初の大型依頼
永戸達が第二支部の四課で書類仕事をしている時のことだった。
「うーむ……」
珍しくランジーが唸っている様子が見えた、永戸はどう言う事だろうとランジーに聞く。
「何か困り事でもありましたか?」
するとランジーはギョッとした顔で答えた。
「ああいやなんでもない、お前らには関係のない事だよ」
そうは言うが、永戸が立ち上がって見てみると、ランジーは一枚の紙を見て唸っていた
気になったので仕事をしつつ横目で見ていたが、彼が席を外して部屋から出た隙にその紙を見てみる。
「特命……イストリア第二支部異世界特別調査隊四課は、この地へ行き、その土地の王国内に潜入、王族が行っている禁忌の研究を停止させよ」
「潜入の依頼ですか。しかも王国となるとそれなりの大きさになりますね? でも、今回行くとしたら私たち、だいぶ不利ですよ、武器も取られてますし」
紙の写真を撮ると、四課隊員全員のEフォンに共有する。四課のメンバー全員はその依頼書を見たが、内容を見て仰天した。
「禁忌の研究を止めろだぁ? 相手は王国全てになると言うんだろ? 無理があるぜ」
「流石にこの依頼は私でも挑むのはちょっと…」
「こ、これって私たち宛の依頼なんですよね⁉︎ む、無理です! この人数でこんな依頼だなんて!」
新兵3人は当然無理だと言い切った。それもそうだろう、彼らはまだまともにこのレベルの依頼の経験を積んでいない。無理だと言われても仕方がない。
そう言ってると、ランジーが戻って来た。
「なんだお前ら、何ぼーっと突っ立ってるんだ、仕事をしないか」
「課長、その机の紙見させてもらいましたけど、いくら俺たちでもその依頼は無理ですぜ」
「なんだ、この紙を見たのか、そうだ、我々では不可能な依頼だ。いくらお前らが四課の隊員でも、この依頼は達成できまい、俺が本部に言って取り消させてくるから、お前らはいつも通り仕事してろ」
そう言ってはランジーは紙を持ってはまた部屋から出ていく。それを見送ると、永戸達はどうするか考える。
「依頼に行くぞ、総員、装備の準備」
「なぁおい! 今回ばかりはやめとかねぇか! 課長だって依頼を取り消すって言ってたし」
「禁忌の研究とやらを見過ごすと言うのか? 放っておくと事態が悪化するんだぞ、その前に止める」
「……あーはいはい、分かりましたよ、どうせ何言ってもあんた達は止まらないんだろう、ついていきますよ」
永戸達の性質を見て来たクレスは諦めたように永戸についていくと言う。他のメンバーはバラバラの意見を言った。
「隊長殿達は、止めても、止まりませぬよね、分かりました、このフロー、危険を承知で着いていきます」
「私は、反対、です! こんな危険なのに、着いていくのなんて、とても怖くてできません!」
「……そうか、メルト、お前はここに残れ、曲がりなりにもお前らは新兵だ、恐れる気持ちもわかる。それに、万が一の時があった時のための補充兵要員として残しておきたい」
「はい!」
そうしてメルトを残すと、永戸達は装備を持ち、出発する。
転移装置を使って異世界を渡り、暫くの間転移空間を渡ると、転移が完了する。
「おおー! あそこが今回行く王国なのですね!」
「結構広いですね? 禁忌の研究って見つかるのでしょうか?」
「それは行ってみてから考えよう、行くぞ」
王都の中に入るべく、永戸達は歩き始める。暫く歩くと王都の門の前までたどり着いた。
「現在王都には通行規制がかかっている、ここを通りたくば通行証を見せろ」
通行証、そんなの持ってたっけと新兵の2人がオドオドする中、神癒奈がはいと通行証を渡した。
「ふむ…確かに確認した、通って良し!」
そうして一行は王都の中に入る。一体どこで通行証なんて調達したんだと新兵2人は思うが、神癒奈は言った。
「狐特有の幻術に決まってるじゃないですか、まんまと門番は狐に摘まれたってことですよ」
ぺろっと舌を出しながら神癒奈は偽物の通行証を焼き消す。まさかそんな芸当ができたとはと新兵達は思った。
「さて、これからどうしようか」
「禁忌の研究がされてるのでしょう? 王城に直接乗り込むのが早いのでは?」
「確かにそれが一番早い、けど……一番危険だぞ」
「でしたら、手当たり次第に王都を散策すると言うのはいかがでしょう?」
この広い王都をたった5人でローラーするのかと永戸は考える。万が一の事があれば大変だ。だが、フィアネリスと神癒奈は言う。
「問題はございません、私が観測で研究場所を探知し、その間に皆さんが別々に行動をして探しまわればいいのですから」
「そうだな……じゃあ……フローは俺とついてこい、神癒奈はクレスと行動を共にするんだ」
「わかりました! 隊長殿!」
「はい! 永戸さん!」
「はいよ、隊長さん」
と言うわけで永戸達は別れ、それぞれ別行動で王都を探索することとなった。
ーーー
永戸達はまず街の人から何故通行規制がされてるのか聞いてみる。
「もうすぐ王国で祭りが行われるから、外部の人を入れないようにしてるんですよ」
「祭り? それってどんな祭りだ?」
「毎年行われる祭りで、奴隷を生贄に捧げて神々に豊作を願う祭りをしているの」
「奴隷……」
