運命の話
「君は運命を信じる?」
彼女は本を閉じ、突然問いかけてきた
その唐突な言葉に首をかしげる
「運命の出会いとかそういったもの」
「ああ、まああるんじゃないですかね?」
「私はね、運命はあると思う。でも運命って言葉が嫌いなんだよね」
「どうしてですか?運命なんてロマンチックじゃないですか」
「どれだけ人が努力しようと、すべて運命で決まっている、努力したことも、その結果すらも……この世に起きているすべての出来事は、運命という名の必然で雁字搦めなんだよ」
急に壮大な話になり理解が追い付かない
「ピンと来てないようだね、うーん、例えば君はピタゴラスイッチって番組を見たことがある?」
「あの教育番組の?」
「そう、あれを想像して欲しい、あの番組を最初から最後まで見ていたら最後スイッチが押されて旗が上がることは必然でしょう?そうなるように設計されているのだから」
「まあ、そうですね」
「けれどあれの1部分を切り取って、連続性をなくして放送した時、それは偶然となる」
「?」
「じゃあ、もっと現実的な話にしようか?例えば私が居眠り運転の車に引かれたとしたら偶然かい?」
「状況が分からないですけど、たぶん偶然じゃないですか?」
「じゃあ通学時、家を出た所でひかれた場合は?」
「それでも偶然でしょう、いつ家を出るか分からないですし、車がいつ来るかもわからない」
「もう少し状況を詰めてみようか、私は毎日5時30分に起きて朝の支度をする、その後6時15分から朝食を食べ始めて、朝の占いを見てから登校する」
「起きるの早いんですね」
「女の子は準備に時間がかかるのよ、話を戻すわね、一方車を運転していた方は6時30分に家を出て7時頃私の家の前を通る」
「でも居眠りするかどうかは分からないじゃないですか?」
「連日の徹夜で眠気が限界だったとしたら?」
「それでも連日徹夜をしていたのもそのタイミングで居眠りをしたのも偶然じゃないですか?」
「そこで連続性の話よ、いつもは8時間寝ないと会社でも居眠りを仕掛けてしまう体質であったが、彼の勤務する会社は月末は繁忙期でいつも徹夜で作業をしていた、それに加えて最近人が辞めてしまい負担が彼にのしかかっていて居眠りをしてしまうのも仕方がなかった」
「けれど6時30分に家を出ると選択したのはその人でしょう?」
「人は選択する時過去の経験からより良いと思う選択をするものよ、彼は6時30分以降に家を出た場合渋滞に嵌り会社に遅刻することを知っていた。」
「渋滞しないかも」
「毎朝渋滞してるんだもの、皆自分にとっての最適な選択に従って行動した結果渋滞が起こっているのよ」
「うーん、じゃあ事故にあったのは必然ですかね」うまく丸め込まれたようで少し納得いかないが同意した
「まあ例えだから納得いかなくてもいいけれど、結局私が何を言いたいかっていうと、すべての物事は必然が複雑に絡み合っていて、偶然が入り込む余地がないって事」
「偶然が?じゃあ今まで起きたこともこれから起きることも全部決まってると?」
「きっと宇宙が誕生する前から、君とここでくだらない話をすること必然だったのよ」
「じゃあ必然によって決まっているなら未来予知も可能って事ですか?」
「天気予報みたいにね、ただこの場合予知ではなくて未来のネタバレになるのかも」
「そんな物語みたいに…」
「この世の中は物語なのよ、自分で決めているようで実は既に決まっている、自由なようで不自由な物語」
「結局?」
「知らないことで私たちは努力することができるし、自由を感じられるって事」
夕暮れに染まる教室。二年間、たわいもない話を続けてきた先輩。一週間後、僕は彼女に告白する。