作戦開始
ひとまず、永戸達は一度集まることにした。人気のいないところに集まると、人はらいの術を展開し、情報交換を行う。
「神を降臨させる儀式…で、限定的ながら、その実験には成功してたと」
「はい、王族は、奴隷に天使を憑依させてました、で、そっちは…」
「あぁ、神を降臨させるための魔法陣を見て来た。形は図の通りだ」
Eフォンのデータベースから、永戸と神癒奈達はその図を見る。その魔法陣の形は神の降臨とは裏腹に禍々しい物だった。
「この魔法陣、元は悪魔降臨のものを強引に転用したものでしょうね、だからこのように禍々しい形なのでしょう」
「そんな事ができるんですか?」
「悪魔とて魔神という存在があります。上手く転用すれば、魔神から通常の神の降臨も可能になるでしょう、しかし……」
フィアネリスは牢獄で見たものを思い返すと拳を握りしめる。
「……強引な転用により、降臨術式はまともに作動せず、中途半端な降臨となってしまい、あのように"なり損なって"しまった、このまま行けば、神の降臨も同じ結末に陥るでしょう」
「あの! そもそも降臨させて、一体どのような行為をこの王国はさせるのでしょうか⁉︎」
フローレアが聞くと、フィアネリスはいつの間にか収集して来た音声データを流し始めた。
【神の降臨の儀式の準備は順調かね?】
【はい、少々術式に難はございますが、概ね実験は成功しています、あとは今年の祭りで捧げられる奴隷を生贄に捧げ、愚民共の魔力を吸って憑依させれば…】
【この世界は儂達の物になる…くかかっ、実に単純な世界だな、神さえいれば世界が手に入るのだから!】
音声データはここで終了し、その場の全員は考える。
「これは、この国の国王の会話を記録した内容です」
「ここの王国の国王は、他国の侵略の為に神を降臨させようとしてるのか」
「ですが、このまま行くと、降臨には確実に失敗するでしょう、半端な術式で召喚をさせようとしてるのですから」
「失敗したらどうなる?」
「神ではなく魔神が降臨し、世界が滅ぶでしょう」
それを聞いたクレスはおったまげたのかくらりと倒れかける。
「世界が滅ぶとか…マジで言ってんのか」
「ええ、大真面目で言ってますよ、放置してはならない問題です。やはりこの任務に来て正解でしたね」
「正解とかそんなんじゃねぇよ! 世界が滅ぶ⁉︎ そんな大それた問題を俺たちが解決しろってか!」
クレスがそう叫ぶが、永戸と神癒奈は冷静に言う。
「そうだ、それが、異世界特別調査隊四課の役目、俺たちに与えられた任務だからだ」
「ボランティア部隊は仮の姿、本来の役目は世界をどんな手段を用いても救う事ですからね」
それを聞いたクレスは四課の本来の目的を思い出した。フローレアも同じことを思い出すが、2人はその目的を飲み込めずにいた。
「…四課に入った時点で、俺たちの人権は無くなったような物だ、俺たちはイストリアの影、人知れず戦い続ける裏の英雄だ」
「けどよ…いくらなんでも新兵の俺たちじゃどうしようもないぜ、隊長達だって武器を取られてるし、魔神ともし対決するような事があれば…」
「……クレス、なら、お前に頼みたい事がある」
「俺に?」
クレスの肩に手を置き、永戸は言う。
「メルトを連れて来てくれ、それと、課長から武器の使用許可を取って来て欲しい」
「俺に…なんで?」
「課長との交渉に俺たちが行っても突っぱねられるだけだ、頼れるのは、新兵で俺たちのことをよく見ている、かつ交渉が上手い奴しかいない。その役にはクレス、お前が適任だ」
「俺にあの頑固な課長を黙らせてこいって言うのか…」
「……頼む」
永戸達がもし仮に課長のランジーと話をしても水と油の関係のように話はうまくいかないだろう。永戸達をよく見ていて、課長のランジーと交渉をできるとしたら、クレスが間違いなく適任だった。
「分かった! 分かったからそんな目で俺を見るな! でも期待はあまりするなよ、あの頑固課長を黙らせられれるかは正直未知数なんだからな」
「ありがとう」
「フローは! フローはどうすればいいでありますか!」
「フローは俺たちと一緒にいてくれ、この中で大どんでん返しを可能にしてくれるのはお前だ、万が一の切り札として温存しておきたい」
本当は一番危なっかしいから目の前に置いておきたいんだが、と永戸はこっそり思うが、口にせず黙っていた。
「私はどうしますか?」
「神癒奈は………多分、一番過酷な役目になると思うけど、いいか?」
「貴方の命令なら、なんでも信じますよ」
「よし、なら……」
そうして永戸達は作戦会議をして行った。
ーーー
