いつもの教室
授業が終わり、僕は家路についた。
先輩が卒業した今、いつもの教室に向かう理由もなくなっていた。
校庭から教室を見上げる。カーテンは閉じられ、中の様子はうかがえない。
もうあのカーテンを開けて、先輩とくだらない雑談をすることはないのだと実感し、胸が寂しさで満たされた。
家の前に、一台の車が停まっていた。
先輩の車だ。
「待ってたよ」
「それだったら学校まで迎えに来てくださいよ」
そう言いながら、僕は車に乗り込んだ。
「それはちょっとイキってるみたいで恥ずかしいじゃない」
先輩が缶のココアを飲みながら言う。
「それで?今日はどうするんですか?」
「引っ越しまであと3週間。それまで君と遊び倒すのよ」
そう言って、車はゆっくりと走り出した。
しばらくすると、先輩がぽつりと呟く。
「君とこうなるのも、宇宙が誕生する前から決まっていたのかしらね?」
「運命の話ですか?」「
「告白はいじらないでくださいよ……こっちは本当に倒れそうだったんだから」
「ふふ、ごめんなさい」
先輩が笑う。
「でも、先輩の理論では、その努力することすらも決まってたんでしたっけ?」
「私の理論では、そうよ」
「別に決まっててもいいんじゃないですか?」
「え?」
「実際問題、未来のネタバレなんてできないんですから。先輩と楽しく過ごせるなら、それでいいんですよ」
「……そうかしら?」
「そうですよ」
そう言うと、二人で笑った。
もしかしたら先輩が言うようにこの瞬間も、ずっと前から決まっていたのかもしれない。
――でも、それなら、それでいい。