーは欠かさないものでね、ないと落ち着かないのだよ」
「はいぃ!」
インスタントとは言え、メルトはお茶を出しに行った。
ーーー
儀式の時間が近づく中、永戸達は広場の近くの路地裏から儀式の様子を見る。広場には人が集まり始め、儀式用の衣装に着替えた神癒奈が立っていた。
「まずい……時間がもうないぞ、まだ繋がらないのか?」
「つながると思ってるんだけど、あの課長のことだから絶対怒って放置してるって……繋がった!」
Eフォンが繋がり、ランジーと連絡を取るクレス。
「課長! 俺です! クレスです! 隊長達の武器の使用の許可を…」
【あぁ、分かってる、許可する】
「そうですよね、無理ですよね、そこをなんとか…って、えっ?」
あっさり許可が取れたことにクレスは驚く。するとランジーはこんな事を言い出した。
【隊長と…変わってくれないか?】
「あっあぁ……隊長さん、課長がお前に変われと」
「何?」
永戸はクレスからEフォンを受け取ると、ランジーと連絡を取る。
「課長、どうかされましたか?」
【永戸……いや、"英雄"、お前達は今、何をやろうとしている】
しわがれた声でランジーは永戸に問いかける。永戸はまっすぐ答えた。
「世界を救おうとしています」
【……そうか、この仕事が命懸けなのは分かっているのだろう、何故お前達は戦える】
「それが、"四課の使命"だからです、俺たちが戦わなければ、世界が滅び、悲しむ人が出る。それを出さない為にも、俺たちは、命懸けで戦います」
【……そうか】
ランジーは電話越しで咽び泣くような声を出す。その声を聞いた永戸はランジーに聞いた。
「課長?」
【…俺も昔は大戦に参加してたと言ったな、だが俺は英雄になれなかった、どれだけの作戦に参加しても誰も救えず、死人ばかりを出した。着いたあだ名が死神だ、笑っちまうだろう、死神部隊と呼ばれた四課の課長が、本物の死神だったのだから】
「…俺は笑いません、俺も…フィーネも…同じように救えなかった人たちがいましたから」
【俺はもう、誰も死人を出したくなかった、だからお前らへの依頼を簡単なものにすり替えてきた。だけど、お前達が危険を承知で世界を救おうとするなら、もう俺は止めない。縛りつけもしない。だが条件がある。隊長、絶対に……誰も死なせないでくれ】
「了解」
そうして電話が終わると、転移でメルトがやってきた。
「隊長! 武器! 持ってきましたよ!」
「ありがとう、武器を届けてくれて、それと、助けにもきてくれて」
永戸は感謝すると、自身の聖剣や武器を手に取る。フィアネリスも武装のデバイスを受け取り、ついでに神癒奈の武器も手に取り、準備ができた。
「あの、神癒奈…さんは?」
「今あいつは儀式の生贄のフリをしている。もうすぐ儀式が始まるところだ」
そう言ってると儀式が始まり、神癒奈が噴水から変わった儀式台の上に登る。
「今宵、この奴隷が供物として神に捧げられ、神は降臨します! 皆様! どうか神に祈りを捧げてください!」
民衆が祈りを捧げると共に、魔術師達が詠唱を開始し、神を神癒奈に降臨させようとする。その瞬間だった。
「今だフロー! お前の能力でぶち壊せ!」
「はい! 隊長殿! 『黙れ!!』」
フローが願いながら言った途端、詠唱が途中で停止され、同時に降臨がディスペルされる。その瞬間、神癒奈は元の姿に戻り生贄の台を破壊した。これでまともに召喚は行えなくなっただろう。
「なんだ⁉︎ 奴隷の狐が、いきなり大きく! それになんだこの騒ぎは!」
「私はイストリアの者です! 禁忌の研究を止める為にここはやってきました! 今すぐお縄についてください!」
「ぐっ! イストリアの犬が紛れ込んでいただと⁉︎ 者ども! 奴らを殺せ!」
ゾロゾロと兵士がやってくる中、フィアネリスが神癒奈の方まで飛び、刀を受け渡す。
「神癒奈さん! これを!」
「これは…夜廻桜! 課長の説得に成功したんですね!」
迫る兵士を、神癒奈は妖刀夜廻桜で切り伏せて行く。永戸達も戦いに参加しようとした時だった、その時別方向からも兵士たちに向けて攻撃が飛んできた。
「別勢力⁉︎」
「いいえ違います! あれは、私たちの味方です! 別の世界の特査四課の方です!」
そうしてやってきたのは闘技場の時に神癒奈と共に戦った男だった。永戸はその男と挨拶を交わす。
「第61支部の四課の永戸だ、よろしく頼む」
「私は第85支部四課所属、デュレーだ、こちらこそよろしく頼む、英雄部隊の者よ」
そうして互いに挨拶を交わすと2人して敵の方に向いた。すると通信が入ってきた。
【英雄の実力を、"四課としての使命"を俺に見せてくれ、俺に希望を与えてくれ】
「分かりました、課長、行くぞみんな!」
『了解!』
永戸達は、王国の兵士と戦闘を開始した。