そうして作戦決行の祭りの日、永戸達は行商人の格好で街を歩く。辺りはすでに祭りのムードで浮かれており、永戸達はそんな中歩き回っていく。
歩いて到着したのは闘技場で、参加者の入り口に、一匹の小さな狐の少女を連れていった。
「神に捧げる奴隷を決める闘技大会にエントリーしたい方はどうぞこちらに! 参加させる奴隷と所持者自身の名前の記入をどうぞ!」
「じゃあ、登録させていただこうかな、ほら、くるんだ」
鎖で繋がれた狐の少女がやってくると、永戸と共に参加登録を行う。
「はい! ナガト様とミユナでございますね! では奴隷はこちらに」
「まぁ、せいぜい頑張るんだな、神への供物に選ばれる為に」
嘲るように永戸が笑うが、当然嘘である。一尾の狐の少女に擬態した神癒奈が、奴隷として参戦し、優勝をもぎ取って、その後の儀式にて正体を表して儀式をぶち壊す、そういう算段だ。
永戸は観客席に行き、神癒奈の健闘を祈る。そうしていると、試合が始まろうとしていた。
ゾロゾロと奴隷が集まっていき、その中の1人である神癒奈も小さな剣を持って円を描くように奴隷達が闘技場に並ぶ。
「ではこれより! 国王主催による、祭りの生贄を決める試合を始める! 奴隷ども! 構え!」
奴隷達が構えたり、恐怖で構えなかったりする中、神癒奈は剣を構える。
「始め!」
司会の言葉と共に奴隷達が一斉に戦いだす。戦えない奴隷はあっという間に殺され、その場には戦意のある奴隷のみが残される。そんな中、神癒奈は一筋の線を描きながら次々と奴隷を倒していた。
「なんだあの一匹の狐は!強さが段違いだぞ!」
「あんな小さな体の、いったいどこにそんな力が!」
たとえどれほど巨体の奴隷が相手でも、小さな剣一本で切り伏せる神癒奈に観客は驚いていく。神癒奈自身の呼吸は落ち着いていて、まるでアイススケートを滑るように奴隷を薙ぎ倒していく。
(そう言えば前に闘技場でアーティファクトを取って帰る時の依頼の時もこんな感じでしたっけ)
以前受けた依頼の事を思い出しては感傷に浸る神癒奈、だが、あの時とは規模と状況が違う。神降ろしの儀式を止める為に自分は戦っているのだ。聖遺物一個のために戦いに来たわけではない。そうして戦っていると、神癒奈の剣戟が止められた。
「っ!」
素早く下がると奴隷にしては身なりの整った者が同じく身を引いていた。
「貴方…普通の奴隷ではありませんね、何者ですか?」
「そちらこそ、見た目こそ少女だが身体からただならぬ覇気が漂っているぞ、同業者だな?」
互いにゆっくりとその場で回転しながら所属を言う。
「私は、イストリア第61支部異世界特別調査隊四課の者です」
「同じく、イストリア第85支部異世界特別調査隊四課所属…名前は…言わずともいいか」
そうして互いに所属を言った途端、互いの背後に攻撃が迫るが、互いに攻撃をしては不意打ちを2人で凌いだ。
「……この場は、互いに共闘をした方が無難なようですね」
「そうだな、力としてはそちらのほうが上だ、優勝はそちらに譲る。その後の作戦行動も共にしよう。共に協力して乗り越えようか」
「はい!」
神癒奈と男は2人合わせて戦いを続行し、奴隷達を倒していく。次第に奴隷の数は減っていき、残すは10人程となる。
「神の生贄に選ばれれば! 俺たちは救われるんだ…!」
「絶対に負けるわけにはいかないんだ! 領主に殺されるより、生贄に選ばれる方がマシだ!」
「無様だな、どう足掻いても救いなどないと言うのに」
「終わらせましょう、この無意味な戦いを」
神癒奈は奴隷の1人に踏み込むと、剣を切り上げ、一撃で切り伏せる。そのままくるりと回転すると2人目の方までいき、ゼロ距離で術を放つ
『絶火!』
最低収束の焔の銃撃を放つと、奴隷は腹部を大きく焼かれては吹き飛ぶ。
「ぬおおおおおお!」
「くっ!」
一回り巨体の奴隷が大剣を切り下ろしてくる。神癒奈はそれを自身の能力、加速と停止の力場の停止の力場で止め、そのまま弾き返すと、剣を突き刺し、そのまま切り上げた。
そして、最後に残った奴隷を頭上から切り下ろして倒す。これで残ったのは先ほどの男と神癒奈だけだ。
「…ごふっ……もう……戦えない」
神癒奈に目配せすると、男は吐血して力尽きるフリをして、倒れる。これで勝負は決まった。
「今! 勝者が決まりました! 今宵の生贄に選ばれたのは、あの狐の少女でございます!」
周囲の人間が一瞬驚きを見せるが、次の瞬間、歓声を上げては神癒奈を祝福した。その祝福を受け、神癒奈は少し照れるも、観客席の永戸が頷く顔を見て頷き返す。
本番は、ここからだと。