奴隷と聞いた瞬間、フローレアが手をぎゅっと握りしめるが永戸が静かに静止させると話を続けた。
「他にどんな祭りがされるのですか?」
「奴隷同士を戦わせて、その勝者が、神への生贄へと捧げられるの。労働くらいしかできない奴隷が、神への供物へと捧げられるの、とても素敵な事だと思うわ」
「そのような蛮こ…!」
フローレアが怒りそうなのを永戸は抑え、礼をするとその場から離れる。
「何故止めたのですか! この王都ではそんな邪智暴虐な行いがされてるのですよ!」
「走れメロスって話を知ってるか? 王国で行われている蛮行に怒ったメロスが起こした行動が王を殺しにかかると言う話だ」
「そのメロスがどうかしたのですか?」
「その話の流れだが、メロス1人じゃどうにもならず、捕まってしまうんだ。まぁなんやかんやあって感涙ものの終わり方をするんだが、今、もし仮にフローが1人でここでテロでも起こしてみろ、たった2人で王国の兵士全員と相手することに、潜入の計画は破綻し、最悪、お前が救おうとした奴隷と戦う可能性だってあるんだぞ、少しは冷静になれ」
永戸はフローレアの頭をデコピンすると考えた。
(神への供物……その生贄に奴隷を選ぶなんて、随分と腐った土地勘してるんだな……この王都に、神は存在するのだろうか)
そうして考えていると、フィアネリスから通信が入った。
【皆さん、禁忌の研究が行われているとおもわしき場所がわかりました、場所は、王都中央の噴水付近と王城地下です、それぞれ向かっていただけますか? 貴方達の目を通して確認したいので】
「分かった」
フィアネリスに言われた通り王都中央の噴水広場まで行く。そこには、なんの変哲もない大きな噴水があるだけだった
「本当にここなのか?」
【ええ、マスターの目を通して、確実に捉えました、今あなた方の目に私の目で見えているものを反映させますね】
フィアネリスから視覚の情報が伝達され、永戸達は噴水の本当の姿を見る。それを見た途端、永戸とフローレアは仰天した。
「これは……!」
「噴水の形をした…魔法陣!」
フィアネリスの目を通すと、噴水付近に大きな魔法陣が敷かれているのが見えた。魔法陣の形からして、タイプは召喚型だと永戸は思う、だが、噴水どころか広場全体まで広がる大規模な魔法陣となると、ここら一帯の人が影響を受けることになるだろう。このレベルなら、間違いなく、神の召喚は可能だ。
【恐らくそこが、生贄を捧げる場でしょう。ですがこの魔法陣は最近敷かれた物ですね、比較的新しい物です、研究は本当に最近行われ始めたのでしょうね】
「もしこれが起動したら被害はどれだけでる」
【周囲の人間が昏倒で済めばいいですが…神の召喚となるとエネルギーを吸い尽くす危険性がありますね…】
「……どうにかして、止めなきゃな」
このまま行けば街の人は神の降臨の為に死ぬことになるだろう。永戸とフローレアはその場に佇み、噴水を睨むばかりだった…。
ーーー
「水路から侵入するとは、大胆な行動をとるなぁ、下水道だったらどうしたことか」
「文句言わないでください、いくら私が防音妖術をかけてるとはいえ、声が漏れる可能性だってあるんですよ、あと、そのステルスクロークは絶対に脱がないでくださいね」
一方、神癒奈達は水路を通って城の地下へと侵入していた。なるべく音を立てないように水辺に上がり放熱で乾かすと、行動を開始する。
見たところ城の兵士は誰もいないように見えた。
「行きましょう、フィアネリスさん、ナビお願いしますね」
【かしこまりました】
「本当にこんなところに禁忌の研究があるのかねぇ」
フィアネリスに言われるがままに地下を進んでいく。2人ともステルスクロークと幻術で姿が消えた状態で進む。地下は牢獄となんらかの研究施設になっており、何かが試された跡があった。
【これは、召喚術式ですね、広場の噴水と同じものの、ですがダウンスケールしたものとなっております】
「この召喚術だと何を呼べるのですか?」
【呼べたとしても天使程度で…いや、変ですね、広場の術式を見てても思ったのですが、これは召喚術式ではありません、どちらかといえば降臨の術式です】
「どう違うんだ?」
クレスが言うと、フィアネリスは説明を始める。
【召喚の場合、なんらかのコスト、例えば魔力や生贄などを支払って、対象をその場に呼び寄せます、ですが、降臨の場合、コストこそ支払いますが、その場にあるものに降臨させたいものを憑依させるので、低コストで召喚を成功させられます】
「なるほど、で、ここの王族は一体何をやらせようとしてるんだ?」
「多分…やろうとしていることは…」
神癒奈は奥にある牢獄を見る。その牢獄にいたのは天使とも、そうとも似つかない人の形をした獣だった。
「返シテェ……元ノ世界ニ…」
「っ!」
クレスはとんでもないものを見て嘔吐しそうになるが、堪えた。神癒奈はそれをまっすぐ見る。
「これが……禁忌の研究の成果なんですか?」
【はい、正直に言えば、私も憤慨物ではございます。同族にこんな仕打ちをしてくれたのですから…】
話し声からして、フィアネリスが怒っているのがわかる。それを知った神癒奈は静かに怒りを燃やすと、クレスを連れてその場を後にした。




