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海の見える街

「明日は海を見に行きます」

散々遊び倒した先輩がコーヒーを飲みながら言った

自分たちが暮らすこの町には海がない、海が見たければ車で2時間以上かかる、内陸に暮らす自分たちにとっては海は遠出の象徴だ。

「そんな遠出して大丈夫ですか?」

「高速はまだ少し不安だからした道で行けば大丈夫」

「そうですか、まあ気を付けていきましょう」

「じゃあ、明日も同じ時間に迎えに行くから」

そういって家路についた


翌朝、しとしとと降る雨音で目が覚める、今日は折角海へ出かけるというのに朝からこれでは気が滅入る。

先輩に連絡し、このまま決行するか別日に変更するか連絡すると、「海で泳ぐわけじゃないからいいんじゃない?」そう返信があった。

用意を済ませ外で待っていると先輩の車が家の前に止まった。

「雨なんだから家の中で待ってたらよかったのに」

「親にみられたら後でからかわれそうなんで」

「でもそこから見てるわよ?」そう言いながら先輩は軽くお辞儀をする

思わず家の方を振り返ると、母がカーテンの隙間からニヤニヤしながらこちらを見ていた。

「最悪」

「まぁいいじゃない、母親にとって息子の色恋なんて最大の娯楽よ」

そういって車は海へ向けて走り出す。


ワイパーが規則的に動き、窓を伝う雨粒が景色を歪ませる。

「冬の海って、どんな感じなんでしょうね」

ふと漏れた言葉に、先輩は前を見たまま微笑んだ。

「今まで冬に海に行こうと思った事ないからね、でもきっと海はどんな時でも奇麗だよ」

「でも雨降ってますよ?」

「荒れた海にもいい所はあるよ」

「そういうもんですかね」

「そういうものよ」


そんな雑談をしながら車を走らせていると、建物の合間に海が一瞬見える

「先輩、今海が見えましたよ」

「本当?見逃してしまったわ、このあたりで車止めて海が見られそうなところある?」

「うーん…この近くの海沿いに公園があるみたいですよ、たぶんそこなら見れると思います」

「じゃあそこに行ってみましょう」

公園につくと車を止めて海が見えるところに移動する。

「荒れてますね…」

海は荒れて、堤防には波が打ち付け波しぶきがあたり一面に降り注いでいた。

「そうね、でも遊園地みたいで楽しいじゃない」

先輩が楽しそうに波しぶきの中を歩く

「水に落下するアトラクションですか?」

「そうそう」

先輩の楽しそうな姿に自然と笑みがこぼれる

「先輩あんまり濡れると風邪ひきますよ」

「いいのよ、特に予定ないんだから」

「だめですよ、卒業式明日なんですから」

「そうだったかしら」

「近くにカフェがあるみたいなんで、そこで暖かい物でも飲みましょうよ」

そういって僕たちはカフェに向かって歩き出した


カフェに入ると、大きなガラス窓の向こうに雨の海が広がっていた。

店内は暖房がきいていて、ほっと息をつく。

「何飲みますか?」

「ブラックコーヒー」

「先輩実はブラック飲めないでしょ」

「そんなことないわ、朝だって飲んでいたでしょ?」

「ごみ入れに僕が使ったものじゃない砂糖の袋入ってましたよ」

「バレてたの。少しくらい大人ぶりたかったんだけど」

先輩が口を尖らせながらいった、その姿に思わず笑ってしまう

「それで何飲みますか?カフェオレですか?」

「……ココア」

「斜め上来ましたね…」


頼んだ飲み物が届き暖かい香りがあたりを包む

少しの沈黙の後口を開いた

「明日卒業ですね」

「そうね」

そう言いながら先輩がココアをすする。

「3年間どうでしたか?」

「楽しかった、幸い友達もできたし、成績に困ることもなかったし、それに放課後は君もいたから」

「そうですか、それならよかったです」

「そうね、3年間特別な事は無かったけど、それが楽しかった。きっと後々この何でもない日々が特別に思えるんでしょうね」

「そういうもんですかね」

「私はもうそれが味わえないから、特にそう思うのかも」

先輩は少し寂しそうに言った

「僕も残り1年大切にしないといけませんね」

そう先輩に同調する、けれどその1年には先輩の姿がない事を思うと胸が締め付けられる。

「そうしんみりすることもないわよ、死ぬわけでもないんだから」

先輩が明るくふるまう

「そうですね、卒業しても連絡取れますからね」

「それでこの後、何か予定あるんですか?」

「この近くにね少し寄りたいところがあるの」

「へー、じゃあそこ行きましょうか」

僕たちは車に乗り込むと、先輩がスマホを見ながらナビに目的地をセットした。。表示された場所はここから10分ほど町の方に行ったところだった。


目的地に着くとそこには5階建て程度のマンションがあった。

「ここは?」

思わず先輩に尋ねる

「私の引っ越し先」

「えっ?」

もっと地元から近い所だと思っていたからその言葉に驚く

「今日は下見も兼ねてたの、私用に付き合わせてごめんなさい」

「…それは別にいいですけど……」

「引っ越し先、思ってたより遠いんですね…」

「…そうね君の家から電車とバスを乗り継いで2時間くらいかしら……」

「そうなんですね…」

思わぬ事実に次の言葉が出ず、沈黙が流れる

「あと君に覚えておいてほしくて」

先輩がこちらに向き直し言葉をつづける

「だって教えておかないと、一人で来れないでしょ?」

先輩が微笑みながら言う。先輩の微笑みを

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